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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification7 suarra 魔女狩り村に火葬場はない
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訪問者K、H、M、T

「魔女狩り村、か……」


 窓から見えるのは、この長野県滝日村(たきひむら)


 通称・魔女狩り村である。


「……また繰り返さなければならないとはな。……かつて、この村に火葬場がなかった時代を。」


 出るのはため息ばかりだ。

 かつてこの村には、火葬場がなかった。


 それは――


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「つ、つ、つ……塚井が()()()()⁉︎」

「いやお嬢様……()()()()でございます!」


 大門の経営するカフェ・HELL&HEAVENに、妹子のボケが響き渡る。


 殺人人狼ゲームに巻き込まれた大門を、実香と妹子、日出美、そして塚井で救出してかれこれ数日が経つ。


 彼女たちはその時重傷を負い入院していたが退院した大門を見舞う形で、このカフェを訪れていた。


「いやいや妹子ちゃん、誰をお見舞いするの?」

「そうですよ、大門はもう退院してるし。」

「ええ、お陰様で!」


 実香と日出美のセリフに、大門は自分の身体をポンポンと叩いて見せる。


「そうですお嬢様。誰も病気にはなっていません、長野の両親が結婚相手として相手を見繕ったので帰って来いと……」

「あ、なあんだ。てっきり必殺技をお見舞いしてくるのかと。」

「……いや、そっちですか⁉︎」


 予想の斜め上を行くボケに、塚井は芸人ばりにコケたい気分である。


 しかし、必殺技など持っていた覚えはないのだが。

 さておき。


「でも塚井……結婚しちゃうんだね〜!」

「いや、直接お断りしに行くだけだから!」


 実香の言葉に塚井は弁解する。


「まあそうだよね〜……だってこの前」

「……おおっ⁉︎」

「ああっ!」


 実香は言いつつ、ちらりとカウンター向こうの大門を横目で見る。

 その様から日出美も妹子も、事情を察する。


 大門は実香の視線に気づかないのか、まだ作業を続けている。


「い、いや! そ、そういう訳じゃ」

「そ、そうか……塚井」

「あああ! お嬢様〜!」


 塚井は慌てて弁解するが、妹子が何か言おうとしている様を見て更に慌てる。


「九衛門君を使ってまで間接キスしたいぐらい、実香さんに惚れてるもんね〜!」

「……へ?」

「ああ、妹子ちゃん……」

「まだ、その設定信じていたんだ……」


 しかし妹子のこの言葉には、塚井は拍子抜けし。

 実香と日出美も、半ば呆れている。


「ええ! あ、あの時のはそういう意味だったんですね……」

「ええ⁉︎」

「あー、こっちにもいましたか……」


 しかし妹子以外の女性陣が、更に呆れたことに。

 大門も勘違いしている。


「ええっと大門君? あたしの愛の言葉は?」

「あ、ああ……あれは、許してくれたって意味ですよね? 気を使ってああいう言い方してくれてありがとうございました!」

「……どういたしましてー」

「あれ? 実香さん?」


 実香は大門のこの回答に、若干不貞腐れる。

 やはり塚井のキスを勘違いしているならば、自分のあの愛の告白もまた然りということかと落ち込む。


 妹子が腐っているならば、大門は筋金入りの朴念仁だったか。


「いや実香さん? 愛の言葉ってえ?」

「ああ、愛してるって言ったの。別に大門君のこと、本当に愛してるし。」

「ゴホッ!」

「ぬ、抜け駆けまたしてえ!」


 しかし妹子と日出美は、今度は実香に突っかかる。


「ま、まあ……こ、後輩として愛してるって意味ですよね?」

「……うん、まあね。」


 とはいえ、やはり大門には正しくは伝わっていないようだ。


「ちょっと、実ー香ー!」

「おやおや、やっぱり嫉妬してるじゃん?」

「おおっ! 塚井、実香さんにお熱う!」

「うん妹子さん、一回黙ろ?」

「えっ、何でよ!」


 場はどんどん、混乱していった。


 ◆◇


「そんなこんなでお嬢様。旦那様には申しまして許可を頂いていますが……私が留守の間、何卒何もありませんよう。」

「うん、塚井……それはどういう意味かしら?」

「……言葉通りの意味でございます。では。」


 塚井はそれだけ言うと、屋敷から出る。

 HELL&HEAVENでの一件から数日経ち。


 塚井は出発前の仕事を片付け引き継ぎを済ませると、そのまま屋敷を出たのである。


