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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification11 asazel 探偵は生贄の羊(スケープゴート)に甘んじない
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conclusion:探偵は生贄の羊(スケープゴート)に甘んじない②

「ええ、あなたですよ長丸社長。」


 大門は懐中電灯で照らしながら、長丸に問いかける。

 しかし。


「私が……? いやいや、九衛さん! 戯言を言ってくれては困る。私がこの美川里島で――自分の所有する島で殺人を犯したりしてみなさい! この島だけではない、私の会社の評判もガタ落ちだ!」

「ええ、そうですね。」


 そう、それは一理ある。

 なにせ、彼には一見動機がないのだ。


「特に……せっかく手に入れたこの島をそんな。私は言いがかりをつけられて、その時点で既に危機的状況だったのです。そこに殺人事件まで起きて……もうこの島はオープン前に潰れる! 私は被害者なんですよ! 私にこの島で殺人を犯すメリットなんて何一つないんです!」


 尚も長丸は言う。

 いや、それは喚くようにも聞こえた。


 だが。


「いいえ、あります。……脅迫の種になっていたこの島を、まだ初期投資のオープン前に潰して手放すことが目的だったのだとしたら?」

「!? な……」


 大門ははたから見れば、思いもよらぬことを口にする。


 島を手放すことが目的などと。


「そう、あなたは脅迫されたことでこの島を急速に邪魔臭く思うようになった。……佐原さんにこの島を手に入れた時の違法な工作の数々がバラされてしまえば、それこそあなたが言っていたようにこの島だけではなく会社そのものの評判もガタ落ちですからね!」

「くっ……」


 大門はそう続けた。

 いわば、この殺人は。


「ですからあなたは、佐原さんや島を買い取った際の事情を知る者たちを殺して口を封じた。しかしそれだけではあなたが疑われかねないので、その罪を他人に着せようとした! ……言うなればこれは、経営判断による殺人。そうですね?」

「……ふん、まあ確かに道理は通るようですが!」


 だが、長丸も負けじとそう返した。

 そう、まだ肝心な部分に触れられていない。


「しかし。その証拠はどこにありますか? さっきあなたが言ってらした小屋のチェーンのトリック? それは違うでしょう。万が一私が犯人で自らチェーンを切ったとして、既にそれによってトリックが実行された証拠はないんですから!」

「……」


 証拠である。


 確かに小屋のチェーンは状況証拠――いや、もしチェーンの再破壊時にしくじりその継ぎ合わされた跡が残ったとすれば重大な物的証拠たりえたのだが。


 再破壊に成功した今、もはやその証拠はない。


「どうしました九衛さん? もう、手詰まりですか?」

「……いいえ。確かに小屋のトリックはそうですが、その前――あの遺体運搬のトリックは、実行された証拠があります!」

「!? な、何?」


 しかし大門は、そう口にする。

 そう、遺体運搬のトリックである。


「あなたが女性たちに見せた遺体――正確にはその首と山羊入りカバンから首だけ入れ変えた方のカバンです。あなたがファザーフード牧場に持ち込んだ、ね。」

「……ほう? ですが、そのカバンはもうありません。飽きたので、捨ててもらって」

「これですか?」

「!? な……?」


 余裕を見せていた長丸だったが。

 大門が写真を見せるや、たちまち動揺する。


 それは、例のカバンの写真であった。


「朝香さんが、あなたが処分したこのカバンを回収していてくれたんですよ。今、警察で中のDNA鑑定がなされています。じきに、野間口さんのDNAが検出されるはずです。」

