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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification1 incubus 夢魔がいない
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やっぱり夢?

「……落ち着きましたか?」

「……ええ、ありがとう大君。」


 大門の呼びかけに、妹子は落ち着いた声で返す。

 道尾家の別荘にて、大門にとっては初めての夜。


 仮面の人物が別荘の一室にて、刃物を振り回すという"予知夢"。そんな夢を見て不安だという妹子からの依頼にて、探偵として職務を行うべくやってきた大門だが。


 来て早々に、妹子を大きく動揺させる出来事が。

「……また、夢を見たの。」

「あの、夢ですね。」

「ええ……でも、おかしいの。」


 妹子は夢のことを、大門に話す。

「夢の中では、つき……あの娘は殺されちゃってたのに……」


 月木の名を言いかけるも、彼女に配慮し言い方を変える妹子だが。


 そこまで言いかけて、やがて再び息を荒くする。

「お嬢様!」

「……遣隋使さん、そういう時は。ゆっくり息を吸って、吐いてください。」

「……スーっ」

「そう、吸って」

「はー」

「吐いて」

 

 何度か繰り返すうち、ようやく妹子の息は整う。

「ごめんなさい。」

「いや、そんなことは。……なるほど、これは本格的に調べる必要があるかもしれません。」


 大門は考える。

 先ほどまで一緒に食事をしていた道尾家の人々や、その他使用人たち。


 何かあるとすれば、やはりあの中の誰かか。

「しかし、九衛さん。これは、ただの夢ではないんでしょうか?」


 塚井が尋ねる。

「それは、僕にとっても疑わしい所ですね。……だから、より本格的に調べます。」


 大門は答える。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「月木君が? 本当ですか!」

 大門から話を聞いた比島は、目を丸くする。


「はい、確かに月木さんだったと。」

 大門は返す。


 妹子の部屋の外にて。

 使用人や道尾家の人々を前に、大門は説明していた。

「しかし……妹子は夢を見たって言ったんだろう? この前といい、もしそれが本当なら予知夢のようだがね。」


 修は少し、皮肉のように言う。

「修、マイコちゃんが嘘ついてるってか!」

 その言い方にカチンときたのか、ノブリスが食ってかかる。


「落ち着きたまえ、ノブリス君。だって、予知夢だなんて信じがたいだろう?」

「でも、マイコちゃんが」

「おやめなさい、修ちゃんもノブリスも。……今、一番大変なのは妹子と、月木さんなのよ?」

 未知が、ノブリスと修を宥める。


「すみません、叔母様。」

「ごめん、mom。」

「ふん、あんな貧乏人殺して何になる。金の一つも盗れはすまいに。」

「!? 叔父様。」

 ノブリスも、修も、八郎の今の発言にはその場にいる全員が驚く。


「なあ、そうだろう? さっき私の部屋に、食事の一つもろくに運べなかった奴が。」

「……すみません。」

「八郎様!」

 月木を責める八郎を咎めるこの声は、近川のものだ。


「何だ? また私に楯突くとは。……そうか、お前、この小娘が好きなのだな?」

 八郎は意地悪く気持ちの悪い笑みを浮かべ、近川をからかう。


「なっ……この」

「近川君、立場を弁えたまえ!」

 八郎の挑発に怒り狂う近川を、比島が諌める。


「……すみません。」

「とにかく、警備を妹子お嬢様と、月木君の部屋周辺で堅めましょう。皆様もお部屋にお戻りください、くれぐれも不要不急のご用事で出歩かれぬよう。」

「……そうね。」

 比島の言葉に、その場の全員が頷く。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



 改めて、状況を整理する。


 道尾家現当主・主水には自身や故人も含めて、以下の人たちが兄妹としている。


 道尾主水(もんど)

 当主。


 道尾未知(みち)

 主水の長妹。


 道尾八重子(やえこ)

 主水の次妹。


 道尾長秀(ながひで)

