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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification6 marchosias これは殺人であっても人狼ゲームではない
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エピローグ

「何だろう……ここは。」


 大門はふと、気がつく。

 見れば、周りは暗闇。


 何も見えないわけではないが、視界に入るものはぼやけていて見えない。


「僕は確か……」


 大門は頭を抱え、思い出そうとする。

 確か、人狼ゲームに強制参加させられて。


 その後は。

 犯人の正体とトリックを暴き、犯人を取り押さえた。


 それから――


「それから、君は犯人を刺そうとした坂木と、刺し違えそうになった生稲を庇い……生稲のナイフに刺された。」

「……ダンタリオンか。」


 振り返れば、日出美の顔。

 しかし、女子中学生にしてはやけに大人びた、というより古臭い言動は。


 これが大門のもう一つの人格・ダンタリオンの化身した姿であることを物語っている。


「犯人たちは……」

「ああ、岩本も生稲も坂木も、全員警察に捕まったよ。残りの皆も無事さ。」

「そうか……」


 言いながら大門は、周りを改めて見る。


「ここは……三途の川か?」

「おや? 何だい、だとしたら驚かないのか?」


 ダンタリオンは大門の言葉にこう返す。

 それに対して、大門も。


「そうだな……まあ、事件を解決してそれで逝くなら本望かな。」

「ふうん……張り合いないなあ。」


 返す言葉は淡白である。

 ダンタリオンは拍子抜けしている。


「あの美咲って子との約束は? 死ぬまでにあの悪魔の証明を完成させるんじゃないのか?」

「……そうだな、それもできれば……したかったな。」


 大門は更に拍子抜けするダンタリオンをよそに、尚も淡々と話す。


「でももう難しいかな……まあ、いいか……」


 大門がそのまま、目を閉じようとした時だった。


 ――大門君?


「……えっ?」


 ――大門君!

 ――九衛門君!

 ――九衛さん!


