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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification6 marchosias これは殺人であっても人狼ゲームではない
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幕開けの1日目

「なるほど……まあ、事情は分かった。まあ、あんたの責任じゃないよ。」

「……ありがとう、塚井。」


 塚井の慰めの声に、実香はまだ涙声で答える。

 塚井は自らの言葉が親友には慰めにもなっていないことで、歯がゆい思いだ。


 大門が実香の誘ったツアーに参加し、バスに乗りどこかの建物まで連れて行かれたのは、こうして喫茶店で実香・妹子・塚井・日出美ら女性陣が話している時間軸から見て1日前のことになる。



 実は、大門の嫌な予感通りというべきかツアーの出発日程は変更されてなどいなかった。


 しかし、そもそもこの偽日程が参加者たちに知らされたことをこれまた実は、当の参加者たち以外は知らない。


 また、クボを名乗る会社の者が大門に電話したということも。


「実香さんが、九衛門君来ないな〜って待ちぼうけ食ってたら、会社からお電話が?」

「うん……」


 妹子の改めての質問に、実香は俯きながら答える。

 その電話は、会社に脅迫状が送りつけられていたというものだった。


 脅迫状は、よく会社に来る郵便のように偽装されていたため、受け取った営業部長はしばらくは気付かなかったようだが。


『貴社のミステリーツアー客は預かった。返して欲しければ、一億の身代金を用意しろ。ただし、警察に知らせれば人質となる客の命はないと思え。

 次の指示は、別の手紙にて行う。』


 その日のうちに開封し、真っ青になったという。

 しかし、悪戯の可能性もあるということで出発地で待機している実香と彼女の直属の上司・船戸(ふなど)課長にまずは電話した。


 そのまま様子見として、実香と船戸は待機していたのだが。


「バスには時間になっても誰も乗りに来なくて……さすがに会社からも予約のお客様に確認の電話を入れて、あたしも大門君に電話したんだけど……」


 実香はそこで堪えかねたのか、俯いた顔を両手で隠しすすり泣く。


「実香……」

「実香さん……」

「実香さん……」


 彼女のそんな様子に、塚井も妹子も日出美もどうするべきか図りかねている。


 今まで実香のこんな様子はそうそう見たことがない。

 あの、新興宗教の事件以来だ。


 しかしあの時も、こんな風に他の女性陣たちに泣き顔を見せることもなかった。


「ごめんなさい……あたしが軽率に大門君を誘ったりしたせいで……そんなことをしなかったら、こんなことには……」

「実香……」


 確かに、そもそも論を言えば実香が抜け駆けを図ったことによる。


 しかし、さすがにこの場ではそれを責める気にもなれない。


「……でも、待って。どうやって犯人は、九衛さんたちを誘拐できたんだろう?」


 塚井は首をかしげる。

 無論、これは少し話題を変えて実香の気休め程度にはしようという意図あってのことだったが。


「わからない……でもごめんなさい。あたしこの所忙し過ぎて、スマホも見る暇なくて……」

「それは、いつものことだし。」


 塚井は尚もフォローする。

 実際、実香は忙しいとスマホを見ないことはよくある。


「……もしかしたら、その間に大門から何か連絡があったかも。」

「!? ひ、日出美さん!」


 日出美の口をついて出た言葉に、塚井は慌てる。

 それではまるで。


「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

「み、実香!」

「……私も、ごめんなさい。」


 まるで実香を責めるかのような言葉。

 案の定実香の泣きは勢いを増してしまった。


 日出美もさすがに自身の発言には責任を感じたのか、謝る。


「……塚井、ひとまず場所を変えましょう。うちの車とか。」

「……はい、ありがとうございますお嬢様。」


 珍しく機転を利かせる妹子に、実香の背中をさすりながら塚井は礼を言う。


 さすがの塚井も、親友がこうなってはオロオロしてしまっていた。


 ◆◇


「……少しは、落ち着いた?」

「うん、ありがとう塚井。……妹子ちゃんと日出美ちゃんもありがとう。そして……本当にごめんなさい!」


 道尾家自家用車の後部座席で涙を拭き終えた実香は、皆に礼を言う。


「なあに、実香さん! 大丈夫大丈夫。……だって、私の旦那なんだよ?」

「日出美ちゃん……」


 日出美は後部座席の実香の左側から彼女の顔を覗き込み、サムズアップする。


「そうね……あの九衛門君だもの、きっと殺されても死なないんじゃないかしら。」


 妹子は助手席から言う。


「妹子ちゃん……」

「そうですねお嬢様、激しく同意ですね!」

「塚井……」


 実香は皆の励ましの声に、顔を上げる。


「あんたが九衛さんに申し訳ないって気持ちは分かった! でも、どうせならその言葉。直接あんたが会って言わないと!」

「……うん!」


 実香はその塚井の言葉にようやく、笑顔になる。


「さあさ実香! あんたは九衛さんの初めての女でしょ? そんな弱気でどうするの?」

「……そうだね、あたしにできることを探さなくちゃ!」

「くっ!」

「ぐっ! 塚井〜!」

「え? ……はっ! お、お嬢様、日出美さん! だ、大丈夫ですか?」


 塚井は自身の言葉が、実香は元気づけたが妹子・日出美の初心シスターズに少なからずダメージを与えたことに気づきはっとする。


