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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification6 marchosias これは殺人であっても人狼ゲームではない
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conclusion:これは殺人であっても人狼ゲームではない②

「さあ……そろそろ正体を現してもらいましょうか。4人目の人狼さん?」


 大門は、4人目の人狼のフードに、手を掛ける。

 実香から誘われた彼女の会社主催のツアーに参加する所を、日程変更を装った連絡によりこのデスゲームの舞台へと連れて来られていた。


 3日目の夜。

 2日目・3日目の朝にそれぞれ一人ずつが殺害されたデスゲームも、いよいよ幕引きを迎えていた。


 まず、階段がなかったため一階建てと思われたこの建物が実は、二階建てだったこと。


 そして今回の殺人は『人狼が村人を殺しに行った』のではなく、『人狼の方が役割上村人であり真犯人でもある4人目の人狼に殺されに行った』ことを暴き、大門は犯人のトリックを、全て暴いたのである。


 1日目・2日目の夜、4人目の人狼が殺人を行うに当たり踏んだ手順は以下の通り。


 1. 3人の人狼全てが時間差で違う棟から本来の自室へ二階を通り帰る。


 2. 4人目の人狼もその後で自室から二階を通り後に他の人狼が”殺されに”やって来る部屋のある棟に移動する。


 3. 待ち伏せている部屋で、複数のアカウントを使いチャットをすることで4人目の人狼自身及び、大広間で待機している他の人狼のアリバイを作る。


 4. 部屋に”殺されに“やって来た他の人狼を殺し、他の人狼のアカウントのブラウザだけをPCに残し、自身は人狼の身なりをして堂々と部屋を退出。


 5. 大広間を通り殺された人狼がいた棟に入り、そこの部屋から二階を通り自室に戻る。


「4人目の人狼。それは、あなたですよね?」


 大門は、床に組み伏せている4人目の人狼のフードをめくる。


「なっ!?」

「そ、そんな!」










































「岩本紗千香さん!」


 フードの下にあった紗千香の顔に、皆戦慄する。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「い、岩本さんが……?」

「よ、4人目の人狼!?」


 千鳥、日比野が驚き叫ぶ。


「な、何で……?」


 築子も驚いている。


「ええ。……岩本さん。あなたは1日目明け方のチャットでミスをおかしました。それは、あなたの部屋の方角上明らかに眩しいはずのない朝日を、眩しいと言ってしまったことです!」