「……そうだ、戻らないと……」


 大門は急に、気持ちが変わる。

 そうだ、戻らないと――


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



「大門君!」

「実香さ……え!?」


 目覚めた大門は。


 大門は病室に入って来た実香を見るが、次の瞬間には彼女に抱きしめられていた。


 怪我人に配慮してか、さすがに力は控えめである。


「み、実香さん……」

「ごめん……大門君。あたしが誘ったばっかりに」

「……よかった。」

「え?」

「実香さん……無事だったんですね。」

「なっ……!?」


 実香は、自分を抱きしめ返す大門の言葉に驚く。


「な、何で……大門君が」


 実香は驚きと、ときめく思いとが入り乱れる。


「大門君があたしを心配するの!?」


 思わず、大門の顔を覗き込み、ヒステリックに声を上げてしまう。


「だってそりゃあ……実香さんのツアー会社から嘘の電話がかかって来たり、実香さん本人と話せなかったりしたら心配するじゃないですか。」


 しかし大門は優しく、事も無げに笑いながら言う。


「……ほんっと、塚井の言う通りだね!」


 実香はそんな大門に、さらに涙を流し再び大門を抱きしめる。


「み、実香さん……」

「大門君のそういう所、あたしも妹子ちゃんも日出美ちゃんも……恐らく塚井も大好きだよ? ……何より、今回はあたしのせいだったよ? だったけどさ」


 実香は再び、大門と目を合わせる。

 先ほどまでは笑っていた大門も、実香が両目に涙を溜め込んでいるのを見てさすがに、申し訳なさそうに視線を落とす。


「だったけどさ……皆死ぬほど、大門君のこと心配した! だから、大門君……それもちゃんと、自覚してよ?」

「……すいません、知らなかった……」


 実香の言葉に、大門は謝る。


「……でも、実香さんが責任感じることはないです、本当に。」

「……えっ?」


 大門の言葉に、実香は首を傾げる。


「僕は……知ってたんです。これが犯人の罠じゃないかって。だけど、せめてそれが止められればと思い……自ら危険に飛び込みました。」

「……っ!」


 実香もさすがにここまでは予想外だったらしく、口元を両手で覆い目を見開く。


「なん、で……?」

「……すみません。」

「……何で、そんなこと!」


 実香はまた叫ぶ。

 ここは病院だということを、大門も指摘できない。


「何でそんなことするの!」


 次には、また怒鳴られた。


「……すみません……」

「……謝って済むなら、警察いらないよ!」

「……はい。」


 実香は大門を責め立てる。

 大門も今回ばかりは、言い返せない。


「……でも分かった。それでこそ、大門君だもんね。」

「実香さん……」


 しかし次には実香は笑顔になった。

 大門を巻き込んでしまったと責任を感じて以来、塚井たちにも見せていなかった顔だ。


「……すみません。」

「ううん、許さない。」

「……え? ……っ!?」


 実香の言葉に大門が驚き、顔を上げると。

 気がついたら、実香の目を閉じた顔がすぐ前にあった。


 唇の感触で、塞がれていると気付いた。



「……はい、これで許す。」

「……え、えっ……?」


 実香が顔を離すと、大門は唇を手で覆い、赤面しながら彼女を見る。


「み、実香さん……?」

「……これで、本当に初めての女になれたかな?」

「そ、それは……はい……」


 実香はそれだけ言うと、目を逸らす。

 彼女も、頬を赤らめているのだ。




「ちょっと!」

「何抜け駆けちゃっかり果たしてんのお!」

「!? ひ、日出美……け、遣隋使さん!」


 しかし突然、病室の扉が開き。

 日出美と妹子、初心シスターズがお目見えする。


 彼女たちも顔を赤らめている。

 が、顔は凄まじい剣幕である。


「ちょ、ちょっと二人共……ん!?」

「……あらまあ。」


 そのままツカツカと実香を通り過ぎてベッドの大門の両脇を固めるや。


 次には彼の頬それぞれに、口づけをする。

 これには実香も、少し驚く。


「……これで」

「私たちもおあいこってことで!」


 日出美と妹子は実香を牽制するように睨む。


「ああ……まあ、初めてはあたしだし♡」

「むむむ!」

「うあああ!」

「い、いや……二人共何を……ぐっ!」

「!? な、大門君!」

「! ち、ちょっと……」


 しかし混乱する大門は次には。

 左頬に風と、その次に痛みを感じる。


 見れば左側には、平手を大門の頬に喰らわせた塚井が立っていた。



 ◆◇


「ち、ちょっと何してんのよ塚井!」

「そ、そうよ人の旦那に!」


 塚井は妹子と日出美から、非難される。


「塚井、大門君は怪我人だよ……」

「安心して、実香。……軽く叩きました九衛さん。思いっきりしたら、傷に響くと思いまして。」

「あ、はい……」


 実香に塚井は事も無げに返し、次には大門に言う。

 大門は言いつつ、左頬を抑える。


 たしかに背中の傷には影響なさそうだが、左頬にはジンジンと痺れに似た痛みが走る。


「……何で叩かれたか、お分かりですか九衛さん?」

「……すいません……」

「さっきから謝ってばかりですけど……あんた本当に分かってるんでしょうね!?」

「つ、塚井……」

「ちょ、ちょっと……」


 塚井は割れた声で大門を怒鳴りつける。

 その言葉遣いもいつもの丁寧さがない、剥き出しの感情を体現したものだった。


「塚井さん……」

「一体どれだけ実香が、お嬢様が、日出美さんが……私が心配したか分かっていますか!?」

「……それは。」

「いなくなったあなたを心配して……皆必死に探し回りました! 実香は共犯の上司の不正を暴いて口を割らせようとしたり、日出美さんはバスの発着所の防犯カメラ映像解析を提案したり……お嬢様は、褒められたものではありませんが親御さんの七光りを利用してついに居場所を特定したり……」

