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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification7 suarra 魔女狩り村に火葬場はない
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獄炎の解明

「お姉ちゃんたちも大変だね……折角帰ったのに、また戻れだなんて。」


 塚井家に寄ってUターンし、滝日村に行く道中。

 大門の車に拾い上げられた美梨愛は、ため息を吐く。


 滝日村で起きた、連続殺人事件。

 第一には、塚井の見合い相手である塚光家の屋敷での、納屋に始まり母屋まで巻き込んだ放火殺人事件。


 ここで発見された遺体は、見合い相手の御曹司・国明の実父たる陽太だとDNA鑑定で判明する。


 第二には、塚井共々大門が拉致され、目撃者に仕立て上げられた、教会の密室放火殺人事件。


 この事件では塚光家のメイド・鳥間郁美が撲殺死体となり発見され、直前まで犯人によって電話をさせられていた塚井の心に影を落とすことになった。


 そうして、第二の事件の取り調べが終わり。


 美梨愛は一足先に、塚井家に戻っていたのだが。

 先ほどの国明からの電話により、塚井の関係者ということで呼び戻されることになった。


 結局それにより、今美梨愛が言った通りの流れで一度塚井家に帰り、そこで彼女を拾った大門の車が滝日村にもう一度戻る。


 後ろからは塚井の両親が乗る車が尾いて来ている。


「ごめん……美梨愛。」

「いや、お姉ちゃんの謝ることじゃ……一応、私も関係者だし。」


 塚井姉の言葉に、美梨愛は手をひらひら振る。


「塚井。いつまでも悲しむことないよ。」

「そうよ塚井! いつまでも落ち込んでいないで。」

「そうです! 間も無く大門が解決してくれますから!」

「はい……ありがとう実香、ありがとうございますお嬢様、日出美さん……」


 塚井は妹子と日出美に、笑顔を見せる。

 その、大門はと言えば。


「(納屋での遺体……そして放火された教会……か。)」


 運転に集中しつつ、大門は事件のことを考えていた。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「あ、真尋さん! 大丈夫でしたか?」