「まったく、何よ塚井! ……初めは綺麗なお姉さんだって思ったのにい! ……いいわ、あんな奴。さっさと結婚しちゃえばいいじゃない!」


 妹子はソファーに寝そべり、一人で愚痴を零し続ける。


「……でも、まあ……気にしてやらないこともない、かな……」


 妹子は自分のスマートフォンをソファ脇の小テーブルから取ると、電話をかける。


 かける先は、もちろん――


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「さあ皆さん、塚井さんのご実家が見えて来ました。」

「おお! け、結構大きい!」

「つ、塚井さんてお嬢様だったんだ!」

「いやあそれが本人は、単に先祖代々という名の大きいだけの古い本百姓の家ってだけだって!」


 大門の運転する車は、長野のとある山奥。

 見えて来た塚井の実家に、妹子・日出美・実香は興奮している。


「ごめんなさい九衛門君……その、こんなお願いで」

「いやあいいんですよ。……でも、本当に立派な家ですねえ。」


 大門は感心しつつ、家の近くに車を停める。

 後ろからはSPの車が尾いて来ている。

 今回大門が妹子より頼まれたのは、引率者だった。


「あれ? 実香ちゃん!」

「あ、たのもう! 美梨愛(みりあ)ちゃん!」

「え? 実香さんこの娘誰?」

「ああ、塚井の妹ちゃん。」

「ええっ!」


 車から降りた大門たちを出迎えたのは。

 顔見知りの実香に気づき家から出て来た塚井の妹・美梨愛だった。


「お、お姉ちゃんより綺麗……」

「あら、どうも♡」


 妹子の(聞きようによっては失礼な)言葉に、美梨愛は満面の笑顔を返す。


 確かに大人びた塚井姉に比べると、幼さのある顔立ちだ。


「そうですね……塚井さんとはまた違ったタイプの美人さんですね。」

「あら、どうも♡」

「ちょっ、九衛門君!」

「ひーろーと〜? 浮気は許しませんよお〜?」


 珍しく大門が美梨愛の、女性の容姿を褒めている。


「うーん、確かに。大門君が女の子の容姿褒めるなんて珍しいね。」

「い、いや! 特に他意はないですよ!」


 実香の指摘に、大門は慌てて訂正する。


「へえ、このイケメンは実香ちゃん、誰の彼氏?」

「いやあ、それが。……朴念仁で。」

「ああ〜、なるほど。」


 悪戯っぽく微笑みながら訊く美梨愛に、実香は肩をすくめて答える。


「そ、そんなことより! 塚井さんはどちらに?」

「はあい、塚井美梨愛です!」


 大門の呼びかけに、美梨愛が答える。

 確かに、彼女も塚井さんであった。


「あ、いやその……お姉さんの、真尋さんはどちらに?」

「ああ、そっちですか! お姉ちゃんは今、お父さんとお見合い相手のお家・塚光家(つかみつけ)に!」


 大門の次の問いにも、美梨愛はすぐさま答えてくれた。


「へえ、塚光さんて言うんだ、塚井の結婚相手。」


 実香が言いつつ、周りを見渡す。

 しかしやはり山の中なためか、近くには家がない。


「ああ、もしかして塚光さんち探してる? そうか、実香ちゃんはまだ知らなかったね〜! ……近くの滝日村、人呼んで()()()()()のことを。」

「へえ魔女狩り……村あ⁉︎」


 美梨愛が急にテンションを変えて話した、”魔女狩り村”というワードに、実香は驚き思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「ま、魔女狩り村?」

「な、何それ?」

「き、気になる!」


 これには大門も妹子も、日出美も喰いつく。


「……まあごめん、立ち話もなんだしどうぞうちへ! ……お母さん! お客様〜!」


 美梨愛は言うが早いか家に入り、母に呼びかける。


「さあて、あたしたちも入ろっか!」


 実香も家に入ろうとする。


「あ、いいんでしょうか?」

「いいのいいの、我が執事の家は私の物! 私の物は私の物! さあ、入りましょう!」

「いや、遣隋使さん……」

「妹子さん、それは……」


 大門と日出美は妹子の、謎のジャイ〇ニズムに呆れる。


 執事の実家だからといって別に主人が勝手に出入りしていい道理はないと思うが。


 さておき。


「まあいいって! 塚井の所には後で押しかければ。」

「はあ、実香さんまで……」

「ね、実香さんもこう言ってるし!」

「はい……」

「お邪魔しまーす!」


 実香にも背中を押され。

 結局大門と日出美も、入ることにした。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「初めまして。私はこの滝日村で地主をしています、塚光劉禅(つかみつりゅうぜん)と申します。 ……そして、この子が」

