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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification6 marchosias これは殺人であっても人狼ゲームではない
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解決へのカウントダウン

「お帰りなさいませ、妹子お嬢様!」

「ああ、もう! 執事喫茶じゃないんだからっていつも言ってるでしょ!?」

「申し訳ございません、お嬢様!」

「だーかーら!」


 道尾家の屋敷にて。

 塚井の車にて帰って来た妹子、そして。


「お邪魔しまーす。」

「お邪魔します、すいません。」


 実香と日出美である。


 大門が連れ去られてから3日目。

 彼女たちは彼を救うべく大門たちを乗せたバスのナンバーを停留所のカメラ映像から調べ、それを元にNシステムからのデータを取得させこの屋敷に集めさせていた。


「お待ちしておりました、お客様!」

「ははっ、ご丁寧にどうも。」


 自分たちも丁重に出迎えてくれた執事たちに、実香と日出美は頭を下げる。


「……お嬢様。少しはあの2人を見習ってください。」

「……ごめんなさい。」


 相変わらず癖の治らない主人を、塚井は恥ずかしげに諫める。


「オッホン……ゲホッ! ……塚井。Nシステムからの画像は集まった?」


 先ほどの失敗を取り繕おうとした咳払いが、本当に咳になってしまった妹子は、それでも何とか取り繕い塚井に尋ねる。


「はい、あちらの部屋に。」

「……出来したわ!」


 妹子は俄然活気付き、部屋へ向かう。


「あ、待ってよ妹子ちゃん!」

「正妻を差し置いて抜け駆けなんて、そうはいきませんからね!」

「……ごめんなさい。」

「! あ、いや……み、実香さんは違いますよ?」


 何気ない日出美の言葉が、実香の心に刺さる。


「……ううん、あたしはきちんと責任取る。大門君の、初めての女として!」

「うっ!」

「くっ! つ、塚井!」

「お、お嬢様、日出美さん! ……みーかー!」

「あっ……か、重ね重ねごめんなさい!」


 今度は図らずも自分の言葉が妹子や日出美の心にクリーンヒットし、実香はしおらしく謝る。


 ◇◆


「……何はともあれ、さあ〜データは揃ったわ! あとはここから九衛門君たちの連れ去られた先を割り出すだけよ!」

「はい、お嬢様!」


 気を取り直して。

 道尾家の屋敷内にある視聴覚室に入った一行は、妹子が(言い方は悪いが)道尾家の威光を笠に着て集めたNシステムによる映像を前に気合を入れる。


「しっかし、中々膨大じゃない?」

「本当だ……これをどうやって?」

「ふっふっふーん! ……塚井!」

「はい、お嬢様!」


 しかし量の多さに途方に暮れる実香・日出美を安心させるべく、妹子は塚井にブツを持って来させる。


「な、何? パソコン?」

「ただのパソコンじゃないよ、実香。これは」

「そーう! これぞ道尾家が金に物を言わせて開発させた、新型AIよ!」

「し、新型AI!?」

「おおっ、凄そう!」


 塚井の説明を遮り、妹子は意気揚々と解説する。

 塚井は妹子の相変わらずの言い方にため息が出るが。


 ひとまずこの場ではスルーする。


「……何はともあれ。このAIにNシステムのデータを読み込ませれば、データ量にもよりますが1日と掛からずに行方を絞り込めます!」

「おおおおっ!」

「す、すごい!」

「うん塚井、私が説明したかったんだけど……」


 今度は塚井が妹子を遮る。

 遮られた妹子は不平不満を漏らすがさておき。


「……さあお嬢様。データをどんどん、AIに読み込ませましょう!」

「だから……うん、分かったわ。」


 妹子は憮然としながらも、机に積み上げられたディスクをPCに読み込ませる。


「つ、塚井……これで大門君、助かるよね?」

「……大丈夫! 九衛さんはきっと。」

「そ、そうよ実香さん!」

「私の旦那なんだから!」

「うん……そうだね!」


 女性陣はこうして、大門の救出準備の大詰めに入る。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「(さて、どうしたものか……)」


