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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification6 marchosias これは殺人であっても人狼ゲームではない
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訪問者K

「ゲーム感覚で人を殺すのは、さぞかし快感だっただろう……しかし、逆にゲーム感覚で殺されるのは、どうかな?」


 蝋燭の火が、揺れる。

 それは()()の、心を揺らす。


 ――や、止めてくれ!

 ――いいや、お楽しみはこれからだろ?

 ――ほらほら、何苦しんでんだよ!

 ――楽しいだろ?

 ――笑えよ!

 ――何だよ、もう終わりかよ。


「……逆も然り、だよねえ? 自分が殺して楽しいのなら、さぞかし人に殺されるのも楽しいよねえ?」


 犯人は、笑う。

 いや、笑おうとする。


 しかし、笑えない。

 笑えない。

 笑えない――


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「ミステリー、ツアーですか?」

「そっ! どうかな?」

「うーん……」


 事務所にて大門は、首を捻る。

 菖蒲郷の事件より、一月と少し経った頃。


 ふいに事務所を訪ねて来た実香は、大門に自身の勤める旅行社のツアーを勧めていた。


「夜出発の、目的地不明のツアーか。」

「面白そうでしょ? 丁度あたしが担当させてもらえることになったんだ! どうかな?」

「いや、面白そうですね! なんですけど……」

「なあに? はっきりしないなー」

「ひ、実香さん(ひははん)喋れません(はへへまへん)……」


 渋る大門は業を煮やした実香に、両頬を抓られる。

 大門も、渋る理由を聞かれてもはいそれは、とはっきり答えられない。


 何故か妹子・塚井・日出美が大門を睨んでいる光景が頭に浮かんだからだ。


 何やらそれを言うのも地雷を踏む気がして、大門はその理由を話せずにいたのだ。


「はあ、はあ……うーん、しかし! やっぱり魅力的なツアーですね……行きましょう!」

「やった! 大門くん!」


 大門の言葉に、実香は大喜びである。


「(まあ、妹子ちゃんや日出美ちゃんには悪いけど……)」


 実香の頭にも、大門の思い浮かべる光景と同じそれが浮かんでいたのだ。


 人には抜け駆けを許さんと言っているのに、である。

 さておき。


「じゃ、当日はお楽しみに、ね♡」

「あ、はい……」


 うきうきした様子の実香をよそに、大門は何やら浮かない表情だ。


 それは、第六感というべきか。

 探偵の性というべきか嫌な予感がするのだ。



 ◆◇



 それから少し経った頃。

 突然大門のスマートフォンに、覚えのない電話番号から電話が。


「……もしもし?」

「あ、どうもお世話になっております! 九衛さんの携帯でよろしいでしょうか?」

「ええ、僕が九衛です。」


 男性の声だ。

 しかしそれは、どこか不自然な低さがあった。


 どこか、機械で変換されたような。


「私、十市よりこの度の弊社ミステリーツアー担当を引き継ぎました、クボと申します。」

「あ、初めまして。」


 実香から担当を引き継いだ?

 何か彼女に、都合の悪いことでもあったのだろうか?


