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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification4 baphomet 魔宴(サバト)は盛り上がってはならない
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conclusion:魔宴は盛り上がってはならない①

「ど、どういうことなんだ九衛君!」


 井野は大門に問う。

 馬鹿な、一体どういうことなのか。


 ここは大門の経営するカフェ・HELL&HEAVEN。

 そこに台無しになってしまった後夜祭をやり直すという名目で集められた、葉山・文香・明石・市村。


 しかし大門は文香からの話により、推理の重大な手がかりを得て一度警察署へ。


 そこにて井野に貸してもらった捜査資料により、ついに事件の真相に辿りついた。


 そこで大門は、井野を含む警察関係者たちと後夜祭のやり直しに呼ばれていながら、来ていなかった制野も呼び出しHELL&HEAVENに戻って来た。


 そこで大門は、こう言ったのだ。


 犯人は、この中にいません――


「ど、どういうことだ九衛君! ……待てよ、そうか! 犯人はやはりあの、梶原ということか!」

「!? な、か、梶原!!!!」


 柘榴学園の関係者である葉山たちや制野は、井野のこの言葉に驚く。


 梶原――文香が教えてくれた、愛久澤の腰巾着その3だ。

 影が薄く、あまり認識されていなかったようだが。


 しかし大門は。


「いいえ。それは……少し違います。」

「!? ……え?」


 井野は間を外された気分である。

 梶原を必死に探せと言ったのは、大門ではなかったか――


 だが大門は続ける。


「まあ、順を追って話しましょうか。ではまず……呪いの対象を犯人・呪いの代行者が知り得た理由から。」


 大門はそう言うと、4枚の紙を取り出す。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 4枚の紙は無論、今回呪いの儀式を行った四人――葉山・文香・明石・市村宛に届けられたメール文面のコピーだ。



 葉山宛:


『あの三人が憎いだろう?


 愛久澤、相模、忍足はあんな性悪にもかかわらず、表向きは人気者だ。



 呪いを望むなら、名前を書いた紙を燃やす儀式を行え。


 ただし、その呪いは誰にも知られるな。


 大丈夫、知らせなくとも分かる。

 お前が、誰を選んだかは。


 呪いの代行者』


 ◆◇


 文香宛:

『あの三人が憎いだろう?


 愛久澤、相模、忍足はあんな性悪にもかかわらず、表向きは人気者だ。



 呪いを望むなら、名前を書いた紙を油鍋で熱する儀式を行え。


 ただし、その呪いは誰にも知られるな。


 大丈夫、知らせなくとも分かる。

 お前が、誰を選んだかは。


 呪いの代行者』


 ◆◇


 明石宛:

『あの三人が憎いだろう?


 愛久澤、相模、忍足はあんな性悪にもかかわらず、表向きは人気者だ。



 呪いを望むなら、名前を書いた紙を花火で燃やす儀式を行え。


 ただし、その呪いは誰にも知られるな。


 大丈夫、知らせなくとも分かる。

 お前が、誰を選んだかは。


 呪いの代行者』


 ◆◇


 市村宛:

『あの三人が憎いだろう?


 愛久澤、相模、忍足はあんな性悪にもかかわらず、表向きは人気者だ。



 呪いを望むなら、名前を書いた紙を湯で熱する儀式を行え。


 柘榴祭のさなか、物理準備室で。

 ただし、その呪いは誰にも知られるな。


 大丈夫、知らせなくとも分かる。

 お前が、誰を選んだかは。


 呪いの代行者』



「ううん……これを見比べて呪いの代行者が、四人が誰を選んだか知ることができると?」

「ええ、そうだとも言えますし……そうでないとも言えます!」

「何!?」


 井野は驚く。

 いつものことだが、大門が何を言っているのかわからない。


「それはどういうことなんですか、大門さん?」


 文香が、尋ねる。


「では、早く結論に入ろう。それでは……今度は見比べる対象を、4枚から2枚に減らします!」

「ええ?」


 大門は4枚から、2枚を抜き取る。


 広げられた紙は、次の2枚になった。


 明石宛:

『あの三人が憎いだろう?