「そんな……」


 塚井の言葉に大門は、返す言葉もない。

 重々承知ではあった。


 いや、そう思っているだけで実は分かっていないのかもしれない。


 こんなに実香が、妹子が、日出美が、そして塚井が。

 自分を心配してくれるなんて思っていなかった。


「塚井、もういいよ……あたしは」

「あんたは良くても……私がよくない!」


 実香の宥める声も、塚井は受け流す。


「こんなこと続けて……九衛さんがいなくなったら、お嬢様も日出美さんも実香も……私も……」

「……っ!」


 大門は塚井を見上げて頭が真っ白になる。

 塚井が目から、次々と大粒の涙を流していたのだ。


「そ、それは塚井……言わないでよ、そんな」

「ひ、大門が……?」


 妹子と日出美も、塚井につられて涙を流す。


「塚井……そうだよ、そんなの……」


 実香も涙を、流す。


「……ええと……その」


 大門は頭が真っ白なままだ。

 彼女たちからこんなに心配されるなんて思っていなかった。


「……情けないですけど、これしか言えません……本当にごめんなさい!」


 大門は頭を大きく下げる。

 身体を大きく動かしたことで背中から痛みが襲うが、全く気にならなかった。


 そのまま、話し続ける。


「僕……馬鹿です。だから、行かなきゃどうしようもないって、それしか考えられなくて……でも」


 大門は顔を上げる。


 まだ女性陣は、顔を両手で覆ったり涙を拭ったりしていた。


「信じてもらえるか分かりませんが……今回のことで本当に、皆さんのありがたみがよく分かりました……だから次からは、気を付けます……」


 大門は言い終える。

 精一杯の、誠意の表現だった。


 果たして、伝わったかどうか――


「……そんな体勢じゃ、傷に響くでしょう?」

「は、はいすいませ……っ!」


 大門が恐る恐る再び顔を上げると。

 何と目の前には塚井の目を閉じた顔。


 そして先ほどの実香と同じく、唇の感触が。


「なっ……!?」

「つ、塚井さん……?」

「……いやいやいや。」


 たちまち涙ぐんでいた他の女性陣も、固まる。

 まさか、塚井までとは。


「……もう、いいです。私もごめんなさい、九衛さんを叩いたりして……」

「い、いやそれは……自業自得でしたし……ただ、今のは」

「……さて、私たちはそろそろ帰りますか!」

「……ええ〜……」


 他の女性陣をよそに、塚井はこれまた先ほどの実香と同じく、顔を赤らめながら大門から離れる。


 そのまま病室から、去ってしまう。


「ち、ちょっと!」

「待ちなさい塚井さん!」


 日出美と妹子は、追いかける。


「……じゃ、大門君! また、来るから。……愛してるよ大門君♡」

「……え!」


 実香は去り際にその言葉と、投げキスを送る。


「……はあ。まあ、許してくれたみたい、かな?」


 大門は自分の口、両頬に触れる。

 今日は何かと、人肌に触れる日だった。


「……まだ、死ねないな!」


 一応、自分の命を大事に想ってくれている人がいることは理解できたようだ。



 ◆◇



「……いや、ちょっと塚井! 今のどういうことよ!」

「お、お嬢様……いや、あれはその……た、ただ実香と間接キスしたかっただけですから!」

「……えええ!?」


 車の中でのやり取りは、かなり苦しい言い訳だった。


「つ、塚井そっちの趣味あったの!?」

「いや、騙されないで妹子さん!」


 日出美が妹子に、突っ込みを入れる。


「ははは……まあでも塚井。別に、親友やお嬢様の想い人だからって遠慮しなくていいよ?」

「……それは……ごめん、私も何でああしちゃったのか……」


 後部座席から囁いた実香の言葉に、塚井は悶える。


「ちょっとちょっと塚井〜! 実香さんに耳元で囁かれてえ、熱熱ですな〜!」

「あ、まだ勘違いしているみたい……」


 まだ塚井と実香の百合話を勘違いしているあたり、妹子も腐っているらしい。


 さておき、塚井は車を走らせた。

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