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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification6 marchosias これは殺人であっても人狼ゲームではない
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凶刃の2日目

「ごめん! お待たせ皆。」

「大丈夫、私は。」

「私だって!」


 自社ビルから出て来た実香は、塚井の車に戻って来た。

 大門が連れ去られた翌日。


 すっかり日も落ちた時間だが、実香は塚井・妹子・日出美らを呼び出し大門を危険に巻き込んだことを詫び、その上で彼女らに大門の救出に協力してもらっていた。


「……あれ? 日出美ちゃんは?」

「未成年だったので、お返ししたからご安心を。」

「あ、そっか……」


 さすが、塚井はこの辺しっかりしていると実香は内心唸る。


 尤も、その際日出美の並々ならぬ抵抗にあったのは目に浮かぶようであるが。


 さておき。


「それで、実香さん? ……何か、九衛門君たちに繋がりそうなものあった?」


 妹子が、尋ねる。


「ああ、それが……」


 実香は萎れる。

 結局上司の目もあり、資料などはあまり調べられなかったのだ。


「うーん……まあ、仕方ないよね。……でも実香、ふと思ったんだけど。」

「! な、何?」


 塚井はふと、実香に話す。


「九衛さんたちは、一人一人攫われたのかな? ……一斉に攫うやり方も、もしかしたらあるんじゃない?」

「あっ……!」


 実香ははっとする。

 そうか、そしてその場合。


「だとしたら塚井、妹子ちゃん。……あたしが心当たりある人、一人いる。」

「!? ほ、本当に?」

「うん。」


 実香は力強く頷く。

 その目には、希望が宿っていた。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「昨夜僕たちは、部屋に備え付けのパソコンでチャットをしていた。そうですね?」

「あ、ああ……そうだ。」


 翻って、犯人に誘拐されたツアー参加者たち。


 時は、実香たちが大門救出作戦を練った次の日。

 大門は皆に確認する。


 ツアーを装って眠らされ、この建物に連れて来られた大門たちだが。


 人狼ゲームをさせられることになり、半ば文字通りのゲーム感覚だった1日目から打って変わり。


 2日目。

 犠牲者が一人出てしまったことにより、完全に皆冷静さを失ってしまっていた。


 その犠牲者というのは。


「だ、誰が拝島を殺したんだ!」


 明彦だった。

 東の棟の一室にて、その事件は起こった。


 明彦はベッドの上でナイフを刺され殺害されていた。


「落ち着いて下さい。ここは、状況を整理しないと」

「あ、あんたは部外者だからそんなことが言えるんだよ!」


 冷静に事を進めようとする大門とは対照的に、こんな風に騒いでいるのは明彦らが所属するサバイバルゲームのチームリーダー、元樹だ。


「石毛さん」

「あ、あの……」

「何だ!」


 大門の言葉を誰かが遮る。

 取り乱したままの元樹は、ついその人物に当たってしまうが。


「す、すいません……私です。」

「! い、岩本さん!」


 紗千香だった。


「い、いや……俺の方こそごめん……」


 元樹はバツが悪そうにする。


「岩本さん、何かありましたか?」

「お、大広間のモニターに……何か、映し出されて。」

「! ……分かりました。皆さん、行きましょう。」


 紗千香の言葉に、大門は皆を促す。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ――昨日の大広間のカメラ映像を提供する。