 所は変わり、大門たちが幽閉されている施設。


 大門は大広間に集まった皆を、見渡す。

 本来なら本日のリタイヤを決めた後で、部屋に帰る所だが。


 大門が、皆を呼び止めたのである。


 彼らがツアー日程変更を装って集められ、この施設に連れて来られてから3日目。


 否応なしにさせられている人狼ゲームも、参加者の相次ぐ死により完全なデスゲームと化した。


 それにより皆も、躍起になって犯人・人狼を探し出し。


 2人をリタイヤ部屋に押し込めた所である。


 人狼は当初10人のこのグループ全体に対し、3人設定されている。


 前述の通り、前日までに2人死んで2人リタイヤしている。


 もしリタイヤした2人のうち、どちらかが人狼であれば後2人、どちらも人狼であれば後1人の人狼がまだ紛れ込んでいるということである。


 放っておけば今夜も、人狼は誰かを殺すだろう。

 その前に、何としてでも犯人を暴かなければ。


 大門はその堅い決意を胸に、今この場にいた。


 しかし、やはり気になることは多すぎる。

 無論、人狼が誰かということも気になるが、それ以上に


「さあて、霊媒師さんも占い師さんも名乗り出る気になったかな?」


 千鳥が築子・紗千香・日比野・坂木に促す。

 未だに考え込んでいる大門に代わってである。


 大門が皆を引き止めた時の口実が、今の内に人狼以外の役割を明らかにしましょうという内容のものだったからだ。


 今一度確認すると。

 今回の人狼ゲームのルールは、以下の通り。


 ・役割は、力無き村人たちと霊媒師・占い師、そして人狼の4種。


 ・大広間の時計は0時に鳴る。

 それ以降は、自室に戻り人狼以外は部屋を出てはならない。


 ・その翌朝は、7:00に部屋の時計が鳴る。

 それにより、プレイヤーは自室から出て大広間に集合しなければならない。


 ・朝、大広間に集合した後。その日人狼と疑わしき者を4時間の制限内に1人選定しリタイア部屋に押し込む。


 ・人狼の数は3人なので、村人側はその3人を全てリタイヤ部屋に押し込めれば勝利。


 ・村人側はその時点での人狼と同数まで減らされてしまった場合、即刻敗北となる。


「……そもそも、この中にまだ霊媒師・占い師どちらか、またはどちらも残っていますか?」


 その時大門が皆に尋ねる。

 皆はお互いに視線を送り合うが、誰も名乗り出ようとしない。


 と、その時である。


「えっと……」

「! 坂木さん。」


 手を上げるものがいた。


「わ、私が霊媒師……と、いうことになっています。」

「……と、いうことになっている?」


 大門は坂木の釈然としない言い方に、思わず鸚鵡返しになる。


「あ、いや……確かに霊媒師ではあるんですけど。その役割をまだ、果たしていなくて……」

「……なるほど。」


 霊媒師――リタイヤした者が本当に人狼だったのか確かめることができる役だ。


 そして占い師は、リタイヤしていないプレイヤーの中で1人、人狼であるか否か知ることができる役だ。


 いずれも()()()()()()村人にとってこの上ない安心材料だが。


 中には人狼であるのにこれらの役を装う人もいるので、そうおいそれと信用できるものではないのだ。


「ま、まあでも! 既にリタイヤしたあいつらはもう人狼でほぼほぼ確定的だし! 霊媒師が出るまでもないって。」

「は、はあ……」


 築子の言葉に、坂木は頭を掻く。

 確かにあの2人は、()()()()()()()疑わしかったが。


 大門はその不自然さ故に、本当に彼らだったのかと疑問を持っている。


「……では、占い師は」

「あ……私です。」

「あ、岩本さんですか。」


 大門の声に、紗千香が答える。

 なるほど、彼女だったか。


「じゃあさ……異論ある人は?」

「え? 異論?」

「千鳥さん、それはどういうことですか?」


 千鳥が口走ったこの言葉に、皆は首を傾げる。


「いや、だって……坂木さんや岩本さんが人狼で、嘘をついてないって言えんの?」

「……そうですね。」

「わ、私たち疑われてます?」

「そ、そんな!」


 千鳥の言葉に大門は肯定を返す。

 紗千香と坂木は、大慌てだが。


