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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification4 baphomet 魔宴(サバト)は盛り上がってはならない
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エピローグ

「うん、行くよ塚井!」

「ええ、お嬢様……くれぐれも。」

「分かっているって、さあ!」


 勢いよく妹子は、HELL&HEAVENの扉を開ける――


「お帰りなさいませ、お嬢様!」

「お帰りなさいませ、ご主人様♡」

「ああ、もう! 執事喫茶やメイド喫茶じゃないんだから!」

「いや、お嬢様……」

「あ……ごめんなさい……」


 やはりやってしまったか。

 つくづく、自分はあまりお嬢様には向いていないと思う妹子だった。


 柘榴祭の事件より、数日後。

 事件の真相究明によりお流れとなってしまった再びの後夜祭を、三度やることになった。


 しかしメンバーはさすがに全校生徒という訳にはいかない。


 あの時、再びの後夜祭に呼ばれたメンバーのみが招かれた。


 が、今妹子たちを出迎えたのは。

 本来ならばもてなされているはずの、招かれたメンバーである。


「でも本当に……皆もそれでいいんだ?」

「はい、お嬢様! 私たちももてなされてばかりだと、退屈しちゃいますし!」


 メイド服の文香が、妹子に答える。

 先ほど妹子を出迎えたのは文香と、同じくメイド服姿の葉山・市村・日出美そして、こちらは執事服の明石だ。


 彼女らは自ら、接客を買って出たのである。


 文香としては、明石にもメイド服を着せたかったのだが。

 何故着なかったかは言うまでもない。


 さておき。


「いらっしゃいませ! イタタ……」

「あ、九衛……ふ、ふんだ!」

「お嬢様……」

「ふん!」


 顔に怪我をしたまま店を切り盛りする大門に対し、妹子と日出美は口を尖らせてそっぽを向く。


「まったくも〜、妹子ちゃんも日出美ちゃんも、早く許してあげればいいのにい!」


 給仕をしながら実香は、大門を庇う。


「い、いいんれす実香さん……イタタッ、確かに。悪いのは僕でしたから……」


 この怪我の原因は、遡ること事件解決の直後。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 他の関係者も全て帰したはずのHELL&HEAVENに戻って来た大門を待ち構えていたのは。