 しかし、大門がその疑問を口にする前に。


「えー実はですね、出発日時が変更となりまして。今から申し上げます。」

「あ、はい。」


 変更となった出発日時は、当初の日付の前日だった。


「ご都合よろしいでしょうか?」

「あ、はい……」


 大門は曖昧に頷く。

 ここで、何か勘が告げていた。


 これは何か、危険であると。

 しかし。


「……はい、大丈夫です。」

「ありがとうございます! では、お待ちしております!」


 電話は切れた。


「ふう……何も起こらない、よな?」


 大門は呟く。

 口調こそ、確認であるが。


 その実、願望であった。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



「ここか……よし。」


 出発当日。

 大門はバス乗り場を訪れていた。


「……九衛です。」


 大門は、バスに乗り込んで小声で運転手にそう告げた。

 運転手は手のひらを大門に向ける。


 了承のサインだ。


「……席はここか。よし。」


 大門は指定された席に座る。

 このミステリーツアーには、いくつかルールがある。


 その一つが、出発するバスの中では他の乗客やガイドと話してはいけないということ。


「(中々、重々しいな……)」


 最初から徹底していると言うべきか、既に車内は薄暗くなっている。


「(うん、こんな中でこれから何時間も……ん? な、何か……)」


 大門は急に、睡魔に襲われる。

 何か、エアコンの空気を吐く音が荒くなったような気がしたが。


 それについて考える間も与えんとばかり、意識は奪われていく――


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



「ん……?」


 ふと大門は、目を覚ます。


「な、何だここは……?」


 周りを見渡した大門は、絶句する。

 バスに乗っていたはずだが、いつの間にかどこかの建物の中だ。


 そこは、まるで大広間のような空間。

 暖炉もカーペットもあり、そのカーペットの上に並べられたパイプ椅子に大門たちは座らされていたのだ。


 人数は、大門の他に9人。

 この場にいるのは総勢、10人だ。


「み、皆さん! 大丈夫ですか?」


 大門は一人一人を揺り起こして回る。


「ん……」

「くっ、頭痛い……」

「!? な、何だここは?」


 皆、いかにも寝覚め悪く目覚める。


「分かりません。僕も、ついさっき目覚めたばかりで。」


 大門も困惑の表情を浮かべる。


「……俺たち、ミステリーツアーに来たんでしたよね?」


 一人の若者が、ふと疑問を口にする。

 それで大門ははっとする。


 では、まさか。


「……ここは、目的地でしょうか?」

「……ここ、ホテル?」


 大門の問いに、続けて女性一人がまた問いを重ねる。

 と、その時だった。


「!? きゃっ!」

「! モニターが。」


 皆が、驚いたことに。

 大広間にあるモニターに、文章が映し出されたのだ。


 ――ようこそ、ミステリーツアーへ。

 いや、()()()()()へ。


「!? じ、人狼ゲーム?」


 驚きの声が上がる。

 人狼ゲーム。


 専ら、『汝は人狼なりや?』と呼ばれる対話型のゲームだ。


 そんなワードを出され当惑する一同に、モニターは構わず次の説明を映し出す。


 ――既にプレイヤーの諸君には、男性ならばポケットに。

 女性ならば袋に入れ、役割を書いた紙と自室の鍵を渡してある。


「! ほ、本当だ……」


 その説明に皆が確かめると、果たして役割が書かれた紙と鍵が。


 ――これより村人側と人狼側に分かれ、争ってもらう。

 この中には合計3名の人狼が紛れ込んでいる。村人側は各日の昼にそれぞれ一人ずつ指定してリタイア部屋に押し込み、人狼全員をリタイアさせられればクリアだ。


「な、なるほど……」


 皆頷く。

 そこは、典型的な人狼ゲームだ。


 ――ただし、村人側は。間違えて村人側をリタイアさせたり、また夜のうちに人狼に()()()()()()()などし、それにより3人まで減ってしまった場合には、その時点で人狼側の勝利となる。


「本当かよ……」


 一人が漏らす。

 この点も、典型的な人狼ゲームだ。


 ――では、初める。まあ、初日の昼は村人側の攻撃はない。まあせいぜい、お互いを知ってくれたまえ。尤も、いきなり役割を明かしてしまうのは得策ではない気がするがな。


 そこでモニターは、消えた。

 どうやら、どんな役割があるのかは、各人が持つ紙に書いてあるようだ。


 ここで、大門の役割は。


 役割:村人


 できること:何もなし。せいぜい喰われないように!