「だけど! さっきも言ったでしょ? 1日目・2日目の夜は部屋のある棟やチャット履歴から考えて、元樹や竜騎以外あり得ないって。それは、どう説明するの?」


 築子が反論する。


「それは……確かに。」

「でしょ?」


 千鳥は黙る。

 確かに、大門もそこが分からずにいるのだ。


「じゃあひとまず……岩本さんと坂木さんは嘘ついてないってことだな? ……日比野君、さっきから一言も話していないが。」

「いや、ないです。」


 千鳥が気を使って日比野にも発言を促すが、彼は短くそう答えただけだった。


「……じゃあ、決まりでしょ?」

「ありがとうございます、生稲さん。」

「いやあいいの! 数少ない女同士のよしみって奴よ!」


 紗千香は築子に、礼を言う。


 まずいな――


 皆の話に耳を傾けつつ思索に耽っていた大門は、現状に慌てる。


 このままでは、皆自室に戻る流れになってしまう。

 そうして、2日目と今朝のごとく――


 いや、そんなことに三度なったら、自分は何の為にここにいるのか。


 そうはさせまい。

 それまでに何とか、解決しなければ。


「(……これが悪魔の証明ではないという悪魔の証明、この僕が請け負う!)」


 大門は力強く、改めて決意する。


「(……出て来てくれ、ダンタリオン! ……いや、出て来い、ダンタリオン!)」


 大門は念じる。

 最初は頼む体であったが、すぐに命令口調に変える。


 なりふり構っていられないのだ。


「……全く、それが人に物を頼む態度か?」

「(……出て来てくれたか。)」


 つっけんどんな態度ながらも、ダンタリオンは日出美の姿で目の前に出て来てくれた。


「(……またいつも通り、真相には辿り着いているんだろ!? お願いだ、どうか)」

「ふう、悪魔の証明者が聞いて呆れるな。」

「(……くっ!)」


 ダンタリオンからの辛辣な言葉に、大門は返す言葉がない。


「(もう、時間が……お願いだ!)」

「……なあ、人狼ゲームの役割って今回の4つだけなの?」

「(……は?)」


 しかしなりふり構わず頼み込む大門に、ダンタリオンは不意に話を振る。


「(い、今はそんな場合じゃ)」

「あっ、そっ! ……なら、これまでだよ。」


 ダンタリオンはそっぽを向き、今にも消えようとする。


「(よ、妖狐とか狩人とか、あと狂人とか……まだ沢山いるさ!)」


 大門はやむを得ず答える。

 内心焦る一方だが。


「なるほど……じゃあさ、今言ったのも含めて、全種類の役割を挙げてくれよ!」

「(う、うーん……妖狐、狩人、狂人……ん!?)」


 渋々大門が答え続けた、刹那だった。

 頭を電撃が、駆け巡る。


 カメラの映像。

 何故か大広間に止まる人狼。


 これは殺人であっても、人狼ゲームではない――

 2日目朝にモニターに表示されたこのフレーズ。


「(……そうか。あれはそういう意味だったのか。……なら。)」


 大門は次に、天井裏のぐらつく板を思い出す。

 しかし、仮にあれを開けて屋根に出られたとしても。


 雨が――


「(……いや、待て。……そうか、僕は大きな勘違いをしてしまっていたんだな。それも2つも。)」

「……ほう?」


 大門の頭が、ようやく冴える。

 ダンタリオンは、満足げに笑う。


「(……これが悪魔の証明ではないという悪魔の証明、終了した。)」

「……さて。そろそろ部屋に戻るか。」

「……そうしましょう。」

「……賛成!」


 大門が悪魔の証明を終えた頃。

 ギリギリ、皆が部屋に行く時に間に合った。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 この日こそ、終わりの日だ――


 人狼はゆっくりと、歩き出す。

 自分のいる棟から、大広間()()()を通って――


「!?」


 しかし、大広間()()()の床を見て、人狼は絶句する。


 何と――


「驚かせてすみません、4()()()()人狼さん。」

「!?」


 後ろから聞こえた声に、振り返る。

 そこにはいるはずのない、大門の姿が。


「……さあ、これから悪魔の証明を始めましょう。」


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