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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification11 asazel 探偵は生贄の羊(スケープゴート)に甘んじない
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conclusion:探偵は生贄の羊(スケープゴート)に甘んじない①

「来てくださって光栄ですよ。」


 大門は暗がりの中、戸惑う犯人に話しかけている。


「まあゆっくりとお話をしましょう……まず。何故僕が、犯人に罪を着せられたのか。それは元々罪を着せるべく佐原さんのロッジに呼び出された別人がいたところを、先に僕が来てしまったからだったんですね?」

「……さあ。犯人ではないですから分かりませんね。」


 大門がそう言うが、犯人はあくまでしらを切るつもりのようである。


「それに。警察から聞きましたが、あなたもロッジに着いた時にもう死んでいる佐原さんを見たのでしょう? ですがあの時、あなた以外ほとんどの人物にアリバイがあったはず。ならば、あなた以外に佐原さんをどうやって」

「いいえ! あの時僕は、倒れている佐原さんを見ただけです。……そこでこう考えました。あの時佐原さんは、眠らされていただけだったのではないかと。」

「!」


 大門がそう言うや、犯人は少し動揺した様子を見せる。


「犯人はある理由から、誰の飲み物や食べ物にも薬を盛れる立場にいました。ですからそれで佐原さんは、単に眠らされていただけだった。殺されたのは、僕もその後催眠ガスで眠らされた後のことだったんです!」

「……」


 尚も続く大門の話を、犯人は黙って聞いている。


「まあその時間は、今は正確には分かりませんが。少なくとも死亡推定時刻の関係から、僕が拉致された日のうちであったことは確かでしょう。……そうして翌日。その仕組みを応用して、瀬名さんの殺人も行われたんです!」

「! へえ……」


 大門はそうして、第二の事件について話し始める。


「閉じられた部屋の中で瀬名さんが殺されていた件ですが。女性たちや長丸さんたちが彼女をドアの窓から発見した時、彼女は眠らされていただけだったんです。」

「それで?」

「犯人はあらかじめ空けておいた下の窓から、注射器の針を彼女に刺してサクシニルコリンを注入し殺したんです!」


 そう、あの時。


 何やら倉庫の中から物音がしていたのを実香が聞いていたが。

 あれは有希が、毒を注入されて一時暴れた時の物音だったのだ。


「あのホテルも、まだまだ初期投資の段階で監視カメラ等も設置されていない状態でした。ですから犯人も、そんな犯行が可能だったんです!」

「なるほど……しかし。その二つの事件はそうだったとして、あの野間口さんの事件は?」

「ええ。よくぞ聞いてくれました。」


 そうして犯人の方から、大門に質問する。

 そう、野間口の事件。


 遺体があの牧場へ運ばれた事件である。


「あなたと仲良しの女性二人が彼の遺体を発見した後、犯人はその遺体を小屋に運んだんですよね? しかし何箇所かある入口には確かにカメラの死角になる場所もあるとはいえ、遺体が運ばれた時間からいくらも経たない内に全箇所の入口に従業員がいる時間になってしまいその時間には入口からは出入り不可能! だが牧場周りは高いフェンスに囲まれていて入口以外からも出入りできない。」

「ええ。ですからその遺体発見時間から従業員のいない僅かな時間にアリバイのない僕にしか犯行は不可能! そういう結論でした。」


 犯人の言葉に、大門は敢えてそう返す。


「その通りですよ! ならどうやって」

「確かにあの時遺体は運ばれました。……ですがそれは、全身ではありません。」

「……何ですって?」


 大門のその言葉に、犯人はまた動揺する。


「犯人は最初から、あの小屋かまたはその近辺で野間口さんを殺して遺体を解体して小屋に置いておき、首だけを持ち出した。もちろんその時の牧場への出入りはカメラの死角となる箇所の入口から行われました。」

「それで?」

「実は運ばれていたカバンに入っていた遺体の部分は首だけであり、それ以外は重りとしていた山羊の死体が入れられていただけだった。」

「や、山羊?」

「ええ、この島のファザーフード牧場――遺体発見現場でもあるあそこで飼われていた肉用の山羊です!」


 そう、あの時。

 実香と塚井が見せられていたのは、カバンから出ている首だったが。


 あれが運搬された遺体の全てだったのだ。


 犯人はそれ以外を、あらかじめ牧場から持ち出していた山羊の死体を重りとして補っていたのである。


「犯人は遺体の首と入っていたカバンを女性たちに見せて遺体全てを運んでいると認識させた。彼女たちを目撃者に仕立て上げたのは、そういうことだったんです!」

「なるほど……しかし。確かに遺体は、あの小屋に全てあったんでしょう?」


 確かに小屋にあった遺体は。

 ちゃんと首も含めた、全てが揃っていた。


「ええ、その後犯人は更に計画を進めた。まずカバンの中から山羊だけを取り出してカバンと共に海に捨て、その後で何食わぬ顔をして遺体の首だけ別のカバンに入れて小屋に現れ。皆が扉の隙間から遺体の首以外を見ている中カメラの死角になる窓から首を投げ入れていたんです。」

「ふうん……では、あの小屋は? 鍵はかかっていなかったけれど、チェーンがかかっていた密室だったのでしょう?」


 次に謎なのは。

 密室になっていたあの小屋のことである。


「いいえ、あれは。……いえ、今回のトリックは全て。巧妙とは言い難い、お粗末なものでした!」

「な……!?」


 大門の言葉に、犯人は顔を歪める。


「小屋には内側からチェーンがかけられていましたが、これは外出できる程度に長いチェーンとし、野間口さんの遺体をバラバラにして中に置いた後で。小屋から出て、そのチェーンを外から切って短くした後で接着剤でつけていただけでした。」

「ば、馬鹿な!? そんな継ぎ目があったなら、警察はとっくに気づいているでしょう?」


 そう、チェーンの継ぎ合わせた跡などすぐにバレる。

 しかし、警察はそんな事実は確認していない。


「ええ、もちろん。ですから犯人は、あくまで目撃者として小屋に押し入ろうとした体で自らその継ぎ目を切った――」

「!? まさか」


 大門が明かしたその言葉は、犯人を余計動揺させる。


「ええ。そうすることで犯人は、チェーンの継ぎ目をごまかしたんです。トリックの最後の仕上げとしてね! ……しかし。それは裏を返せば犯人は、あの時小屋のチェーンを斧で切った人物ということを意味しています!」

「くっ……」


 そう、それは取りも直さずそういう結論になる。


「そう。……犯人はあなたですね?」

「ま、眩しい!」


 大門は、そう言って犯人を懐中電灯で照らし出す。











































「長丸社長!」

「……ふん。」


 それは、他ならぬ。

 この島の経営会社社長たる、長丸であった――

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