皆の後夜祭
「皆、遠慮しなくていい。」
「……でも、大門さん。」
「いいんだよ、皆……今まで我慢して来ただろう?」
「……う、うわああああ!!!!」
大門の言葉で遂に枷から解き放たれた葉山・文香・市村・明石、そして日出美は一気に泣き出す。
柘榴祭の最中に起こった"儀式"、そして後夜祭で見つかった焼死体を皮切りに、次々と2年前の卒業生3人が殺害されていることが判明したこの事件。
台無しになってしまった後夜祭の代わりという名目で今回の関係者を集めた。
無論店の扉には、『本日貸切』の札が。
「ううん……いいのかな、これで?」
「大門君がそう言うなら、今はこれでいいよ。」
塚井はその様子を疑問視するが、実香は宥める。
実際、彼女は皆苦しんでいるのだから、気分を変えるために盛り上がった方がいいんじゃないかと提案したのだが。
「悲しい時に明るい曲を聞いたりすると、却って自分を否定された気持ちになり逆に悲しさを深めるきっかけになってしまうそうです。だから……できる限り、今溜まっている気持ちを吐き出させないと。」
大門はこういった理由により、皆の気持ちを吐き出させたのだった。
「大丈夫? ほら、ジュース。」
「……はい、ありがとうございます。」
「ほら、裕子ちゃんも花ちゃんも日出美ちゃんも、明石君も。」
「……はい、ありがとうございます。」
実香や塚井、妹子は給仕をして回る。
テーブルには既に、料理が並んでいる。
しばらく五人は、ひたすら泣きじゃくっていた。
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「……少しは、落ち着いたかな?」
「はい……ありがとうございます。」
「ありがとう……」
「どうもっす。」
「すみません。」
「ありがとうございます。」
大門の呼びかけに、五人はひとまず泣き止み口々に礼を言う。
「……さあ、皆のために実香さんや塚井さん、あとは僭越ながら僕も食事を用意させていただいた! まあ、僕のものはともかく、お二方の料理はおいしいから遠慮なく!」
「……ありがとうございます!!!!」
大門が再び呼びかけると、五人は答えるが早いかがっつき始める。
安心したらお腹が空いた、といった所か。
ちなみに妹子は、サラダのレタスをちぎったりはした。
さておき。
「お、おいしい!」
「う、旨い! こんなの初めてだ!」
「うん、ようやくまともな食事にありつけた!」
「もぐもぐ……うん、大門の作ってくれたものが一番美味しい!」
「本当に美味しい……」
五人はがっつき、それぞれに感想を言いながらまた泣き始める。
「あ〜こらこら、あんまり泣くと変な所にご飯入っちゃうよ?」
「ほら皆さん、ジュースいかがですか?」
「ジュース以外にも、お冷やあるわよ!」
そんな彼らを気遣い、実香・塚井・妹子はまた給仕をする。
大門もカウンターで洗い物をしつつ。
「(制野先生がまだいらっしゃらないか……後で連絡しなければ。)」
まだ訪れぬ最後の役者を心配していた。
そんな彼の様子をよそに、他の役者たち――葉山・文香・明石・市村、そして日出美は食事を進めている。
大門はそんな彼らを見守りつつ、文香の離席を待っていた。
そう、ここに彼らを呼んだ理由の一つ。
それは文香に、あることを聞くため。
「……いや、待っているだけではだめか。」
大門は自ら動くことにした。
「新しいジュースです、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます!」
先ほど女性陣が給仕していたものとは別のジュースを注いで回る。
そうして文香の席に来た時、彼女にメモを握らせた。
「!? ……あ、すいません大門さん。お手洗いはどちらに?」
「ああ、ちょっと分かりにくいからこちらに。」
これにて、ようやく目的を果たせる。
「!? ……大門、もしや……? ……まあ戻ったら、ちゃんと聞かせてもらうよ。」
日出美はその違和感に気づいたが、一旦は置いておくことにした。
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「……大門さん、何ですか話って?」
「……うん、すまない。答えたくなかったら黙ってくれていい。でも、事件についてどうしても必要なことなんだ!」