「……くっ、朝香君! 余計なことを!」


 長丸は頭を抱える。

 まさか、そんな伏兵がいたとは。


「さあ、まだ言い逃れができますか? 長丸さん!」

「……ふん!」


 長丸は、その場に座り込む。


「まったく、まさか……小屋のチェーンなんかで犯人だと気づかれるとはね!」


 彼は自嘲気味にそう言う。

 だが。


「いいえ。むしろ逆です、僕はあなたが犯人だと気づいたことであのトリックにも気づいたんですよ。」

「な、何!?」


 大門のその言葉に、長丸は虚を突かれた。

 小屋のチェーンに気づく前に、犯人だと気づかれていたということか。


「では、何故」

「僕があなたの犯行に気づいたのは、この島に来た初日のこと――僕が倒れてしまって、あなたや朝香さんも付き添ってくれた時のことです。あの時の会話を後になって分析してのことです。」


 ――あ、そうだ朝香君。その今夜の妹子さんやそのお客様とのパーティーだが……君は確か、他の用事があるんだったな。

 ――? ……え?

 ――ん?


 あの時長丸は朝香に、話を振ったが。

 何故か朝香は、ひどく驚いていたのだ。


「あの時アサカさんに当夜の用事について話されてましたよね?」

「あ、ああ……」

「一時はこう考えました。長丸さんから夜の予定を聞かれた時、朝香さんは本当の夜の予定――佐原さんの殺害計画があることを言われているんだと思って取り乱したのではないかと。しかし。」


 大門はしかし、そこで引っかかる点があったのだ。


「その時別の可能性も考えたんです。……あの時朝香さんが驚いたのは、そもそもまだあなたに話していなかった夜の予定についてあなたが知っていることに対してじゃないかって。」

「!?」


 朝香があの時驚いていた理由。

 それは、そこにあったのである。


「では何故、あなたは聞いてもいない朝香さんの夜の予定を知っていたのか? それは朝香さんに罪を擦りつけるべく佐原さんのロッジに彼女を呼び出した人物――つまり犯人があなただからですよ!」

「……くっ!」


 ――まず。何故僕が、犯人に罪を着せられたのか。それは元々罪を着せるべく佐原さんのロッジに呼び出された別人がいたところ、僕が来てしまったからだったんですね?