 さあ、4時間の制限時間以内に犯人・人狼を探し出してくれ。


「……モニターの下の引き出しが、開きましたね。」


 大門がモニター下を見つめる。

 開いた引き出しの中からは、パソコンが。


「これは……ん!?」


 大門がパソコンを開くと、突如パソコン画面に何やら映像が映し出される。


「こ、これが……」

「大広間の、カメラ映像……?」


 皆息を呑む。

 そこには、モニターの表示通りに映像が映し出された。


 昨日の夕食のシーンで、アングルは真上だ。

 誰からともなく、皆天井を見上げる。


 はっきりとは見えないが、シャンデリアの中にでもカメラが仕込まれているのだろう。


 そして。


「あ……すいません、一度止めます!」

「え? こ、九衛さん!」


 大門は次に切り替わった映像の、再生を一時停止する。

 それは。


「これ、僕とトランプをしていたメンバー以外が部屋に戻るシーンですよね?」

「あ、ああ……」

「ここから、誰がどこの棟か分かりますね。」


 そう、誰がどこの棟にいるのか分かるように止めたのだ。


 当たり前だが、この映像は北を上に東西南北の棟入口までが映されている。


「ええっと、まず……東の棟ですね。」


 大門は確認する。


 東は今回殺された、明彦の他。

 竜騎が入って行く姿が映っていた。


 続いて、西の棟。

 西には、誰も入っていかない。


「あと、この時点ではまだ戻っていませんが……僕と岩本さん、坂木さんも、西の棟ですね。」

「あ、はい。」


 大門は打ち明ける。

 紗千香も、肯定する。


 そう、この後の映像にも恐らく出ているが。

 トランプを終えた後大門と紗千香は、同じタイミングで自室のある西の棟に戻っている。


 その時大門は、確認した。

 西の棟に、何があるのか。


 結論としては、大門の他上記二名の使われている部屋のうち、空き部屋が二つほどあっただけだ。


 また後で確認しなければならないが、ひとまず他の棟も同じではないだろうか。


 さておき。


 次に、南の棟の人物。


 見た所、矢太郎・築子が南側のドアに入って行く。

 そして、この時点では映っていないが。


「僕も、南だよ。」

「あ、そうなんですね。」


 千鳥も、南側の部屋だった。

 実際、この後でポーカーが終わった時間の映像も見たが、彼は自分で言った通り、南側のドアから行った。


 もちろん、大門と紗千香・坂木も自分で言った通り西側のドアから行った。


 続いて、北の棟の人物。


「これは……石毛さんと、日比野さんですね。」

「あ、ああ……」

「はい。」


 やはり、元樹は何やら落ち着かない。

 日比野は昨日のままというべきか、物静かに答える。


「そして……! こ、これは!」


 そのまま、動画の時間を進めて行った大門は息を呑む。

 いや、この場にいる全員と言うべきか。


 なんと、大広間にフードを目深に被った怪しげな人物が。


「こ、これは……」

「まさか、人狼!?」


 声を上げたのは竜騎と、築子だった。

 そして、全員が息を詰めて動画を見る中で。


「あっ、じ、人狼が!」

「……座りましたね。」


 またも全員が驚いたことに。

 なんと人狼らしき人物は、そのままターゲット――明彦の部屋に向かうのかと思いきやさにあらず。


 大広間のソファに、優雅に腰掛けたのである。


「何を、する気だ……?」


 そのまま、人狼の動向を見続けるが。

 変化がなさそうなので、大門はそのまま早送りした。


 一応、何かあればすぐ止められる程度のスピードではある。


 そして。


「! う、動いた!」


 千鳥が声を上げる。

 人狼らしき人物は、やがてソファから立ち上がり。


 そのまま、向かった先は無論。


「ひ、東の棟! ……明彦の、部屋だ……」


 大門がその声に見渡せば、他の人たちは皆顔が青ざめている。


 人狼らしき人物は、東のドアへと入っていった。


「……やはり、これは人狼でしょう。」

「! そ、そういえば……人狼って、どのドアから大広間に……?」


 大門の言葉に続けて、紗千香が疑問を口にする。


「えっと……北からです。」

「北から、東に……じゃあ、まさか北の人が……?」

「恐らくは。もう少し、見てみましょう。」


 大門は紗千香を宥め、更に動画を進める。

 人狼らしき人物が東のドアに入り、それほど時間は経たない内に。


 東のドアから、人狼らしき人物がまた出て来た。

 いや、正確には大広間に、入ったというべきか。


「ど、どこに行くんだ……?」


 元樹は、息を詰めて人狼らしき人物を見つめる。

 人狼らしき人物が、そのまま向かう先は。


「……やはり、というべきでしょうか。」


 大門は息を呑む。

 彼の言う通り、やはりと言うべきか。


 人狼らしき人物は、そのまま北のドアを開け北の棟に入っていった。


「……つまり、人狼は北の人ってことか。」


 矢太郎が、ふと漏らす。


「……つまり。」

「!? お、俺かよ!」


 皆の視線は、元樹。

 と、もう一人。


「……と、日比野さんですね。」

「……ああ。」

「……へ?」


 日比野がいる。

 心なしか、元樹は少しほっとしたようだ。


「ちょっと元樹。大丈夫? なんか今朝から変だよ?」

「い、いやそんなの……何でもねえよ!」


 築子は元樹を心配するが、彼はぶっきらぼうに答える。


「で、でもさ! 人狼が大広間をウロウロしてたなら……その時間にアリバイない奴が人狼なんじゃないか!?」


 声を上げたのは矢太郎だ。


「でも、アリバイって」

「そうか……さっき九衛さんが言っていた、チャットですね!」


 築子が呈した疑問を、紗千香が解決する。

 そう、昨夜行われていたチャットを見ればいい。


 昨夜、もしものためにと行われていたチャットが本当にアリバイ証明になるとは皮肉な話である。


 ◆◇



 九衛:皆さん、起きていますか?


 岩本:は、はい! 起きています!


 拝島:あ、皆起きてるみたいですね。

 じゃ、始めましょうか。


 石毛:さあて、何話そっかな〜!


「あ、拝島の奴。」

「拝島君、まだこの時は生きていたんだね……」


 矢太郎と築子は、ため息を吐く。

 やはり仲間が殺されたことに、二人とも感じるものはあるようだ。


 場所は大門の部屋。

 他の部屋にもあるように、パソコンが置いてある。


 そのパソコンから、昨夜のチャットを見ていた。

 上記のチャットは、始まったばかりの頃の会話だ。


 そのまま、読み進める。


 拝島:あ、雨止んだみたいだな。窓から夜明けの光だ。


 岩本:あ、本当ですね。眩しいな……


 築子:なんか、外出ないと日光眩しいよね。


「やっぱり……ないよな、元樹?」

「うっ……」

「! ち、ちょっと元樹!」


 チャットを読み進めていた矢太郎は、元樹に問いかける。

 元樹のチャットが、始まったばかりの時はともかく、その後一切見当たらないのだ。


 人狼らしき人物が大広間をうろついていた時間のみならず、どの時間にも。


「まさか、それで今朝から怪しかったの……?」

「で、出鱈目だ! 」


 築子の言葉に、元樹は叫ぶ。


「だけど、北の棟にいてアリバイのない奴はお前しかいないじゃないか!」

「そ、そんなの!」


 矢太郎の言葉に、さらに元樹は反論する。


「他の棟にいた奴らでも! 例えば隠し扉を使うとかすれば行けるんじゃねえか?」

「苦しい言い訳だな!」


 元樹の言葉を、矢太郎は否定する。


「まあまあ! ……でも、確かに隠し扉や通路があるかはまだ確かめていません。一度、この建物を調べてみましょう!」


 大門は皆に、呼びかける。

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