表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification6 marchosias これは殺人であっても人狼ゲームではない
59/105

conclusion:これは殺人であっても人狼ゲームではない①

「驚かせてすみません……ただ、証拠を掴むにはこうするしかないと思いまして。」

「……!」


 人狼、いや、4()()()()人狼は。


 そのまま踵を返し、走り出す。

 しかし。


「そこまでです! 逃しはしません!」

「……くっ!」


 大門は後ろから腕を掴み、そのまま床に倒す。


「聞こえていますか、皆さん! お話があるので、大広間()()こっちに来て下さい!」


 大門は、大広間()()()に向かって叫ぶ。


「こ、この声!?」

「こ、九衛さん!」

「何で、今出ちゃダメなんじゃ……」


 果たして、大門の叫び声を聞きつけた皆は、訝しみながら自室より出て来る。


 しかし、大広間の光景を見て絶句する。

 そこには。


「こ、これは……?」

「ええ……梯子です。」


 ()()()から聞こえる声に、大門は補足する。


 そう、今皆がいるのは大広間。

 天井より梯子が降ろされている状態である。


 そして、今人狼を押さえつける大門がいるのは。


「そう、この建物の屋根裏をも抜けて……この二階に来るためのね。」


 その梯子を登った先にある、二階だった。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「そ、そんな……」

「こんな所が……」


 梯子を使い二階へと上がって来た皆は、周りを見渡す。


 一階と同じなのは、各棟と大広間()()()にあたる所同士が仕切られている程度。


 今大門のいるのは西の棟の真上。

 他の棟を見比べても、部屋毎の仕切りはない。


 その代わり、大広間と同じく梯子が備えつけられた開閉床が、各部屋の真上に当たる位置にあり。


 それが各部屋の位置を物語っていた。


「で、でも。確か、あの天井裏の板ってぐらつきはしてるけど開かなかったんじゃ……?」

「いいえ、少々複雑な手順ですが開けられました。僕たちはある思い込みによってこの建物が一階建てだと思わされていたために、抜け道についてすぐに追究をやめてしまっていたため気づかなかったんです。」

「……何てことだ……」


 大門の説明に皆、頭を抱える。


「そう、ここは二階。……そして。」


 大門は言いつつ、自分が地に組み伏せている人狼を見る。


「あなたが通ってきた抜け道。そうですね?」

「そ、それじゃあ! この二階を通って……ん?」


 大門の人狼への問いかけに、誰かがこの二階こそが抜け道だったと気がつくが。


 直後にまた首を捻る。


「でも……この二階を通ればあの一階の大広間を通る理由なんてないはず。一体」

「そう、それも疑問でした……では、順を追って悪魔の証明をしていきましょう。」

「悪魔の、証明?」

「……では、始めます。」


 未だ人狼を取り押さえたままの体勢で大門は、皆が首を傾げる様をよそに話し始める。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「ではまず、僕らがこの建物を一階建てと思い込んだ理由です。……それは、ある物がなかったから。」

「ある物?」


 大門の含みある言い方に、皆は更に首を傾げる。


「それは……階段ですよ。」

「……!?」

「そ、そうか!」


 しかし大門のこの言葉には、皆納得する。

 そう、大広間にも東西南北どの棟にも、階段はなかったのだ。


「僕たちはそれにより、外観を知っている訳でもないのにこの建物を一階建てと勘違いしてしまっていたんです。」

「じゃあ、雨の日に犯行がなされたのは……」

「ええ、この二階に関する追究を、早くにやめさせるためです。あの時は僕が雨について指摘しましたが、恐らくそれがなかった場合は人狼自ら、そのことを指摘させるつもりだったんでしょう。」


 一人から発せられた言葉に、大門は答える。

 彼の下の人狼は、顔を伏せたままだ。


 皆はまだ、一階も二階も薄暗く他のメンバーの顔も見れなかったため、人狼が誰かは知らない。


「では、次に。……何故、こんな抜け道がありながら1日目、2日目の夜の人狼は、あの大広間をわざわざ通ったのかについてお話ししましょう。」

「……そう、そういえば……その九衛さんが取り押さえてる人狼と、まだ二人人狼がいますよね? それは」

「ああ、まだご存知ないんでしたね。」


 大門は今あった指摘に、答えようとする。


「僕が取り押さえているのは、4()()()の人狼なんです。」

「よ、4人目!?」


 そう、まだ皆はこの人狼が4人目だと知らされていなかったのだ。


「じ、人狼は4人いたんですか? 一体」

「……これからお話します。」


 大門は皆を制する。


「犯人は逆転の発想によって、このトリックを可能にしたんです!」

「ぎ、逆転の発想?」


 皆は三度首を傾げる。


「……人狼が村人を殺しに行った、という考えに囚われている限り、このトリックは解けないんです!」

「な、何だって!?」


 次には皆息を呑む。


「む、村人が人狼を!?」

「まあ、そうですね。……ただ、もっと言うならば、むしろ人狼がこの4人目の人狼に殺されに行った、という所でしょうか?」

「!? み、自ら殺されに!?」


 場は更に混乱している。


「つまりこういうことです。……1日目、2日目の夜とあの大広間のカメラに映っていた人狼は、それぞれの日に殺された拝島さん、大上さんだったんですよ!」

「な!?」


 人狼が自ら殺されに行ったとは、そういう意味である。


 1日目の夜に殺された明彦、2日目の夜に殺された矢太郎。


 その当時の映像に映っていた、彼らを殺しに行ったと思われる人狼は。


 他ならぬ、彼ら自身だったのだ。

 しかし疑問は更に、増えて行く。


「で、でも! 彼らの部屋は人狼の出て来た棟とは……いや。」


 一人が指摘しかけて、止める。

 そう、その点は。


「そう、そこでこの抜け道です。予め人狼である拝島さん・大上さんともう一人は、アリバイ作りのためにと違う棟から自分の部屋に戻る指示がなされていたんです。一旦違う棟の一室から二階に上がり、自分の部屋に帰るようにとね。もちろん鉢合わせしないよう時間も指示されていたんでしょうけど。」