 愛久澤、相模、忍足はあんな性悪にもかかわらず、表向きは人気者だ。



 呪いを望むなら、名前を書いた紙を花火で燃やす儀式を行え。


 ただし、その呪いは誰にも知られるな。


 大丈夫、知らせなくとも分かる。

 お前が、誰を選んだかは。


 呪いの代行者』


 ◆◇


 市村宛:

『あの三人が憎いだろう?


 愛久澤、相模、忍足はあんな性悪にもかかわらず、表向きは人気者だ。



 呪いを望むなら、名前を書いた紙を湯で熱する儀式を行え。


 柘榴祭のさなか、物理準備室で。

 ただし、その呪いは誰にも知られるな。


 大丈夫、知らせなくとも分かる。

 お前が、誰を選んだかは。


 呪いの代行者』


「うーむ……?」

「では、違いを述べてみてください。……制野先生。」

「!? わ、私ですか……」


 大門から求められ、制野はタジタジである。

 彼はやがて少し考え込んだ後に。


「……うーん、呪いのやり方と柘榴祭の間にやるか否か……ぐらいですかね。」


 こう、答える。


「ええ、その通りです。……呪いのやり方は四者四様でしたが、柘榴祭にやるか否かは市村さんと他の三人との相違点でしたね?」

「ええ……」


 大門は付け加える。


「……じゃあ、やっぱりわからないじゃないか。呪いの対象を、呪いの代行者がどうやって知ったかなんて。」

「いいえ、分かります。……市村さんと他の三人との、()()()()()()()に気づけばね。」

「!? も、もう一つの違い?」


 この言葉には皆驚く。

 この2枚に?


「ど、どこが違うんだ……?」


 もう一度皆は、2枚の文面を見返す。

 だが。


「大門君、お手上げ。」

「そうですね、私も」

「うーん、ダメだわかんない!」

「あーもう、勿体つけないでよ!」


 皆、お手上げのようだ。


「皆さん、ありがとうございます。実は……このメールの"違い"は、こうして文面を見比べていても分からないんですよ。」

「!? はああ!?」


 大門のこの言葉に、皆ズッコケそうになる。

 しかし。


「待て、九衛君! ……文面を見比べても分からないだって? メールの違いがじゃあどうして分かるというんだ!」


 井野が尋ねる。

 確かに大門の今の言い方は、奇妙だ。


「違いは……ここです。『名前を書いた紙』って所ですよ!」

「な、何!?」


 皆それを聞き、また2枚を見比べる。

 しかし、その部分にはやはり"文面上の"違いはない。


「ど、どういう……?」

「『名前を書いた紙』って言うのは必ずしも、"自分で"『名前を書いた紙』を意味する訳ではありませんよね?」

「!? ま、まさか……」


 井野は合点する。

 ならば、これは……


「そう、少なくとも……市村さんを除く三人は、"呪いの代行者が"『名前を書いた紙』を郵送で受け取っていた。……そうだよね? 葉山さん、木曽路さん、明石君。」

「!?」


 大門の言葉に三人は、目を逸らす。


「じゃあまさか……市村に呪いのメールが届いたのも?」

「ご明察です、制野先生! ……他の三人が市村さんと同じく、"自分で"『名前を書いた紙』を使っていると誤認させるためでした!」


 大門は制野に、賛辞を送る。


「そう、僕はずっと疑問でした。何故三人で足りているはずの呪いをやる人を、わざわざ四人にしたのか。しかも何故、柘榴祭中に呪いをやらせてそれを発見させたのか。その答えは……今の理由と、これが呪いによる殺人だと思わせるためでした!」

「な、なるほど……」


 先ほど目を逸らした葉山たちを除く、皆が頷く。


「市村さんはいわば、この事件を予め知らしめる役だった。これから呪いによる殺人が起こるということ、そして……他の三人と同じだと思わせるためにね。」

「わ、私に……そんな意味が。」


 市村は椅子に座り込む。

 葉山たちも気まずげにしていた。


「……いや、待て九衛君! だが、メールにはこう書いてあるぞ。『お前が、誰を選んだかは』って。他人が名前を書いた紙をそのまま呪いに使ったら、それは選んだことにならないじゃないか?」