 主水の弟。



 そして、彼らの子供たちで、今屋敷に来ているのは以下の通り。


 道尾妹子(まいこ)

 主水の娘。


 ノブリス・ビショップ・道尾・オーヴォ

 未知の息子。


 道尾(おさむ)

 長秀の息子。



 そして、死んだ八重子の夫が昨日使用人・月木に突っかかっていた八郎だ。


 もし妹子の夢が、夢ではないとしたら。

 先ほど妹子が見たという夢は、現実に起こっていることということになる。


 しかし、かといって予知夢ということはない。

 例えば、妹子を眠らせた上で台車にでも載せて運び、犯行現場に連れて行くなどの方法も不可能ではない。


 そしてあの光景を見せた上で、改めてクロロホルムなどで眠らせて部屋に運ぶ。


 台車に載せている時も箱にでも入れてしまえば、怪しまれることはまずない。


 塚井が聞いたという悲鳴も、あらかじめ録音しておいた声を流せば問題ないだろう。


 ただ。

 今回だけでなく前に妹子が見たという夢も含めて、犯人は何故こんなことをしたのか。


 そこがどうも、大門には引っかかっていた。





「はーあ、お風呂にでも入れば落ち着いて頭も冴えるかと思っていたんだけどな……中々難しいか。」

 客間の、風呂にて。

 大門は思索にふけるが、中々妙案は浮かばない。


「教えてあげようか?」

「!? ふ、ふああ!」

 大門はびっくり仰天する。


 そこにはなんと、日出美の姿が。

「な、何でここに!?」


 慌てて身体を隠し、そっぽを向く。

「ああ、安心して。……私は彼女ではないよ。」

「……お前か。」


 日出美の、その年頃の女性には不釣り合いな言葉遣い。

 大門は合点する。()()()だ。


 大門は、便宜上ダンタリオンと呼んでいる。


「日出美は?」

「ふふふ……まだトランクの中さ。」

「……そうだよな。」

「何だい? 彼女じゃなくて残念かい?」

「そんな訳ないだろ!」

 大門は顔を赤くし、反論する。


「また見分けがつかなかったとはね……まったく、頭がいい人というのは、むしろ自分がバカだと自覚していない分タチが悪いな。」

「悪かったな! ……でも、その姿はちょっと……」

 ダンタリオンの方を振り向こうとした大門は、日出美の姿であることを思い出し、慌てて顔を戻す。


「そうか……あのお嬢様の方が良かったか。」

「ふ、ふざけるな! 遣隋使さんに」

 言いかけて大門は、黙る。


 振り向いたその姿は、大門だった。

「これなら、文句ないだろ?」

「……まあね。」


 大門は気を鎮めると、一息つく。

「さて……犯人の意図が読めず、四苦八苦しているんだよね?」

「それはそうだけど……何かしてくれるのか?」

「うーん、それは」


 ダンタリオンは大門の顔を横目で見やり、にやりと笑う。

「それはやってあげてもいいが……私には何の得にもならないからなあ」

「おい〜!」


 大門は拍子抜けする。

「そもそも、君が見ていないものを私が見ているわけないだろう? 私に正解を求めようとするな。」

「……ああ、そうだな。僕が馬鹿だったよ。」

「……犯人に、あのお嬢様を殺す動機はないのかな?」

「!?」


 大門はダンタリオンの言葉に、振り返る。

 しかし。


 そこには、既に姿がない。


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「……奥様。」

 月木は涙を流す。

 まさか、八重子があんなことになろうとは。


「知らなかったとはいえ、私は……私は……」

 月木は悲しさと悔しさで、ベッドを叩く。


 私の、せいだ。


「月木さん?」

 突然、声がした。


「はっ、はい!」

「私。妹子よ。」

「お……お嬢様。」

 月木は顔の涙を拭い、ドアを開ける。


 外には妹子と、警護の使用人たちがいる。

「お嬢様が、どうせ一緒に警護されるなら一緒のお部屋にとおっしゃってね。」