 そう、大門が最初に言っていた"元々罪を着せるべくロッジに呼び出された別人"。


 それは朝香のことだったのだ。


「僕だけじゃありません、朝香さんもそのことがきっかけで薄々あなたを疑っていました。それで今回、証拠集めに協力してくれたんです!」

「では、私は最初の時点でボロを出していたということか……我ながら、何とお粗末な!」


 長丸は、尚も叫ぶ。


「さあ、長丸さん。早く」

「近づくな! 私が……お前のような奴に!」

「長丸さん……」


 が、大門が近づくと。

 長丸は身構え、後ずさりする。


「長丸さん、いい加減観念なさってください!」

「何が観念だ! お前一人に何ができる……お前がこんな大きな会社を背負ったことがあるか!? 私のやったことが罪だというのか……私が会社を守ろうとしたことが!」


 長丸は、喚くようにそう言った。


「会社を守る、ですか……確かに。そのために計画外とはいえ、無関係な人間を選ぶというのは経営判断としてはよかったかもしれませんね……」

「ああ、そうだ! だからお前は……大人しく犠牲になれ!」

「おっと! ……長丸さん、まだ罪を重ねる気ですか?」


 大門の言葉に、長丸は刃物を取り出して襲い掛かるが。


「朝香さんに罪を着せようとしたり既に死んだ二人だけでなくまだ他の従業員まで殺そうとしたこともまた経営判断ですか?」

「ああ、そこまでお見通しとはな……その通りさ!」


 大門はそんな彼と取っ組み合いになる。


 そう、島を買い取った際の事情を知る者たちを殺して口を封じる。


 それがこの事件の目的だったのだから。


「後で僕のことも警察に働きかけて釈放させ、また拉致してその罪も着せる気だったんですね? それは……経営判断としても正しかったのかどうか!」

「うるさい! さあ、さっさと私のために人柱になれ!」


 長丸は大門に尚も喚く。


「長丸社長……いい加減気づきませんか?」

「何だと!?」

「まだお分かりになりませんか? 僕は今、警察の捜査状況を知っているんですよ?」

「!? ま、まさか……」


 が、長丸ははっとする。

 そう、大門は。


 ――今、警察で中のDNA鑑定がなされています。じきに、野間口さんのDNAが検出されるはずです。


 確かに、先ほどこう言ったのだ。

 それは、つまり。


「そこまでだ、長丸!」

「!? ま、眩しい! こ、これは……!?」


 たちまち投光器より、周囲が照らされ。

 現れたのは、沖縄県警の機動隊である。


「私は警視庁の井野だ! 九衛君自ら協力したいとの申し出があり仕方なくこうしたが……大丈夫か、九衛君!」

「はい、井野警部! さあ、長丸さん!」

「そんな……ぐあっ!」


 そこには何と、井野もおり。

 大門は彼の言葉に、長丸から刃物をひったくり彼を突き飛ばす。


「よし、今だ……確保お!」

「おおお!」

「くっ……は、離せ! わ、私を誰だと思っている! 私はこの島運営の会社をここまで大きくしたんだぞ!?」


 そんな長丸に機動隊員たちは、寄って集って彼を取り押さえる。


 長丸はプライドのあまり騒ぐが。


「ああ、安心しろ! 役員会は既にあんたの更迭を話し合っている。すでに次の社長は決まりつつあるとのことだ、残念だったな!」

「そ、そんな……」


 井野のその言葉に、長丸はみるみる萎れたように抵抗を弱くしていく。


「さて……長丸太! 九衛大門の拉致監禁、並びに佐原ら四名の殺人容疑で逮捕する! ……更に、この島の買取も含めて様々な余罪が出て来そうだな?」

「くっ……ううう、おのれえ!」


 井野はダメ押しとばかりにそう叫び。

 もはや全てを失った長丸は、悔しがれど何もできなかった。


「何はともあれ。……これで、悪魔の証明は終了ですね。」


 大門はそんな長丸の姿を見ながら、決着宣言をする。


 ◆◇


「誠に……申し訳ない!」

「ああ、私も本庁の警部として謝罪する! 今回は警察の見込み捜査も多分にあってのことで、何とお詫びをすればよいか」

「あ、いいえいいんですよ! それより……ありがとうございました井野警部! 僕を信じてくれて。」


 謝罪して来た堂本と井野に、大門はそう返す。

 そう、この警察との連携は。


 大門に殺人容疑がかかっていると知り本庁から飛んで来た井野による、堂本をはじめとする沖縄県警への説得により実現したものだった。


「いやいや! 君がそんな目にあっているなどと、私もいても立ってもいられなかったからだ。そもそも、私がいくら出しゃばったところで君が真相に気づいていなければ県警説得は無理だったのだから!」

「いえ、そんな……」


 井野の言葉に大門は頭を掻く。


「それに……君を信じたのは私だけじゃない! 彼女たちにこそ、君は感謝しなくてはな。」

「! はい……そうですね。」


 井野が背後を振り返り、大門もそちらに目を移せば。


 そこには警察に付き添われた、女性陣の姿が。


「さあ……行ってやれ!」

「……はい!」


 井野の言葉に大門は、意を決してそちらに向かう。


 ◆◇


「何を言われても、もう仕方ないな。ここはもう、謝るしか……わっぷ!?」

「大門君!」

「九衛さん!」

「九衛門君!」

「大門!」

「大門さん!」


 女性陣の元に向かっていた大門だが、実香・塚井・妹子・日出美・美梨愛らが自分から駆け寄り彼に次々と抱きついて行く。


「皆さん、その……僕」

「……いいよ、大門君!」

「ええ、九衛さん……」

「九衛門君……」

「大門のバカ!」

「大門さん、お帰り!」

「はい……ただいま!」


 大門はそんな女性陣を、抱きしめ返す。

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