「な、何てことだ……」

「……いや、疑問はまだある!」


 しかし、次の疑問は。


「人狼が殺されたなら、他の人狼が気付くだろう? それが何故」

「ええ、それは簡単です。真犯人たるこの4人目の人狼は、他の3人の人狼にそれぞれ、事実とは異なるメンバーを人狼として伝えていたんですよ!」

「あっ……そ、そうか!」


 そう、ここで湧き上がる疑問は、明彦が殺されたなら同じ人狼だったはずの矢太郎が同じ手に引っかかるはずないというもの。


 しかし、予め人狼のメンバーを3人それぞれが誤認していたのならば全て解決する。


「そう、さっき思い込みと言いました。それはまず、この建物の階数に関してもありますが……何より、この殺人が人狼ゲームのルール通りに行われているという思い込みに僕らは囚われていたんです!」

「そ、そんな……」


 大門のこの言葉に、皆は戦慄すら覚える。

 そう、『これは殺人であっても人狼ゲームではない』と2日目の朝に大広間のモニターに映し出されたあのメッセージ。


 それはすなわち、『この殺人は人狼ゲームのルールに従って行われているのではない』という心理トリックの真相を伝えるものだったのだ。


「実際の犯行の流れは、こうです。」


 大門はこれまでの推理を、まとめる。

 犯行の流れは1日目・2日目共に以下の通りだ。


 1. 3人の人狼全てが時間差で違う棟から本来の自室へ二階を通り帰る。


 2. 4人目の人狼もその後で自室から二階を通り後に他の人狼が”殺されに”やって来る部屋のある棟に移動する。


 3. 待ち伏せている部屋で、複数のアカウントを使いチャットをすることで4人目の人狼自身及び、大広間で待機している他の人狼のアリバイを作る。


 4. 部屋に”殺されに“やって来た他の人狼を殺し、他の人狼のアカウントのブラウザだけをPCに残し、自身は人狼の身なりをして堂々と部屋を退出。


 5.大広間を通り殺された人狼がいた棟に入り、そこの部屋から二階を通り自室に戻る。


「そんな……」

「何てことだ……」


 皆からは驚きの声が漏れる。


「そう考えれば、役割の内訳が早くに発表された理由にも納得がいきます。……あれは、『今回祈祷師という役割がない』ことを知らせるためのものだったんですね?」

「き、祈祷師?」


 大門の人狼への問いかけに、皆またも首を傾げる。


「ええ、ゲームの中で一回だけ、自分を殺しに来た人狼を返り討ちにできる役割ですよ!」

「か、返り討ち!?」


 しかしこの大門の補足により、皆合点がいく。


 殺しに行った人狼が、返り討ちにされる――

 まさにそれは、今回の事件の真相そのものと同じではないか。


「また、チャットについてです。僕たちがチャットに使っていた各部屋のPCですが、どうやらデータを全てサーバ側に持たせるシンクライアント技術を使っていたようです。だから、あのPCにはメモリがなく、後で調べられても証拠は残らないようになっていました。サーバーも、さっき北の棟の二階で見つけましたし。」

「う、うん……」


 更なる大門の言葉に皆反応する。


「じゃ、じゃあ九衛さん……犯人は一体」


 次は皆、大門により組み伏せられている4人目の人狼に目を移す。


「それは、犯人自らが教えてくれました。……チャット履歴で、犯人はその状況であれば言わないことを言っていたんです。」

「言わないことを……?」


 大門の言葉に、皆首を傾げる。


「さあて……正体を現してもらいましょうか! 4人目の人狼さん?」


 大門は4人目の人狼が被っているフードに、手を掛ける。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「塚井、早く!」

「分かっていますが……法定速度をオーバーして私たちがNシステムに引っかかったら九衛さんだって……いや、そんなことを気にしていられる余裕はなさそうですね!」


 妹子の催促に、塚井は一瞬は迷いつつも車を走らせる。


 大門たちの正確な居場所が分かった訳ではないが、塚井の運転する車に妹子・実香を乗せて深夜の高速を走りつつ、人工知能の分析を待っていた。


 後ろには選りすぐりのSPを乗せた車も付けている。

 警察を動かせない以上、彼らが頼りだ。


「でも……日出美ちゃん残念そうだったね。」

「仕方ないよ……未成年だから。」


 実香の問いかけに、塚井は残念そうに語る。

 日出美も連れて行きたいのは山々だったが。


 上記の理由で、自宅待機してもらうしかなかったのだ。


 日出美もそれは承知してくれ、一つ捨て台詞気味に最後に言い残しただけで特段抵抗はしなかった。


「次は抜け駆け、許さないんだからね!」


「……日出美ちゃんにああ言われたなら塚井、私たちはやらないと!」

「はい……お嬢様!」

「……大門君、もう少しだけ待ってて!」


 高速を走りつつ塚井・妹子・実香は奮起する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