 井野が指摘する。

 すると、大門は。


「ええ、ですから……三人には各3枚、各人に選ばせたい名前を書いた、折り畳まれた紙を送ったんですよ!」

「な、何!?」


 大門は更に続ける。


「つまり各人には、"呪いの代行者が"『名前を書いた紙』が3枚送られ同じ名前があらかじめ書かれていたんですよ。葉山さんには3枚とも愛久澤と書かれた紙が、木曽路さんには3枚とも相模と書かれた紙が……という風にね。」

「な、なるほど……」

「おそらくその紙は、同封の手紙か何かで呪いが終わればすぐ捨てるようにでも指示されていたんでしょうけどね。」


 その言葉と共に大門は、再び三人を見る。


「そして葉山さん、木曽路さん、明石君。更に聞きたい。……君たちは確かに、あの三人を恨んでいた。しかしそれは、あの三人の中の特定の誰かじゃなかったんじゃないか?」

「!? ……」


 葉山たちは再び、目を逸らす。

 大門はまだ続ける。


「葉山さんははっきりとは言わなかったが……少なくとも木曽路さん、明石君は言っていた。『あいつらは憎い』って。それはつまり、そういうことなんじゃないか?」

「……はい。」


 大門のこの問いかけに、文香が返す。


「……そうです。」

「……はい。」


 葉山も明石も、同じく返す。


「なんてこった……」

「インチキ占い師などがよくやる手法に似ています。誰にでも当てはまることを、さも特定の個人だけに当てはまるように言ったり。これはまさに、今回と同じだ。」

「そうだな……彼らは、一見選ばされているようでその実、全て指定されていたのか……」


 井野は葉山ら三人を見比べる。


「ええ。しかも、特定の誰かを憎んでいる訳ではありませんから。指定されても、自分はこの人を恨んでいたのかと思わされるだけなんです。」

「なんてこった……」


 井野は頭を抱える。

 全ては、呪いの代行者の策略通りという訳だったのか……


「そ、そうだ九衛さん! ……それじゃあ、犯人は誰なんですか?」


 制野が大門に尋ねる。


「ああ、そうでしたね。では次は……この呪いに、どんな意味があったのかという話をしましょう。」


 大門は皆を見比べる。


「この呪いが行われた理由。まず一つは、この事件を特殊なものであると認識させ、世間に知らしめることです! それによって愛久澤たちの……2年前の凶行に目を向けさせるために!」

「! 2年前……あの、生徒集団変死事件か!」


 大門の言葉を受け井野が言うと、葉山たち三人と市村、そして制野もはっとした表情を浮かべる。


「ち、ちょっと待って九衛門君! ……その、2年前の愛久澤君たちの凶行ってのは私分からないけど、じゃあ今回の動機はその復讐ってこと……?」


 妹子は尋ねる。


「ええ、その通りです遣隋使さん。……ただ、それだけじゃありません。」

「えっ?」

「では、呪いのもう一つの意味についてです。あれは……殺害順序を誤認させるための心理トリックでした!」

「な、何!?」


 妹子への返答に続けての大門のこの言葉に、今度は皆が驚く。


「ど、どういうことだ!?」

「つまり、こういうことですよ。僕たちは遺体が発見された順序――ひいては、呪われた順序通りこの事件が行われていると思われた。しかし実際の殺害順序は、呪われた順序とは違うものだったんです!」

