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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification12 belial 地獄急行には片道切符しかない
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地獄急行で行こう

「ほら九衛門君、来たわよ列車が! あれが寝台特急ヘブンズロード号よ!」

「うわあ……すごいですね!」


 美川里島の事件から、数週間後。


 大門は、駅のホームにやって来た寝台特急に目を見開く。


 窓が上下についていて、やや大型とはいえ列車らしい細いフォルムの中であっても二階建てという大規模な居住区を内包していることを連想させる。


「ええ、さあ乗りましょう……私たちの旅の足となるこの列車へ!」

「は、はい塚井さん!」

「行こう行こう大門君!」

「わーい、大門と一緒に旅行旅行!」

「皆と旅行なんて、初めてだよね!」


 大門は塚井・妹子・実香・美梨愛・日出美と一緒に列車へと乗り込む。


「おお、かっけー!」

「こういう列車も、撮り鉄の醍醐味だよな!」


 ホームのいわゆる撮り鉄たちも、はしゃいでいる。


 これから札幌まで、16時間の旅となる。

 そう、列車の旅とは本来楽しいもののはずだ。


 ◆◇


「(さあ……楽しい列車の旅の始まりだ!)」


 そのはず――だったのだが。


 そこに邪な心をもって乗り込む者がいた。

 その仮の名は、"地獄の券売人"である。


 地獄の券売人の頭に浮かぶのは、あの時の光景である。

 とは言っても、券売人自身が見た光景ではない。


 人づてに聞いた話と、自分自身で調べた情報で想像した光景である。


 熱心な撮り鉄――しかしその熱心さが、線路内侵入に彼を駆り立ててしまった。


 そうして彼は、大胆にも線路上に三脚を立てる。

 自殺行為に見えるが、彼に自殺願望など無論ない。


 既に調べてあったからだ、この線路上をこの時間帯は列車が通らないことを。


 そう、この線路上をこの時間帯は列車が通らない――はずだった。


 ――!? う、うわあああ!


 それは間違いだった。

 彼は陣取っていた線路上に来た列車により、程なくして轢かれ帰らぬ人となったのだった。


「(さあ、旅は道連れとも言うからな……彼と道連れにしてやる、貴様らを!)」


 地獄の券売人は、内心ほくそ笑む。


 ◆◇


「す、すごい……」


 翻って、車内では。


 大門は自分に当てがわれた部屋のすごさに、目を白黒させる。


 一・二号車――札幌行きの方向から見て最後尾にあたる車両はスイートルームばかりの号車であり。


 その中で、一号車車端にあるこの平屋タイプ展望室スイートは最高ランクの部屋である。


 二つベッドが並ぶ横に、ソファがあり。

 そのソファからは、最後尾の景色が見える大きな窓があるのだ。


 ここは本来二人〜三人部屋だが、今回は大門一人に当てがわれた部屋だった。


「えっへん、すごいでしょ九衛門君! これぞ道尾家の七光りで、中々取れないこの部屋も取ったのよ!」

「……毎度お馴染みというべきか、色々褒められたものではありませんが……これはうちの主人だけではなく、私や実香や美梨愛や日出美さんからのせめてものプレゼントでもありますから!」