「あ……く、国明さん……」


 滝日村の旅館にて。

 到着した大門たちは、国明に出迎えられる。


「二度も殺人事件の目撃者に仕立て上げられるなんて……心中お察しします。」

「あ……ありがとうございます。」


 塚井は言いつつも、大門の方をちらりと見る。

 大門は、旅館のロビーを見渡していた。


「……真尋さん?」

「え! あ、す、すみません……」


 塚井は顔を赤らめ、謝る。


 ◆◇


「(うん、関係者は集まっているな……あれ?)」


 大門はロビーを見渡しつつ、首を傾げる。

 見えたのは、国明と。


 国明の亡母の幼なじみたち、麻里・紀子・奈々。

 そして今ここに来た大門たちや塚井の家族。


 しかし、()()()が見当たらない。


「(たしか……比賀さんていたよな。)」


 麻里らと同じく、国明の亡母の幼なじみである祐司が見当たらない。


 と、その時だ。


「ちょ、ちょっと大門君あれ!」

「な……!? 煙が!」


 実香の声に、大門は窓の外を見て驚く。


 旅館の窓からは、煙が見えた。

 大門は旅館を飛び出す。


「あそこは一体……」

「そう言えば……祐司が来てない!」

「あっちの方向には、祐司のビニールハウスがあったはず!」

「!? そ、そうなんですか!」


 共に出て来た奈々や紀子らの声を聞き、大門は走り出す。


「あ、待って! 片道だけでも30分はかかるから!」

「あ……承知しました。」


 大門は、車を出しに行く。


「大門君! 待って、あたしたちも」

「九衛さん!」


 声に大門が振り返れば、そこには実香や塚井もいた。


「駄目です、皆さんは来ちゃ!」

「! 大門君!」


 珍しく自分たちの申し出を無碍に断る大門に、実香たちは動揺するが。


「待っていてください……お願いだから。」

「……はい。」

「……分かった。」


 大門に説得され、実香と塚井は引っ込む。


「消防に知らせて下さい! ……あの、久住さんでしたっけ? 比賀さんのビニールハウスまで、案内を頼めますか?」

「あ、はい! ……ごめん紀子、奈緒樹お願いできる?」

「分かった!」


 こうして奈々を乗せ、大門は車でビニールハウスまで急ぐ。


 ◆◇


「比賀さん!」

「祐司!」


 ビニールハウスに着いた大門と奈々だが、ビニールハウスからは火は出ていなさそうだ。


「久住さんはこちらにいて下さい! 僕は見て来ます!」

「あ、はい……」


 奈々を残し、大門は走り出す。

 煙が出ている辺りの地点へと。


「!? こ、これは……」


 出火場所に着いた大門は、煙の元となっているものを見て絶句する。


 それは、灯油缶にくべられた発煙筒だった。


「くっ……ん! 消火器か!」


 大門は近くに設置されていた消火器を取る。


 そのまま、勢いよく中身を火元に噴射した。

 第二の事件の時もこれがあれば――


 そう考えかけて止める。

 消火器程度では間に合わなかっただろうし、何より現場に向かえる状態ではなかった。


 そうして、大門が火を消した時だった。


「きゃああ!」

「!? く、久住さん!」


 奈々の悲鳴だ。

 大門はビニールハウスの入り口付近へと急ぐ。


 何が――


「く、久住さん!」

「こ、九衛さん……あ、あれ!」

「え……ん!?」


 大門は奈々に言われるがままビニールハウス内を見て驚く。


 そこには。


「祐司!」

「比賀さん!」


 心臓を一突きにされ、倒れる祐司の姿が。


「祐司!」

「久住さん、ここにいて下さい!」


 大門は奈々を宥め、祐司に駆け寄る。

 脈に軽く触れるが、やはり動きはない。


「(くっ……ん?)」


 その時。

 大門は、祐司の右手に何かが握られていることに気づく。


「……これは、花? と……種?」


 ◆◇


「被害者は滝日村で花卉の種苗業を営む、比賀祐司。死亡推定時刻は本日21:00〜21:30頃です。」

「!? そんなに正確に分かるのか……」

「はい、発見がそれだけ早かったようです。」

「そうか……」


 女性警察官の報告に、西原はため息を吐く。


 あれから小一時間ほどで警察と消防が到着し、現場検証が行われていた。


「これは……春蘭(しゅんらん)の花ですね。」

「!? こ、九衛大門さんか!」


 祐司が握り締めていた花と、温室に植えられている先が欠けた花を見て大門は言う。


「すみません……脈を見た時に手の中の花の、おしべを指で握り込んでる所と、種が見えたものですから。」

「何……?」

「ああ、まあ第二の事件に続いて……彼が、第一発見者だそうです。」


 西原に女性警察官が説明する。


「ああ……こら、あっちへ行くんだ! ここは警察の臨場している場所、遊び場じゃないんだ!」


 西原は白手袋をした右手をひらひらと振り、大門を追い出す。


「ああすみません……でも」

「でも、じゃない! 私が退けと言ったら退くんだ!」


 大門は食い下がるが、西原は聞く耳を持たない。

 止むを得ず、大門は下がる。


 しかし、それから少し経った後。


「まったく……」

「あの……西原刑事。」

「なんだ!」

「ひい!」

「あ、すまない……」


 西原は声をかけた相手を見て謝る。

 てっきり大門だと思ってつっけんどんにあしらってしまったが、部下の女性警察官だった。


「お電話です。」

「私に……?」


 西原は首を捻りつつも、部下が差し出した電話を取る。


「西原ですが。」

「ああ、西原ちゃんか!」

「な……す、周防先輩!」


 西原は驚く。

 電話の相手は、大門たちには新興宗教の事件や柘榴祭の事件でお馴染みの周防道廉刑事だ。


 無論、大門が先ほど電話を周防にかけ、自身の捜査協力への働きかけを要請してのことだが。


 大門は先ほど周防に聞いたが、彼は西原と大学の先輩後輩に当たる関係らしい。


「よう、誰かと思えば西原ちゃんか。事件の総指揮を任されるなんて、頑張ってんな!」

「い、いえそんなあ……」


 西原は顔を赤らめながら、少し甘い声を出している。

 これは、先輩に対する後輩の態度とは少し違う。


 もしや。


「ああ……あの刑事さんも恋する乙女だったか〜」

「うん、意外な一面。」


 実香・妹子・日出美がそんな西原を、生暖かく見守る。


「ああそうですね……って! 何で……」

「大門君。水臭いって言葉は本当に覚えた方がいいよ?」

「大丈夫! 塚井は美梨愛ちゃんやご両親が見てくれてるし!」

「そうよ! 妻を差し置いて!」

「……すみません。」


 大門は突然現れた女性陣に面食らうが、彼女たちに押し切られる。


「まあ、それでよ西原刑事。……できる限りでいいから、そこの九衛って探偵に協力してくれないかい?」

「え!? で、ですが……」

「頼むよ……そいつ、結構不思議な奴ではあるが、警察も世話になってんだよ……俺と西原ちゃんとの中じゃないか?」

「……はい周防先輩。」


 西原は渋々、了承する。


「……まあ、今勤務中だな、西原刑事。」

「あ、し、失礼いたしました! 周防刑事!」


 うっかり個人的な呼び方をしてしまい、西原は電話越しに謝る。


「ああすまん、まあ俺も西原ちゃんて呼んじまったからだな! じゃあ、頑張ってくれ西原刑事!」

「あ、は、はい! 周防刑事!」


 西原は周防との電話を終える。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「そしてその時間、事件関係者は全てこの旅館ロビーに集まっておりアリバイがありました。」