「な、何!?」


 呪われた順序。それは遺体が発見された順序と同じく、愛久澤→相模→忍足である。


 しかし、それと実際は違うということか。


「じゃあ、どんな順序だったと?」

「実際には……忍足→愛久澤→相模の順番だったんですよ!」

「!? お、忍足が最初だと!」


 井野はもう、何度目か分からない驚きだ。

 最後に殺されたと思われた忍足が、最初に殺されたとは。


「そして、ここからが……犯人は誰かという話になります。」

「!?」


 皆その言葉に、身構える。

 この中にはいないという犯人。

 では、誰が――


「誰なんだ、九衛君!」


 井野は食ってかかるように言う。


「それは、こう考えた時分かりました。殺害順序をわざわざ入れ替える必要のあるもの、そしてそれができたもの……それはすなわち」


 大門は懐から、折り畳まれた紙を1枚取り出す。

 それを見て、葉山・文香・明石が息を呑む。


 それはさながら、自分たちが使った紙のようではないか――


「彼です!」


 そう言って大門が紙を広げて見せる。

 そこに書かれていたのは――




































『相模晴矢』


「!? さ、相模が!」


 皆驚く。


「か、彼も犯人に殺されたんじゃないの!?」

「いいえ、そう偽装したんですよ。彼は自殺したんです。おそらくは氷から作った、包丁を使ってね!」

「そ、そうだったのか……」


 井野は合点する。

 確かに遺体は三人とも、自動で燃やされるよう細工されていた。


 それで凶器が溶けてしまえば、他殺に見せかけられるだろう。


「はい。そして先ほどの殺害順序入れ替えによって恩恵を受けるのは……"2番目に死んだ"という鉄壁のアリバイを確保することができる相模しかいません!」

「で、でも……何故彼が犯人だと? 例えば愛久澤でも、その恩恵を受けられるんじゃ……」


 制野が指摘する。


「その通りです。しかし……彼は偽装工作をしていました。木曽路さん、覚えているかな? 相模が君に話しかけに来た時のことを。」

「!? あ、あの時ですか?」


 大門から問われた文香は、目を丸くしながら答える。


 柘榴祭2日目の、あの時だ。


「そう、その時彼はこう言っていた。『忍足に飲み物を買って行く途中で、愛久澤を探している。』ってね! あれはつまり、あの時点で忍足は生きていて愛久澤は死んでいると思わせるための工作だったんだ!」

「そ、そんな……」


 文香は先ほどの市村と同じく、へなへなと席に座り込む。


「それじゃあ、遺体が全て燃やされていたのも……?」

「遺体そのものからは死亡推定時刻を割り出せないようにするためです! でなければ、殺害順序を入れ替えるトリックは成立しませんからね。」

「ううむ……」


 大門の更なる説明に、井野は息を呑む。

 と、その時。


「……刑事さん、すみません! 私は、隠していることが」

「!? な、何です?」


 声をかけたのは、制野だった。

 驚いた直後にまた驚かされた井野は、困惑しながら話を聞こうと耳を傾ける。


「今日、届くように指定されていた相模の遺書が私の元に届きまして……今九衛さんがおっしゃった内容と同じでした!」

「!? なっ……」


 またも井野、ばかりではなく。

 やはり皆が驚く。


「なるほど、彼なりの配慮でしょうか……」

「ううむ、何にせよ……被疑者死亡で事件は幕引きか……くそっ!」


 井野は悔しさのあまり吐き捨てる。


「……いいえ、まだ終わっていません。」

「!? な、何!?」


 またも何度目になるのか、皆大門に驚かされる。


「今述べたものは、犯人が表向きに解かせようとした謎に過ぎません! 真実は……これからです!」

「ど、どういう……?」


 と、その時。

 井野の携帯が鳴る。


「あ、もしもし! ……周防君か。……何!? 梶原が見つかった? あ、ああ……実はな」

「いや、井野警部! すぐに向かいましょう!」

「え……? ……分かった、すぐに現場に向かう!」


 井野は、一応の真相は分かったので周防に梶原の捜索は不要だと伝えようとするが。


 大門に止められ、そのまま出ようとする。


「待ってください! 僕も行きます。」

「!? ……分かった。」

「わ、私たちも」

「皆さんは! ……留守を守っていてください。大丈夫、今度こそ解決します。」

「は、はい……」


 ついていこうとする皆を宥め、大門は井野について行く。

 同行しながら大門は、強く願っていた。


 頼む、間に合ってくれ――

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