 塚井は、月木に言う。

「は、はあ……すみません、わざわざお気遣いを」

「いいの、私も本当に心細かったし。」


 妹子は月木の部屋に入る。

「ごめん、何かあった?」

「え?」

「その……涙。」


 月木は慌てる。

 顔を拭うと、まだ涙が残っていた。

「す、すみません! 私……」

「いいのよ、ごめん。……私が見たかどうかもわからない夢のことで、不安にさせちゃって。」

「ち、違います! お嬢様!」


 月木は強く言う。

「え? ちょっ、ちょっと月木さん……近い。」

「えっ? あっ……す、すみません!」


 月木は顔を赤くし、離れる。

 身を乗り出しすぎ、妹子に迫りすぎていたようだ。

「ふふふ……謝ってばかりね、あなた。」


 妹子は笑いながら、ベッド脇のティーポットをとり、近くのカップ二つに注ぐ。

「これ、カフェインレスだから。眠る前でも大丈夫よ。」

「ああ、すみませんお嬢様! 私がやるべきところを」

「いいの、何かやってないと不安で。」


 妹子はカップのうち一つを、月木に差し出す。

「すみません、いただきます。」


 月木は申し訳なさそうに、カップをもらう。

「月木さん……あんな自己中オヤジの言葉なんて、真に受けなくていいからね?」

「!? お、お嬢様。」


 月木はカップを、取り落としそうになる。

「落ち着いて、月木さん! ……あんなの、会社だったらとうにパワハラで訴えられてるのに。月木さん、ごめんなさい。雇い主の一人なのに。」

「いえ……いいんです。そんな」


 月木はベッドから立ち上がり、歩き出す。

 その先には、窓が。

「月木さん?」

「お嬢様。私は……本当に死んでも構わない人間なのです。」

「月木さん……」


 月木を追いかけて来た妹子は、窓辺に佇む彼女の横顔に驚く。


 その顔には、溢れんばかりの悲しみが貼りついている。

 まるで、今にも消えてしまいそうな一一

「! お嬢様。」

「月木さん! ……ごめんなさい、こんな劣悪な職場辞めちゃえばいいのに。父に掛け合って、いい再就職先も斡旋してもらうから。」


 妹子は気がつくと、月木を抱きしめていた。

「お嬢様……いいんです。私に、そんな資格……」

 月木はしゃくりあげ、涙も涸れんばかりに泣く。


 妹子も月木を抱きしめる腕の力を、少し強める。

「いいよ、つらかったよね? ……もう、心配いらないから。」



 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「まったくもう! 結ーっ局、一晩置いてけぼりだったんだけど!?」

「それはすまない……ごめん日出美、もう少し声のボリューム」

「あんたが怒らせるからでしょ!」

「……はいすいません。」


 一夜明け、大門は日出美に平謝りする。

「まあでも、ここにいてよかったかも。……実は、あのお嬢様がまた予知夢を見てさ。」

「!? えっ、嘘!」

「本当だよ。しかも今度は」

「た、大変です!」


 二人の会話は突然の叫び声によって、中断される。

「!? まさか」

「ああ……日出美はここにいろ!」

「ちょっ、大門!」


 大門は日出美を残し、駆け出す。

 もし、考えた通りあれが犯行予告ならば。


「月木さんと遣隋使さんが、危ない!」

 大門は走る。




「何があったんですか!」

「あっ……きゅう……じゃない、大君。」

「け、けん……じゃない、妹子さん! 月木さん! よかった、無事だったんですね!」


 大門が駆けつけると、何やら誰かの部屋の前に人だかりが。彼は妹子と月木の姿を見つけ、ほっと胸を撫で下ろすが。

「あれ? じゃあ、何があったんですか。」

「あ、あれ……」


 首を傾げつつ、大門が部屋の中に目をやると。

「!? 比島さん!」


 そこには、死んだ比島の姿が。

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