「!? なっ……?」


 大門の言葉に、紗千香が驚く。

 そう、1日目明け方のチャットにて。


 拝島:あ、雨止んだみたいだな。窓から夜明けの光だ。


 岩本:あ、本当ですね。眩しいな……


 築子:なんか、外出ないと日光眩しいよね。


 紗千香は日光について、眩しいと発言していたのである。


 本来西の棟にいるはずなのに、である。


「そして岩本さん……教えてくれませんか? 最後にあなたに殺されに行くよう仕向けるはずだった人物――3人目の人狼は誰だったんです?」


 大門は抑えている紗千香に、尋ねる。


「ええ……そこにいる、生稲築子です!」

「なっ!?」


 その言葉に皆驚き、築子を見る。


「1日目の夜は、僕らがトランプをしている間にあなた――と、他の人狼2人も――時間差で違う棟から二階を通り本来の自室に戻るよう指示されていた。……そうですね?」

「ええ、そうです。……南の棟から西の棟に行きました。」

「な、生稲さん!」


 大門の言葉に築子は、自分が3人目の人狼であることを認める。

 これに驚いたのは、坂木だった。


「なるほど……そのまま今夜は西の棟から南の棟に、あの大広間を堂々と通って行く予定だったんですね? ……坂木さんに、罪を着せるために。」

「な、何い!?」


 坂木は更に驚く。


「ど、どういうことなんだ? 私は」

「関係ない、とでも言いたい? ……名前も顔も違っていて最初は気付かなかったけど、あんたもあたしたちと同じサバゲーメンバーだったんでしょ!?」

「うっ……」

「な、何だって!?」


 築子の言葉に、坂木は今度は縮こまる。


「一時期――そう、よりにもよって()()()に入って来て、事が済むや否やとっととメンバー抜けて逃げた卑怯者に、こんな所で会えるとは思わなかったけどね!」

「うっ……ううっ……」


 そのまま坂木は、へたり込む。


「そしてこの事件は生稲さんたちサバイバルゲームのサークルが1年前に犯した過ち……それを憎んであなたが行った犯行。そうですよね、岩本さん?」


 未だ組み伏せられたままの紗千香は、何も答えない。


「じゃあもし……ここで岩本さんが取り押さえられなかったら。」

「ええ、生稲さんが亡くなり……坂木さんは次の日、犯行当時アリバイのない状態にさせられていたため、リタイヤ部屋に押し込められていたことでしょう。」


 大門は答えながら、紗千香から体を離す。

 紗千香は手足を、拘束されている。


「九衛さん、その……元樹や、竜騎は……」

「……皆さんがここにいるにも関わらず、いらっしゃらないということは……恐らく。」

「……うん。」


 築子は視線を落とす。

 恐らくはもう、2人とも死んでいるのだろう。


 しかし。


「しかし、生稲さん。……石毛さんや苅田さんはともかくも。あなたは予め、拝島さんや大上さんが死ぬことは知っていたんですよね?」

「……ええ、そうです。あたしは元樹と竜騎が罪を被ることも知っていました。……あいつらとこの坂木の口を塞げれば、それでいいって……」


 言いながら築子も、へたり込む。


「何て……」

「ことだ……」


 千鳥と日比野も、慄いている。


「……なるほど、やはりそうでしたか。」

「九衛さん。……よく分かったね。私が、メンバーだったって。」

「そりゃあ分かりますよ。生稲さんと苅田さんの会話に、あれだけあなた反応してましたから。」

「……なるほど……」


 大門の言葉に、坂木は今度、項垂れる。


「……さて。いよいよあなたの番ですよ、岩本さん。」


 大門は、先ほど縛った紗千香を見る。


「……1年前、何があったんですか? 生稲さんたちにどんな恨みが」

「……味わせて、やろうって。」

「……はい?」

「味わせてやろうって思ったんです! ゲーム感覚で弟を殺したこいつらに……次はゲーム感覚で殺されるスリルを!」


 紗千香は声を割れさせて叫ぶ。

 その目は血走り、いつもの穏やかな彼女とは違った。


 築子と坂木はびくりと身体を、震わせる。


 ◆◇



「私の弟は、若くして結婚したばかりで……仕事の息抜きでサバイバルゲームサークルに入った。……そこで、あんな事件になるなんて!」


 紗千香は再び叫ぶ。

 大切な弟を失った悲しみが、渦巻いているのだ。


「……サバイバルゲームのトレーニングと称した合宿の最中に、こいつらの一人が実弾を発砲して……皆で弟を追い立てた。笑いながら……弟は追い立てられた先にあった崖から……そのまま!」

「ひでえ……」

「し、信じられない……」


 その内容は、まさに常軌を逸していた。

 千鳥と日比野も、声を漏らす。


「……実弾はこいつです! 坂木が、坂木が」

「なっ……あ、あなたたちだって! 笑いながら見てた! そもそも実銃を持って来させたのだって」

「あんただってノリノリで撃ってたでしょ! ……でもいざ、あいつが落ちて死んだら! 尻尾巻いて一目散に帰って……今日まで雲隠れしてた癖に!」

「くっ……」

「……はははは!」


 しかし、築子と坂木が言い争う内に。

 紗千香が高らかに笑う。


「あーあ……なあんだ。まさかここまで屑たちだったとはねえ! ……おかげで私、こいつらには何ら罪悪感持たないですみそう! あははは!」


 狂ったような笑いだ。

 紗千香も、気が動転しているのかもしれない。


 しかし。


「く、屑……?」

「⁉︎ 坂木さん!」


 坂木は今の紗千香の言葉に、プライドを傷つけられたのか怒りを帯びる。


 そのまま、ナイフを取り出す。


「な、何すんのあんた!」

「坂木さん!」

「止めろ!」


 築子・千鳥・日比野が叫ぶ。


「……私が、屑だと……? ……取り消せえ!」


 しかし坂木は、すっかり逆上した様子で叫ぶ。

 既に周りは、見えなくなっている様子だ。


 すると。


「あははは! ……あんた、本当に屑。顔まで変えて、自分の過去なかったことにしたかったんだ? ……いいよ、殺すんなら殺しな! あんたには、まだ罪を重ねてもらうから!」

「……クソがあ!」


 しかし紗千香は、坂木を煽る。

 坂木は逆上極まり、そのまま――


「くっ!」

「⁉︎」

「こ、九衛さん!」


 しかし、そんな坂木に向かって築子がナイフを取り出し飛び出す。


 が、坂木と彼女の間に割って入った大門の背中に、築子のナイフが刺さる。


 大門は背中を負傷しつつも、坂木のナイフを取り上げる。


「なっ……」

「こ、九衛さん!」

「くっ、坂木い!」

「おとなしくしろ!」


 倒れ込む大門に代わり、千鳥と日比野二人がかりで坂木を抑え込む。


 築子は大門の側で、自失状態となる。


「駄目ですよ、生稲さん……ナイフ持ってる人を、ナイフで止めようとしちゃ……」

「い、いやああ!」


 築子は悲鳴を上げる。


「な、何で……何でそんな奴庇うの!」


 紗千香は叫ぶ。


「……岩本、さん。……確かに、この人たちがやったことは許さないでしょう……でも。今生稲さんが、ナイフを持った坂木さんをナイフで止めようとしたように……ゲーム感覚で弟さんを殺そうとしたこの人たちをゲーム感覚で殺そうとするなんて……間違って……」

「あ、ああ……」


 大門は息を切らしながら、紗千香に言う。

 彼女は俯く。


「も、もういいから九衛さん!」

「だ、大丈夫! い、医者に早く」

「誰か、誰かいませんか!」

「⁉︎ み、実香さん……」


 そんな彼を心配する千鳥と日比野の後ろ。

 大広間の天井の穴――より厳密には、この建物の出入り口越しに聞こえた声は。


 実香の声だった。


 ◆◇


「早く、SPさん! ピッキング!」

「お待ち下さい!」

「よ、よし! 開いたわ塚井!」

「ええ、お嬢様!」


 丁度場所を突き止めた実香・妹子・塚井は。

 SPにより、建物のドアを開ける。


「大門君!」


 実香のその言葉は大門の意識の混濁の中でも、はっきりと聞こえた。


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