「さあ皆、ごめん! ……今はあたしも、できることをやらせてもらう。だってあたしは、大門君の」

「だ〜! もう止めてえ!」

「ひ、大門は私の旦那なんだからね!」


 実香の言葉に、また初心シスターズが反応している。


「ふふふ……」

「まったくあんたは……またお嬢様や日出美さんをからかって!」


 塚井は呆れている。

 まあ、これでいつもの実香になったというべきか。


「さあて、それじゃあ! ……塚井。悪いけど会社まで送ってくれない? ちょっと抜け出しちゃってて。」

「はあ……もうあんたは!」

「会社に! ……手がかりがあるかもしれないし。今回のツアー企画のいきさつとか。ね?」

「……お嬢様、いいですか?」

「ええ、もちろん。」

「さあ、出発進行!」


 こうして女性陣は、動き出す。

 大門を助けるために。




 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■■□■


 時は、大門たちが連れ去られた翌日。

 上記のように実香・妹子・塚井・日出美らが話していた時間軸より数時間前。


 ここは、人狼ゲームの会場である。


 実は皆の自己紹介が終わった後、更なるルールの発表があったのだ。


 ――君たちの荷物は、他の場所で預かっている。

 今この場にはだから荷物はないが安心してくれ。

 今回、大広間の時計は0時に鳴る。

 それ以降は、自室に戻り人狼以外は部屋を出てはならない。

 その翌朝は、7:00に部屋の時計が鳴る。

 それにより、プレイヤーは自室から出て大広間に集合しなければならない。


 ――今回、村人の内訳は。

 力を持たぬ村人、霊媒師、占い師。

 人狼を含めれば、このゲーム全体で役割は四つ。

 では、ゲームを開始してくれたまえ。


 それだけ言うと、モニターはひとりでに暗くなった。


「……へえ、やっぱり面白そうね!」

「はあ、そうですね……」


 築子の問いかけに、紗千香は曖昧に笑う。


「まったく、にしてもなんか気味悪いな……」


 元樹は少々、訝しんでいた。

 自分の荷物がなかったりすれば、これは当然といえる。


 むしろ、あまりにも全体的に訝しむ空気が薄いといえた。


「何、びびってんの?」

「そ、そんなことはねえよ!」


 元樹は築子の言葉に、ムキになって答える。


「……ん?」


 大門はふと、気になる。

 何やら先ほどから坂木が、挙動不審なのだ。


 やけに周りをキョロキョロと見渡している。


「(どうしたんだ? あの人。)」


 大門は気になるが、しかしそれ以上に気になっていたことがありすぐにそのことは頭から離れる。


 その、気になっていたこととは。


「(実香さん、大丈夫かな……?)」


 実香はもしや、何かの事件に巻き込まれたのではないかということだ。


 実際、クボから電話があった後大門から実香のスマホに電話をしてみたのだが、連絡がつかなかった。


 実香が忙しい時は、スマホを見ない癖も知っていたのでこのこと自体は珍しいことではない。


 しかし、やはり胸騒ぎがした。

 とはいえ、本当に忙しいだけだとしたら会社に連絡したりされても迷惑なだけだろう。


 何より、このツアーそのものに嫌な予感がするのだ。


「(事件が起こりそうなら……むしろ行って解決すべきだと思って来たけど。)」


 大門がそれでも来たのは、そういった理由からだ。

 これも、探偵の性というべきか。


 ◆◇


「じゃ、俺たちはそういうの苦手なんで先に行くわ。」

「あ、すみません……」

「い、いやあいいんだって! それより九衛さん、岩本さん、千鳥さんやろう。」

「あ、はい……」


 そうこうするうち、大広間に置いてある缶詰とペットボトルで夕飯を済ませ夜11時になり。


 坂木は今言ったメンバーで、ポーカーを始めていた。

 トランプはモニターの側に出してあったものだ。


 他のメンバーは、大広間の東西南北それぞれの扉を潜って行く。


 扉の向こうの四方それぞれの棟に、各個室があるのだ。


「……ロイヤルストレートフラッシュです!」

「……くっ!」


 大門が手役を見せると、坂木が一番悔しがる。

 意外にも、こういう所は感情豊からしい。


「また、九衛さんの勝ちですね。」


 紗千香が、笑顔で言う。


「ううん……俺も、トランプは自信あるんだけどな……」


 千鳥も悔しそうだ。


「もう、一回!」


 と、その時。

 時計の音が鳴る。


「0時を告げる音ですね。さあ、人狼以外は出てちゃだめですよ。」


 大門は立ち上がる。


「いやいや……()()()()()、だろ?」

「……はい?」


 千鳥は大門に、笑いながら言う。


「な……まさか、千鳥さん」

「冗談だよ! ははは!」

「……脅かさないでくださいよ。」


 笑う千鳥に、紗千香と坂木は心底呆れ顔を見せる。


「さあて……誰が死ぬかな?」


 そう言ったのは、やはり千鳥だ。


「……千鳥さん!!!」

「ははは!」


 大門・紗千香・坂木から責められた千鳥は、悪戯が成功してかすっかりご機嫌だった。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「人狼だ! じ、人狼にやられたんだ!」


 2日目の朝。

 大広間の東西南北四つの扉のうち、東側の扉に通じている東棟の一室にて遺体が発見される。


「皆さん、落ち着いてください!」

「お、落ち着いてなんかいられるかあ!」


 部屋の前で待機させられているメンバーは、激しく取り乱している。


 それをどうにか、大門は宥める。


「……もう一度、状況を整理しましょう。」

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