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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification2 cerberus 邪術の間は開かない
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エピローグ

「いらっしゃいませ……あ。」

「たのもう! ご無沙汰、大門君。」

「実香さん」


 あの事件から数ヶ月後。

 HELL&HEAVENを、実香が訪れた。


 当然、そこには。


「実香!」

「実香さん! 大丈夫?」

「ああ、塚井、妹子ちゃん。あんたたちも来てたの?」


 実香は二人に笑いかける。

 その顔は、見る限りではいつも通りだ。


「九衛さんから、話は聞いた。……あの後、来菜がスマホ等の隠し場所を自供して警察に連絡できるようになって。それで、九衛さんやあんたたちもようやく助かったって。……実香、それで」

「うん、来菜のお兄さんの葬儀は……親族だけで行うって。」

「……そう。」


 塚井はため息をつく。

 大門の推理と神谷の自供通り、あの邪術の間の扉からは礼門一一は、母方の姓で戸籍上は一木一一四郎の白骨遺体が発見された。


 その後の鑑定等により、遺体が親族に返されるのにはさらに時間を要してしまったのだ。


「あの教団も、生き残った唯一の幹部の神谷が逮捕されて……四郎さん殺し以外にも大分余罪があるみたい。」

「ええ、警察が内偵していたほどですからね。……神谷にも、死んだ教祖や他の幹部にも、法の鉄槌が下ることでしょう。」

「うん。……それで来菜の罪が軽くなることはないだろうけど、少なくとも、せめてもの救いになるだろうな……」


 大門の言葉に、実香は胸の前で手を組み目を閉じ、噛み締めるように言う。


 しかし、無論。


「四郎さんは、妹なしで送り出されることになるみたい。」

「……そう。」


 実香は敢えて暗くは言わなかったが、塚井としてはこう短く返すしかなかった。


「実香さん。……来菜さんは」

「ああ、元気だったよ!」


 実香は今度は、明るく言う。

 本来なら起訴も済んでいないので面会は無理なのだが、日南一一もとい、周防刑事の計らいにより実香は今日、来菜と面会してきたのだ。


「拘置所のご飯にも慣れてきたみたい。……以前のようにまた元の鞘とは、すぐにはいかないみたいだけど。」

「……うん。」


 明るく話していた実香の声が少し語尾の方で曇り。

 塚井も、来菜を思い声を曇らせる。


「……実香さん。」

「……塚井。あたし、来菜に言って来たから。……あの娘が出所したら、あたしと塚井で真っ先に出迎えるって! もう一度友達、やり直そうよ?」

「……実香。」


 大門の呼びかけに、実香は塚井に対して明るく答える。

 少なくとも今の言葉には、強がりではない。

 実香の本当の気持ちが、籠められていると感じられた。


「……うん、そうだね。……親友だもんね、私たち!」


 塚井も涙を拭い、実香に言う。


「塚井、これ。」

「……ありがとうございます、お嬢様。」


 塚井は、妹子の差し出したハンカチで涙を拭い、鼻をかむ。


「え、鼻まで?」

「うわっ、ももも申し訳ございませんお嬢様! すぐに代わりの物を……あれ?」


 自身のスーツのポケットを探りながら、塚井は慌てる。

 そういえば、ハンカチを持たないから妹子がくれたのだった。


「す、すすすみません、お嬢様! 今すぐ」

「ああもういいから! ……それはあげる。あたしからのせめてもの気持ちってことで。」

「……面目もございません。」


 塚井は、本当に申し訳なさそうに謝る。


「ふふふふ……ははは!」

「え? み、実香?」


 塚井と妹子は突然の笑い声に驚いて見ると、実香が腹を抱えて笑っている。


「ああ、ごめん……ああ、おかしい! うん、妹子ちゃんあなた最高!」

「え、ええ!?」

「ねえ、大門君?」

「あ、はい。……面白いですね、遣隋使さん。」

「ええ!?」


 妹子は、たちまち赤面する。


「お、お嬢様……」

「つ、塚井。私。……九衛門君に褒められたのかな?」

「あ、はい。……そうだと思います。」

「ん、んん!?」


 妹子はより赤面し、硬直する。


「お、お嬢様!」

「……そうだ、大門君。……本当にありがとう。」

「いえ、そんな……これは?」


 妹子と、彼女にかかりきりな塚井の横で、実香は可愛らしくラッピングされた袋を渡す。


「あたしのお手製クッキー。……お礼、まだだったし。」

「あ、こんなわざわざ……ありがとうございます。」


 実香のクッキーを、大門は恐れ多い様で受け取る。


「いやいや、これがお礼だから大門君からはお礼いいんだけど?」

「いや、報酬に加えてこんなことまで」

「いいのいいの! ……それに、これはもう一つのお礼のついでだから。」

「いやいやそんな……はい? もう、一つ?」


 実香の言葉に、大門は首をかしげる。

 その、刹那だった。


「!?」

「!? み、実香!」

「……え?」


 実香はカウンターから身を乗り出し、大門の左頬に、そっと唇を触れさせる。


 一瞬ではなかった。

 しばしの間、実香は目を閉じて大門の左頬に口づけしたまま。


 大門は珍しく、顔を赤くしている。


「え……? み、実香さん。」

「……ぶはあ。」


 実香はいたずらっぽく、大門の左頬から唇を離す。


「み、実香……!」

「ごめん、塚井! ……あたしも大門君に助けられて……そこから時間をおいて、気持ちの整理をつけての今だから。」

「う、うん……」


 塚井は実香の言葉に、曖昧に頷く。

 もとより、この状況で実香の本気を疑った訳ではないが。

 最も心配なのは。


「……う……うああああああああ!!」


 先ほどまで硬直し、今はこの通り悲鳴をあげる主人のことだ。


「あ、あの……」

「大門君、あたしも。……あなたのレースに、参加することにしたから。」

「……はい?」


 実香は少し恥ずかしそうに、大門に言う。

 無論、大門には分からない。


「え、ええと……」

「次に来菜にも、あなたを改めて紹介したい。」

「え? い、いや来菜さんは……既に僕のことを知ってますけど……」

「いや、次は関係が変わっているかもしれないし。」

「……え?」


 実香の言葉に、大門はより混乱している。


「……はあ。」


 塚井は、ため息をつく。

 大門が、ここまで鈍いとは。


 まあ何はともあれ、私は主人を宥めないと。

 そう、塚井が考え振り向いた刹那だった。


「うああああああああ!」

「ひ、日出美さん!」


 学校帰りの日出美まで、参戦してしまった。


「ひ、日出美……だよな?」

「あ・な・たあ〜! 私という妻がいながら、何という!」

「ま、待て! ……う、うん。そもそも塚井さんに見えているってことは日出美だよな……?」

「何をいうとんじゃボケェ!! せめてほっぺのリップマーク拭いてから言ええ!」

「え、リップ……ああ!?」

「何がああ、じゃあ!」


 こうして場は、ひたすら混乱していくのだった。

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