「(はあ……)」


 大門はため息をつく。

 昔から、くじ運はあまりいい方ではなかったが。


 まさか、ここまでとは。


「えっと……まず。……自己紹介しませんか?」


 誰かが、そう言い出した。


「ああ、じゃあ俺から。……まあ、て言っても。ここの5人、サバゲーの仲間なんすけどね! 俺、石毛元樹(いしげもとき)って言います!」


 石毛元樹は、先陣を切って自己紹介する。


「同じサバゲー仲間の、拝島明彦(はいじまあきひこ)です。」


 元樹に続けて、拝島明彦が名乗る。

 元樹に比べると、大人しそうだ。


「僕も、同じくサバゲー仲間の大上矢太郎(おおがみやたろう)と言います。」


 大上矢太郎が自己紹介する。

 ガタイが良く、いかにもスポーツマンだ。


生稲築子(いくいなつきこ)って言います! 女なんですけど、元樹のサバゲー仲間です!」


 生稲築子が言う。

 皆からは、へえ、と感嘆の声が上がる。


 確かに、珍しい。


苅田竜騎(かりたたつき)です! サバゲー仲間です、よろしく!」


 苅田竜騎も自己紹介する。

 茶髪の、日焼けした風貌。


 これにて、サバゲー仲間は出揃った。

 仲間達で参加したクチか。


「あ、どうも……サバゲー仲間ではないんですけど、岩本紗千香(いわもとさちか)って言います。よ、よろしくお願いします!」


 眼鏡をかけた女性、岩本紗千香が挨拶する。

 少し、上がっているようだ。


「あはは! 面白ーい! ねえねえ、数少ない女同士、仲良くしようよ!」

「あ、は、はい……」


 築子が面白がって紗千香に絡む。


「よせよ、俺たちライバルだろ!」

「ええー、いいじゃない!」


 元樹が笑いながら、築子に言う。


「お、おほん! 千鳥博之(ちどりひろゆき)と言います。よろしく。」

「あ、どうも……」


 千鳥博之の挨拶に、元樹らも他の皆も畏まる。

 少し、堅物そうな印象を受ける中年の男性だ。


坂木洋(さかもとよう)と言います。」


 坂本洋が挨拶する。

 千鳥に比べれば若そうだ。

 30になったばかりくらいだろうか。


日比野慶彦(ひびのよしひこ)と申します、よろしく。」


 日比野慶彦が挨拶する。

 こちらは先ほどの学生然としたサバゲー仲間たちより、少し年上くらいだろうか。


 最後に。


「九衛大門と言います。よろしくお願いします。」


 大門の自己紹介で締められた。


「よろしくねー、皆!」

「楽しくなりそうだねー!」


 場はサバゲー仲間を中心に、場違いともいえる盛り上がりを見せる。


 本当なら、ここで少しは訝しんでもいい気はするが。

 まず、同行しているはずの旅行社社員・クボの姿が見えないこと。


 さらに、恐らく自分たちはバスの中で催眠ガスを吸わされ眠らされたことなど、訝しむべき要素はいくらでもある。


 実際、サバゲー仲間をよそに場の不自然さを訝しんでいるのは、大門だけではなさそうだった。


「(このまま、何も起こらないよな?)」


 またも確認口調の願望が浮かぶ。

 しかし、残念ながらこの願望は叶わない。


 この数十時間後、すなわち翌日に。


「うわっ!」

「じ、人狼だ! 人狼が殺したんだ!」


 遺体が発見されることになる。


 ――これは殺人であっても、人狼ゲームではない。


 そう映し出すモニターと、この殺人が惨劇の、幕開けを告げるのである。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「さあて、実香。」

「きっちり、説明して下さい。」

「大門が、どうしたって?」

「うん……」


 時は、大門が出かけて翌日の夕方。

 珍しくHELL&HEAVENではない喫茶店で、実香は妹子・塚井・日出美に詰問される。


 いつもはケラケラと笑う、明るい彼女には似つかぬしおらしさで、実香は俯き座っている。


「ごめんなさい、皆! ……あたしが大門君を、危ない目に巻き込んじゃったみたい。」

「! 実香。」

「えっ……」

「ど、どういうこと?」


 涙声で詫びる実香に、妹子らはただただ戸惑う。


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