「そんな……僕のために、ありがとうございます!」


 妹子の言葉に呆れながらも、塚井はそう付け加える。

 そう、今回の旅行は。


 女性陣から大門への、プレゼントとしての慰安旅行でもあったのだ。


 ◆◇


「なるほど……遣隋使さんたちや実香さんたちのスイートは二階建てなんですね。」

「ええ、そうよ! まあ本来は二人部屋だけど、二階をベッドにすれば三人部屋にもなるわ!」


 大門は一号車にある、自室の隣室にあたる二階建てスイート――メゾネットスイートを見て驚く。


 平屋建ての自室とは違い、ベッド二つが並んだ一階に。

 ソファ二つと窓際から張り出したテーブルがあるリビングのある二階と、階数が二つある。


 また、これは大門の自室と同じなのだが。


「やっぱりこの二階にも、トイレ兼洗面台とシャワー室があるんですね。」

「ええ! 要予約な六号車と十号車にある共用シャワールームと違って、好きなタイミングで利用できるシャワールームよ!」


 大門のコメントに対し、妹子は胸を張ってそう言う。


「だけど……何で私が大門とじゃなく、実香さんや美梨愛さんと同室な訳!?」


 二階で妹子・塚井と話をしている大門に対し、一階で実香・美梨愛といる日出美はそう漏らす。


 日出美たちの部屋は、大門の自室とは逆方向に彼女たちが今いる部屋の隣室であり。


「あれれ〜、日出美ちゃん! お姉さんたちと一緒が嫌なの? あたしたちのこと嫌い?」

「悲しいよね〜、実香ちゃん!」

「む! そ、そんなことはないけど……夫婦なのにい!」


 日出美のむくれた発言に、実香や美梨愛も半分おどけつつむくれた様子を見せ。


 日出美は決まり悪い様子ながらも、未だむくれている。


「日出美さん、いくら九衛さんが信頼できる男性だからと言って。誰であっても、女性と同室にするなどあってはなりません!」

「むう……分かってるわよ塚井さん! 相変わらず先生みたい!」

「あ……ご、ごめんなさい言い過ぎました……」


 塚井の真面目な返しに、日出美は苦言を呈している。


「まあまあ! ここは車内探検しよ。」


 空気を変えようと、実香はそう言った。


 ◆◇


「まずは三号車のダイニングカーに……あら?」

「おや……これはこれは。」


 二号車の廊下を歩く大門たちの前に、二号車メゾネットスイートから一人の男性が出て来たが。


 妹子は彼を見て驚く。


「大手企業経営者の、宝峰さんですね! お会いできるとは奇遇です、いつもうちの主人がお世話になっております。」

「ああ、道尾のお嬢さんと執事さん……どうも、ご無沙汰してます。」


 彼――宝峰義司(たからみねよしじ)は丁重に頭を下げる。


「じゃあ、私たちはこれで! ディナーの時にでもご一緒しましょう。」

「ああ、是非。楽しみにしていますよ。」


 大門たちはそのまま、宝峰とすれ違う。


 ◆◇


「ダイニングカー――食堂車は広かったですね! ディナー、楽しみです。」

「ええ、期待してていいと思うわよ九衛門君! まあ、うちの屋敷のディナーには負けると思うけど。」

「お嬢様。」


 そんなことがありながらも、大門たちはダイニングカーを出ようと四号車に続く階段を降りようとしたその時。


「おっと!」

「おお、ごめんなさい。」

「お、お嬢様!」


 ちょうど出会い頭で、妹子は車椅子の乗客とぶつかりそうになり後ろの大門に受け止められる。


「あ、ありがとう九衛門君……そ、そしてごめんなさいお客さん!」


 妹子は後ろの大門には礼を、前の乗客には謝罪をする。


「いえいえ、車椅子を押していた私も悪いですから。彼も大丈夫そうですし。」

「も、申し訳ございませんうちの執事が!」


 車椅子を押す介助の男性も、ペコリと頭を下げる。


「(ん!? 彼は……)」


 が、大門たちは彼らを見て驚く。

 まず、車椅子の男性乗客は包帯で顔や身体を覆っている。


 更に車椅子を押す男性の方も、フードやマスクにサングラスで顔を覆っている。


「では、私たちはこれで。」

「あ、は、はい! すみませんでした!」


 大門たちが戸惑う中。

 二人は四号車の、三号車から入ってすぐにある車端の部屋――当列車では唯一の、車椅子専用部屋だ――に入っていった。


 ◆◇


「いやあ、さっきは驚きましたけど……今度は、展望車の景色に驚きです!」

「ええ、そりゃそうでしょ! 何せ、この景色もご馳走の一つですからね!」


 そうして大門一行は、最前に当たる十二号車展望室へと至る。

 前と側面の壁が全て窓になり、他客車二階と同じ高さなのもあっていい眺めとなっていた。


「おやおや、また会いましたね。」

「あ、宝峰さん!」


 大門らが眺めに感じ入っていると、彼らから少し遅れて宝峰がやって来た。


「失礼します! お客様、どうかなさいましたか?」

「ああ、車田(くるまだ)車掌。いやいや、ちょっと顔見知りと会ったものでして。」


 宝峰は、やって来た車掌に対してもペコリと頭を下げる。


「すごいわ塚井……」

「ええ、お嬢様……」

「おお! 意外に高い!」

「まあ二階だからね!」

「実香ちゃん、遠くになんか見える……」

「……例の話は、頼みます……」

「……ああ、もちろん。」

「(ん? この人たち……)」


 そうして女性陣が、改めて眺めを楽しむ中。

 大門はその後ろで繰り広げられる彼らの会話を小耳に挟み、首を傾げる。


 これは、一体――

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