「ひーろーと!」

「また危ないこと」

「して来たでしょ!」

「う、うわあ! み、皆さん!」


 帰ったと思いきやまだいた、妹子・日出美・実香による鉄拳制裁だった。


「九衛さん……まあ、今回ばかりはおとなしく制裁を受けてください。」

「ちょ、ちょっと塚井さん!」


 塚井は制裁には加わらないものの、されて当然と、事態にはあくまで傍観者を決め込んでいた。


 おかげで、顔はこの有様というわけである。


「さあて、大門君! ……もう、反省はしたかな?」

「……はい。」


 顔を痛がる大門に、実香は尋ねる。


「よろしい。……じゃ、手当してあげる! 救急箱はどこ?」

「あ、ええとそちらの引き出しに……あ、いえ! 別にいいです!」


 実香の提案を大門は断り、自分でカウンター裏の引き出しから救急箱を取り出す。


「もうー、大門君! 本当に素直じゃないんだからあ。」


 実香はややおどけながらも、かなりむくれる。


「そうです、九衛さん! 前にも言いましたが……ここは、おとなしく手当てされてください!」

「……はい。」


 実香と塚井に迫られ、大門は大人しくその場に座る。


「おや? 妹子ちゃんや日出美ちゃんは手当てしてあげないの?」


 実香は救急箱を開けつつ、いつもならば便乗して来そうな二人に声をかける。


「いやあ……私はまだ、許してませんから!」

「そうね、私も!」

「遣隋使さん、日出美……」

「お嬢様……」


 妹子と日出美の頑なな様子に、大門も塚井もお手上げである。


「うーん……まあ! あたしも完全には許しちゃいないけどね!」

「イタタ! み、実香さん……」


 実香はわざとらしく、少し力をかけて手当てする。


「いい? 大門君。……ここには、あなたが大事な人たちがいる。なのに、その気持ちを裏切るの? それともここにいるあたしたちはあなたにとっちゃどうでもいい?」

「そ、そんなこと! 僕にとって実香さんや遣隋使さん、日出美は」

「あと、私もいますよ?」

「あ、はいすみません……塚井さんも」


 実香の言葉に、大門の答えは。


「大事な」

「お客様、もしくは友人?」


 大門は答えようとして、実香にその先の答えを言い当てられる。


 図星だった。


「……はい。すみません、こういう時どう答えたらいいのか……」

「うーん、そうだね。回答としては落第点かなあ……」

「……すみません。」


 大門はバツが悪そうに、答える。


「……まあ、仕方ないか! それが大門君だし。だけど……いつかは正解を出してね?」

「は、はい!」

「よろしい。」


 押されて答えた大門に、実香はにこりと微笑む。

 妹子や日出美はまだ、むすりとしている。

 そのまま今日まで。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「日出美ちゃん、大門さんは私たちを助けてくれたんだよ?」

「文香先輩……うん、許してあげたいんですけど……」


 文香に頼まれ、日出美は若干態度を軟化させるが。

 すぐにそっぽを向く。


「やっぱりまだ駄目です! これは妻の意地なんで、どうか見守っていてください!」

「うーん、そう……」


 結局日出美は、折れない。


「と、とにかく! こちらへどうぞっす、お客さ」

「ああん!?」

「お、お嬢様あ!」

「あははは、あ、ありがとう……」


 明石は妹子を案内するが、台詞を言い間違え女性陣から睨まれる。


「さあて皆さんも、席について! まあ、また碌なもてなしはできませんが……どうぞお上がりください!」

「はーい!!!」

「……頂きます。」


 大門の呼びかけに、日出美と妹子以外のメンバーは明るく答え、その二人はむすりとしたまま食べ始める。


 と、その時。

 大門はドアの外に気配を感じる。


「あ、すみません……ちょっと買い忘れが! すぐ戻ります!」

「あ、ちょっと!」


 大門はドアを開けて外に出た。


「……制野先生。」

「……ご無沙汰して申し訳ありません。」


 ドアの前の制野は、頭を下げる。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「相模君はどうしています?」

「すみません……まだ面会できていなくて。」

「あ、そうですよね……」


 制野から返ってきた答えに、大門は我ながら愚問であったと自嘲する。


 まだあの事件から、数日しか経っていないのだ。


「ただ、我が校は……」

「……そうですよね。」


 制野から次に出てきた話に、大門もある程度予想していたとはいえ暗い顔で聞き入る。


 結局この事件により、2年前の監禁致死事件もみ消しの責任を問われ柘榴学園理事長・校長などは軒並み辞任するそうだ。


 まだマスコミ発表には至っていないが、すでに教育委員会などからの求めにより決定しているらしい。


 保護者からの退学問い合わせなども少なからずあるらしい。


「……すみません。」

「いえ、そんな九衛さんのせいじゃ! ……むしろ、苦しんでいた生徒たちを救ってくださり感謝しています。」

「先生、そんな……僕は何も。」


 制野に思わず謝ってしまった大門だが、逆に礼を言われ恐縮してしまう。


 何もできなかったというのは謙遜ではなく、本音だった。

 精々推理して、犯人を暴く。


 自分の立場ではそれぐらいしかできない。

 たとえ、自分が真相を暴いた先に何があろうと――


 しかし。


「いや、本当ですよ! ……それに相模は結局、無意識のうちに誰かに真相を暴かれたいって思っていたんだと思います。」

「それは……そうですね。」


 制野が再び礼を言い、放った言葉は大門も分かっていることだった。


 あの致命的なミスも、そういった意識により引き起こされたものだとしたら納得はいく。


「相模が、私に遺書を送ってきたのも……無関係な葉山たちを巻き込んでしまうことへの、せめてもの償いだったんじゃないでしょうか?」

「ええ、それについても僕も同感です。彼は、自分の恋人を死なせてしまわなければこの犯行を決意しなかったと言っていましたが……彼なりに贖罪の気持ちは、持っていたんだと思います。」