「はあ……」
文香は少しドギマギしている。
大門の真意を、図りかねているのだろう。
ならばと、大門は敢えて単刀直入にいくことにした。
「……君が前に愛久澤たちを指して言っていた『三人だけなんですか?』とはどういうことかな?」
「!? それは……」
文香は口を噤む。
大門はやはり無理かと思い。
「すまない、まだ聞くべき時じゃなかったかもね。もう」
「……もう一人、いたんです。」
「!?」
大門がもういいと言おうとすると、文香はついに口を開く。
「……愛久澤先輩の腰巾着はもう一人いたんです。梶原先輩っていう……」
「!? ほ、本当かい?」
梶原誠二。やはり愛久澤らと同じく2年前の卒業生だったという。
他の腰巾着二人に比べて影が薄く、忘れられがちだったようだ。
「分かった。……ありがとう。」
「!? ひ、大門さんどこへ?」
「ああごめん、ちょっと買い出しに! 木曽路さんは席で待っていて!」
「は、はい……」
大門は文香の話を聞くや、店を飛び出す。
「このことを、早く伝えないと……!」
大門が伝えるべくスマートフォンを取り出しつつ、向かった場所は――
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「こ、九衛君! 先ほどのは本当か?」
「ええ! 木曽路さん――2番目の呪いを実行した娘が話してくれました。」
「ううん……先ほど警官たちに呼びかけた。今探している最中だ!」
警察署にて。
待ち構えていた井野に、大門は話す。
梶原を探すよう頼んだのだ。
ここに来て、初めて出てきた名前。
いわば愛久澤とその腰巾着の中での唯一の生き残りといえる彼は、重要参考人だった。
「ありがとうございます! ……ところで、例の"ブツ"はどうですか?」
「ああ……ここに。」
井野は大門に、封筒を差し出す。
中身は、捜査資料だ。
「一体どうした? 検死結果や、調書を読みたいなんて。」
「はい、やはり……まだまだ事件について何一つ解けていないもので。」
井野の問いに、大門は自嘲気味に答える。
それは謙遜ではなく、実際問題として事件について何一つ解けていないのである。
「いや、だが……犯人第一候補ぐらいは見つかったじゃないか? その、梶原って奴が」
「梶原君がそうなのかは、もう一度事件の全容を見てから決めます!」
「あ、ああ……」
大門は資料を読み始める。
そう、何も解けていない。
先ほどのHELL&HEAVENにいる四人が行った"儀式"。
犯人は何故、四人中三人の選んだ呪いの対象を知ることができたのか。
そして、何故四人中一人・市村だけは柘榴祭の最中に"儀式"をさせたのか、さらにそれを制野に発見させたのか――
謎はまだまだ、枚挙に暇がない。
「……ん、あれ?」
ふと、大門はあることに気づく。
いつも推理に困っている時に出て来るはずの、あいつがいない。
いや、別にいなくてもよいのだが。
それはそれで変則的で調子が狂う。
「どうした? 何か見つかったか?」
「あ、いえ……」
そうして何の気なしに、資料を見ていた時だった。
「……ん? これは……数日前に済んでいる……?」
「ん? 何がだ?」
大門はふと、検死の資料に目を向ける。
これはおかしい。ならばあの時なぜ――
また資料を見返す。
ならば、あれがあるはずだが――
「……やり残しもなし。つまり、完全に数日前に済んでいたということか……」
「? な、何なんだい九衛君?」
大門の一人言を聞いて、井野は混迷を深めるが。
大門はようやく、確信に迫りつつあった。
しかし、ならば――
「井野さん! 梶原君を何としても早く見つけ出して下さい! 手遅れになる前に!」
「お、おお! やっぱり梶原が犯人か!」
「……すいません、それについては後ほど。」
「お、おお!」
井野は大門の求めに応じると、すぐさま周防に電話をかける。
周防が今、梶原を搜索するメンバーの一人のようだ。
「……これで分かった。あの"儀式"の意味と、この事件の犯人。後は……」
後は何故犯人が、葉山たち三人が呪った相手を知ることができたのかということ。
「……やはり、これが手がかりか!」
大門が次に取り出したのは、三人及び市村に送られて来たメールの文面をコピーしたもの。
◆◇
葉山宛:
『あの三人が憎いだろう?