「は、初めまして……り、劉禅の息子の国明(くにあき)と申します!」

「はあ……初めまして。」


 テーブルを挟んで向かい合う相手とその家族に、塚井は頭を下げる。


 格好は、振袖である。


 ここは長野の、塚井の実家の近く。

 滝日村の旅館である。


「はい、私は塚井嘉人(つかいよしと)と申します。こちら娘の真尋です。」

「よろしくお願いします。」


 塚井の左側に座る父が、自己紹介する。

 塚井も父から紹介され、また頭を下げる。


「ははは……しっかりなさった娘さんですな。」

「いえいえ……農家など地味だからと東京の女子大に行きました放蕩娘でございまして。」

「お父さん。」


 劉禅の言葉に、嘉人は謙遜する。

 塚井は、そんな父を咎める。


「いやあ、本当のことじゃないか! ……ですから塚光さん、わがままな娘で苦労させると思いますがどうか。」

「(ちょっと……)」

「い、いやいや! ぼ、僕は気の強い女性が好みでして!」


 嘉人の次の言葉に答えたのは、国明だ。

 塚井はすっかり結婚が決まった体で話す彼らに、少し憤慨している。


「は、はあ……それはどうも。」


 塚井は愛想笑いを浮かべるが。

 内心では、今笑顔を向けてくる国明に、あまり好感を持てないでいた。


 それは彼から、何やら優柔不断という第一印象を受けたからだけではない。


「(はーあ……全く、九衛さんは相変わらず何も感じていないようだったし……って! 今は関係ないから!)」


 思わず大門の顔が浮かんだ塚井は、顔を横に振る。

 その色は、赤くなっていた。


「おやおや真尋! 早速国明君にお熱か?」

「……へ?」


 父の見当違いな煽りに、塚井は思わず間抜けな声を出してしまう。


「ではでは……後は、若い者同士で!」

「ええ、そうですな……では国明! 真尋さんをきちんとおもてなしするように!」

「は、はい父さん!」


 そうして、お見合いにはありがちなパターンというべきか。


 結局塚井と国明、二人だけが残された。


「あ、あはは!」

「お、おほほ……」


 すっかり気まずい思いである。


 ◆◇


「はあ、もう……」


 塚井は廊下で、ため息を吐く。


 結局あれから5分と保たずに国明はトイレのため中座し。


 ならばと、塚井もトイレのため部屋を後にした。

 しかし、この旅館は予想以上に広く迷ってしまった。


「はあ、しかし……どうやって断れば」

「お断りするんですか、縁談?」

「⁉︎ ……び、びっくりした……」


 いきなり背後から声が聞こえ、振り向けば。

 何やら、メイド服の若い女が笑いながら立っていた。


「あ、あなたは?」

鳥間郁美(とりまいくみ)と申します。塚光の家で、メイドをしております。」

「は、はあ……」


 塚井は郁美を見る。

 歳は、塚井と同じくらいの、26歳前後といった所か。


 笑顔が綺麗な人である。


「まあそうですね。国明坊っちゃまは頼りないですが、それを除けば……この辺一帯の大地主ですし、何事もなければ成功しますよ?」

「は、はあ……」


 相変わらず笑みを絶やさない郁美に、塚井は困惑している。


 なんだ、この娘は。

 しかしそんな塚井をよそに、郁美は更に続ける。


「まあ劉禅様と坊っちゃまは、血のつながりで言えばお祖父さんとお孫さんなんですけどね。劉禅様の息子さんで、坊っちゃまの本当のお父様である陽太(ようた)様が劉禅様と仲がおよろしくなくて。坊っちゃまを後継ぎにすることを陽太様に反対されて、止むを得ず坊っちゃまを劉禅様が養子に。」

「そんなことが……」


 塚光家はどうやら、中々爆弾を抱えているらしい。

 塚井はますます、断る意思を固めていた。


「あと、まあこれは私から聞いたってことは内緒にしてほしいんですが……この家には、()()がありまして。滝日村が、()()()()()と呼ばれていることに関連した、ね。」

「は、はあ……」


 塚井は更に困惑している。

 確かに、この滝日村が魔女狩り村と呼ばれていることは、塚井も知っているが。


「では、話しますね。これは、今から26年前……」


 ◆◇


「では皆さん、いいですか?」

「は、はい。」

「どうぞ。」

「さあ話して!」

「お願い、美梨愛ちゃん!」


 塚井家では。

 美梨愛が大門・妹子・日出美・実香を前に話し始める。


 ◆◇


潮音(しおね)!」

「潮音、止めなさい!」


 26年前。

 滝日村にて。


 国明を産んだばかりであった彼の母・鉄井潮音(てついしおね)


 幼なじみたちの制止も聞かず、彼女は美しい顔を悲しみに歪めていた。


「近づかないで! ……じゃないと、皆にも火を点けるわよ?」

「潮音、バカな真似はやめなさい!」


 彼女はライターを点け振りかざす。

 既にその身体や周囲には、灯油が撒かれている。


「この魔女狩り村に、火葬場はなかった……皆死ぬ時は、炎の中だったから。」

「何を言ってるの、潮音!」

「止めろ、潮音え!」


 潮音はライターを自分の身体に近づける。


「私は狩られるべき魔女……何故なら、既に悪魔に魂を売り渡してしまったから。」

「潮音、潮音!」


 夫・陽太は彼女を止めようと一歩踏み出す。


「近づかないで! 陽太さん……国明のこと、お願いね。」

「潮音ええ!」


 それが最期の言葉となり。

 潮音は、炎に包まれた。


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