「……はい。」


 制野は大門の言葉に、少し重荷を下ろしたような顔をする。


「……九衛さん。」

「……はい。」

「……私は、2年前に自分の大事な生徒たち、そして他校の大事な生徒たちを救えなかった。さらにそれによって卒業生たちをむざむざ死なせ、一人は人生を棒に振らせた……私は教師をやっていて、いいんでしょうか?」

「制野さん……」


 そう、彼は教師。

 相模もまた、大事な教え子の一人だったのだ。


 2年前に死んだ生徒たちも。

 他校・自校問わずどちらも、それぞれの先生方や自分にとって大事な教え子たちに他ならない。


 そして愛久澤や、忍足、梶原も。

 重大な罪があるとはいえ、彼らもまた大事な教え子たちだった。


「……僕には、分かりませんが。」


 大門は、制野に向き直る。


「僕に言えることは、その……少なくとも先生を続けていれば、同じ過ちを繰り返さないようにできるかもしれません。それこそ、僕ができることなんて高が知れてますけど。先生なら、少なくともそれ以上のことができると思います!」

「……ありがとう、九衛さん。」


 制野は大門の言葉に、涙ぐむ。


「まあ、そんな分かったようなこと言いましたけど! 制野さんもどうです? この前の続きを。」


 大門は、HELL&HEAVENの看板を指差す。

『本日貸切』


「ありがとう……でも大丈夫です。それに、後夜祭は生徒のものですから。」

「そうですか……それは残念。」

「では、また。」


 制野はそのまま、踵を返した。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「ふうん、いいこと言うね?」

「!? ひ、日出美!」


 大門はどきりとした。

 いつの間にか背後に、日出美が。


 しかし。


「はははは! そう、それだよ。そうやって素直に騙されてくれると騙し甲斐があるってもんさ!」

「……ダンタリオンか。」


 大門は顔を顰める。

 もう騙されないと思っていたが、不覚をとってしまった。


「ははは! 何だいその目は? もっと今回も私に、感謝して欲しいなあ。」

「ああ……そうだな。」


 大門はダンタリオンの顔を見る。


「あの時のお前の、『不敗』と『腐敗』のヒントが僕を真相に導いてくれた。あれは口頭では同じ発音だが、書けば違いが一目瞭然の単語同士だ。同じように……文面では一緒でも、実は違う意味を持たされている言葉があるんじゃないかってな。」


 大門は言う。

 あの呪い教唆のメールについてだ。


「ははは! まあ、おめでとう。これで『腐敗した不敗神話』はまた更新された! 確かに私のおかげもあるが、まあ君の実力だよ。」

「わざとらしくしおらしくしてくれてどうも。」


 大門は淡白に返す。


「しかし……僕はあいつ――ソロモンの影を事件が起きる前に感じた。でも、あの事件そのものからはソロモンの影は感じなかった。……ダンタリオン、お前は……あれ?」


 大門はずっと抱いていた違和感の正体についてダンタリオンに話すが、気づけばいない。


「……まったく!」


 と、その時だ。


 何やら金属音が聞こえる。

 何か、金属でできたものを指ではじくような――


「大門さん!」

「!? あ、ああ木曽路さん、と……日出美、でいいんだよな?」


 振り返ると、そこには文香と日出美の姿が。


「何? 私でいいんだよなって?」

「あ、いや何でも」

「そうじゃなくて! 大門さんに謝るんでしょ?」


 文香は日出美を諭す。


「……来なよ、皆待ってるよ!」

「あ、ちょっと! 日出美ちゃん!」


 日出美はそそくさと店内へ戻る。

 文香はそれを追いかける。


「まあ……まだ許してはもらえないか!」


 大門はやれやれと笑い、店内に戻る。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「気取られたらしいな……まあ、いいや。私はいるよ? アスモダイ君……」



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