愛久澤、相模、忍足はあんな性悪にもかかわらず、表向きは人気者だ。
呪いを望むなら、名前を書いた紙を燃やす儀式を行え。
ただし、その呪いは誰にも知られるな。
大丈夫、知らせなくとも分かる。
お前が、誰を選んだかは。
呪いの代行者』
◆◇
文香宛:
『あの三人が憎いだろう?
愛久澤、相模、忍足はあんな性悪にもかかわらず、表向きは人気者だ。
呪いを望むなら、名前を書いた紙を油鍋で熱する儀式を行え。
ただし、その呪いは誰にも知られるな。
大丈夫、知らせなくとも分かる。
お前が、誰を選んだかは。
呪いの代行者』
◆◇
明石宛:
『あの三人が憎いだろう?
愛久澤、相模、忍足はあんな性悪にもかかわらず、表向きは人気者だ。
呪いを望むなら、名前を書いた紙を花火で燃やす儀式を行え。
ただし、その呪いは誰にも知られるな。
大丈夫、知らせなくとも分かる。
お前が、誰を選んだかは。
呪いの代行者』
◆◇
市村宛:
『あの三人が憎いだろう?
愛久澤、相模、忍足はあんな性悪にもかかわらず、表向きは人気者だ。
呪いを望むなら、名前を書いた紙を湯で熱する儀式を行え。
柘榴祭のさなか、物理準備室で。
ただし、その呪いは誰にも知られるな。
大丈夫、知らせなくとも分かる。
お前が、誰を選んだかは。
呪いの代行者』
「……やはり、分からないな。」
大門は改めて見比べてみるが、やはり分からない。
違いはやはり、葉山たち三人の間では呪いのやり方というところか。
そしてその三人と、市村の違いは。
やはり呪いのやり方と、"儀式"を柘榴祭中にやるか否かということ。
やはり、これは――
「やっぱり、大門は私がいないとね!」
「!? う、うわ!」
大門はふと顔を上げて驚く。
日出美だった。
いや――
「……ダンタリオンか。」
大門はため息を吐く。
また、お前か――
「……ふん、君も大分つまらない男になってきたな。面白いくらいコロコロ騙されていた可愛げのある君はどこに行った?」
「お前につまらない奴認定されたって別に関係ないね! そもそもいなくたって」
「おいおい、君が推理の不敗神話を築いて来たのは誰のおかげだい? ……失礼。所詮は私の力を借りた、腐敗した神話だったか!」
ダンタリオンはケラケラ笑い出す。
「誰が腐敗……ん?」
大門はふと、何かを閃く。
そうしてまた、先ほどのメール文面のコピーに目を通す。
「……そうか。」
「ふふふ……また腐敗した神話を更新したかい。」
「そうだな……それでもいい! 事件が解決するならば。」
「……ふん。」
大門は拳を、握り締める。
「あ、すまん九衛君! ちょっと長電話に」
「井野さん! ……これが悪魔の証明ではないという悪魔の証明、終了しました!」
「……!? な、何い!?」
井野は目を丸くする。
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「……そんな、君が……」
制野はマンションの自室にて、悲嘆に暮れている。
手元には、誰かからの手紙が。
と、その時着信音が。
「……はい。あ、九衛さん……すいません遅れてまして。……え!? 本当ですか?」
制野は驚き、立ち上がる。
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「……これは、どういうこと?」
HELL&HEAVENにて、顔を顰めた日出美のお出迎えが待っていた。
いや、日出美の今の言葉は。
店にいる全ての人たちの代弁というべきか。
「おやおや、大門君。」
「随分と長い買い出しと思えば……」
「どういうことなの、九衛門君。」
実香・塚井・妹子も首をかしげる。
無理もない。
買い出しにと言って出かけた大門が、井野をはじめとする警察数人に、遅れていた制野も連れて戻って来ていたのだから。
しかし、大門は続ける。
「すみません、皆さん。……この事件の謎は解けたので、それをお話しに来ました。」
「!? ほ、本当に!!!!!」
これにはそのことについて聞かされていなかった、HELL&HEAVENに元々いた面々は驚く。
「そう。では、悪魔の証明を始めます。……犯人、呪いの代行者はこの中に……いません!」
「!? な、何だって!!!!!」
これには、その場にいる全員が驚く。