「そんな……」


 西原の説明に、皆言葉を失う。

 場は、再び滝日村の旅館にて。


 先ほど大門が奈々を連れ立ち行った、山奥にある祐司のビニールハウスから大門と奈々、さらに実香・妹子・日出美もこの旅館に帰り。


 警察により関係者全員に、事件のことに関する説明が行われていた。


 実際、祐司の死亡推定時刻21:00〜21:30に旅館を出た者はいなかった。


 そもそも旅館からは、車を使わなければ現場には行けないため、現場に向かおうとすれば目立つ。


 密かに出て行くこともできないだろう。


「すみませんが……まだ殺人犯である塚光劉禅が彷徨いている可能性があります。皆さんにはしばらく、この旅館に居ていただきたいと思います!」


 西原は最後に、そう皆に言う。


 ◆◇


「これが……第二の教会放火密室殺人事件の捜査資料ですか。」

「ああ……まあ、あくまで周防刑事の温情だからな!」


 旅館の一室にて。

 大門は西原より、捜査資料を借りて読んでいた。


 そこに、気になる記述が。


「被害者・鳥間さんが着ていた服は……綿の服?」


 わざわざ犯人は、燃えにくい服を彼女に着せていたことになる。


 そして、致命傷と思われる頸部の傷は、頸の左側だった。


 右側には火傷の跡があったという。

 着ていた綿の服には、真っ直ぐな線状の焼け跡が。


 そして郁美は後ろ手に縛られて椅子に座らされていたらしく、遺体の近くには椅子が転がっていたという。


「さらに問題は……鳥間さんが殺されていた部屋の窓ですか。」


 郁美が殺されていた部屋の窓は。

 遺体発見時には鍵こそ掛かっていなかったが、まず頭一つ分しか大きさがないならば犯人の脱出は不可能だろう。


 さらに窓そのものは上下式だが少し重く、取っ掛かりになる部分は内側にしかない。


 つまり鍵が掛かっていようといまいと、一度閉まるともう外からは開けられないらしい。


「(うん……この僕の考えが正しければ、犯人は鳥間さんを撲殺できても放火はできなくなる……)」

「では、私は少し出て来る。」

「あ、はい……」


 大門が悩む中、西原は部屋を後にしようとドアを開ける。


 が。


「な……何だあなたたちは!」

「え……? あ!」

「す、すいませーん……」


 西原に咎められているのは、ドアの外に集まっていた実香・妹子・日出美はバツが悪そうに笑う。


「盗み聞きとは……感心しませんな。」

「す、すみません!」

「ごめんなさい……」

「あ、すいません刑事さん……その人たちは、僕の関係者なんです。ここは僕に、任せてくれませんか?」


 西原から咎められる女性陣を、大門は庇う。


「……まあ、捜査資料を見せたりしないで下さいよ!」


 西原はぶっきらぼうに言うと、そのまま部屋を後にする。


 ◆◇


「きー! あの刑事〜! 何よ何よお!」

「いやあ妹子ちゃん、まあそこは……あたしたちのせいじゃないかなあ。」

「まあ、いいんじゃないですか? あの刑事さん、大門には興味なさそうですし。」

「あ、確かに!」


 ロビーに戻る道すがら、女性陣は話す。

 そう、若い女性が大門の前に現れるとなれば彼女たちが警戒するのはそこである。


「何の話か分からないんですけど……確かに今回は、皆さんの方が褒められたものじゃないですね〜!」

「ええっ!」

「もう、九衛門君!」

「心配したのにい!」


 思いがけない大門の言葉に、実香たちは不満げである。


 大門は彼女たちを、ロビーまで送っている。


「いや、まあ心配してくださったことは嬉しいんですが……」

「お母さん! もう一冊!」

「ああ、はいはい……あら、九衛さん。」

「あ、久住さん!」


 ロビーに着くと、奈々が息子の奈緒樹に絵本を読み聞かせていた。


「僕、おいくつ?」

「なおき、5才!」

「へえ、可愛い!」

「ねえねえ、どんな絵本好き?」


 女性陣は奈緒樹に、興味深々だ。


「『かちかち山』が好き!」

「へえ〜、お姉ちゃんたちにも読んで!」

「へえ〜……ん?」


 大門は奈緒樹と女性陣の会話に、おや、となる。

 やがて、それまでバラバラであったものが一つにつながって行く――


「……そうか。」

「……え?」


 大門の様子に女性陣は、振り返る。


 ◆◇


「真尋さん、大丈夫です! きっと……」

「はい、そうですね……」


 旅館の食堂にて。

 国明は塚井を、励ましている。


 美梨愛は、既に部屋に引っ込んでいた。


 と、そこへ。


「国明さん、塚井さん!」

「!? こ、九衛さん!」


 大門が女性陣を引き連れてやって来る。


「……これが悪魔の証明ではないという悪魔の証明、終了しました!」

「え! ……あ、ありがとうございます!」


 大門の言葉に、塚井は顔を明るくし立ち上がる。


「(真尋さん……)」


 国明はそれを見て、少し嫉妬する。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「……これで、塚光劉禅は完全に死ぬ。」


 犯人は、用意しておいた遺書を置く。

 これで――


「待って下さい! ……どうかその前に、僕の話を聞いてくれませんか?」

「!? ……あんたは……」


 犯人は目の前の人物に驚く。

 それは。


「僕は九衛大門……どこにでもいる、普通の悪魔の証明者ですよ。」


 目の前の人物――大門は悪戯っぽく微笑む。

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