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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification11 asazel 探偵は生贄の羊(スケープゴート)に甘んじない
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探偵の居場所

「こ、これって……?」

「これぞ、犯罪者の見てきた景色さ……同時に、私が同じく見てきた景色でもある。」

「だ、ダンタリオンが……?」

「ああ、そして……引いては、君が見てきた景色という訳だ!」

「!? な……」


 大門は目の前に示された景色に、呆然とする。


 遺体が多く横たわる血の海の中。

 自分もまた、大量の血を浴びて呆然としているのだ。


「君はずっと知りたがっていたんじゃないか? 私が何故、君よりも常に一歩も二歩も先に事件の真相にたどり着けていたのか。」

「!? まさか……」


 ダンタリオンのその言葉は、大門に更に追い討ちをかける。


「そうだよ……私には分かる! 犯罪者の心が!」


 ダンタリオンは、更に嬉しそうに言う。


「ああ、推理なんて大層なものじゃないさ……犯罪者の心を上から見下ろして得た結論、単にそれだけのことだよ。」

「そうか……ダンタリオン、お前は!」


 大門はそこで、合点する。


「いわゆる……サイコパスか。」

「……ふふふ。」


 大門のその言葉に、肯定の意味でかは分からないが。

 ダンタリオンは、不敵な笑みを漏らす。


 ◆◇


「うん、やっぱり九衛門君は映ってないわね!」


 その頃、ファザーフード牧場では。

 監視カメラの映像を見る、女性陣の姿があった。


 もっとも、この島全体が未だ初期投資の段階であり整備しきれていない状態であるため。


 カメラの死角が多いのは、この牧場も例外ではなかった。


 更には。


「そもそもカメラに死角はあっても、あの牧場は営業時間中はいろんな所に従業員のいる入口があるわ。それ以外は高いフェンスのせいで、やっぱり営業時間中は牧場に入るのは難しそうね……」


 そう、営業時間中はカメラではなく入口のポイントに人の目がある。


 ならば時間外に運び込んだとなりそうだ。


 だが、遺体は別の場所から運ばれている最中の様子を塚井や実香が見せられているのだ。


 その後であの牧場に運ばれたとなると、やはりどうしても営業時間外ではあるが既に開場時間直前の従業員がいる時かあるいは従業員が出勤するまでの僅かな時間となってしまう。


 しかし、聞いたところ運ばれている遺体の発見時間から従業員が入るまでの時間にはこの島の関係者の殆どにアリバイがあるという。


 約一名――大門を除いては。

 

「うーん……ああー、分からないわ!」

「お嬢様、いずれにせよ。この死角が多いカメラの映像では無実証明が」

「わ、分かっているわよ塚井! だけど、何もしないよりはマシでしょ!」


 悩む妹子は、少しカリカリしている。


「……まあとにかく。ええっと、次はあの遺体が置かれていた小屋の様子ね。小屋の窓はあまり開かない仕様ね……それこそ、首一つ通るのがせいぜいな。」


 妹子は、小屋の様子を思い出しながら言う。

 そうして、ふと気づく。


「小屋から出入りできるのは……他には中のエアダクトから外の換気扇に通じる道、なのよね。そうよ……犯人はそこから!」

「し、しかしお嬢様。その道ですと、他の人が遺体を運び入れて出て来るには時間がかかり過ぎてしまうんです。……そう、私たちやその他関係者ではあの場に駆けつけるのが不可能になってしまいます!」

「それができるのは……あー、結局は……」


 行方不明の大門だけ、ということになってしまう。


「となると……じゃあドアから」

「ドアには鍵はかかってなかったけど。チェーンがかかっていて、密室だったわ!」


 日出美の呟きに、妹子はそう返す。

 そう、あの時。


 チェーンがかけられ中途半端に開いた扉の隙間からはバラバラにされた手足が見えた。


 確かに見たのだ、チェーンがかけられた様子を――


「……うっ!」

「お、お嬢様!?」

「妹子ちゃん!」

「妹ちゃん!」

「妹子さん!?」


 しかし、妹子はそこで倒れてしまう。


 何回か殺人現場の経験がある彼女といえど、凄惨な現場は場数は踏んでも慣れることはない。


「だ、大丈夫よ……九衛門君のためだもの! 私も道尾家の名にかけて!」

「お嬢様……」


 妹子はそれでも、すぐに立ち上がる。


 そう、これは大門のため。

 いつも助けられてばかりの自分たちが、少しでも恩返しをしようという訳である。


「さて! まだまだ見るわよ、証拠映像を!」

「……はい、お嬢様!」

「うん!!!」


 妹子のその言葉に促され。

 女性陣は、再び映像に見入る。


 それは、ファザーフード牧場の正面入り口に設置された監視カメラである。


「カバンを持っているのはあの朝香とかいう女と……おじ様もだけど。後はファザーフード牧場の従業員さんたちも……いずれにしても、そんなに大きなカバンじゃないわね……」

「ええ……とても遺体を丸々一体運び込めるものでは」


 妹子はあの小屋での遺体発見時間、牧場を訪れた者たちを見ながら呟く。


 先ほど塚井が言った通り死角だらけのカメラとはいえ、そこに映る限りで遺体が牧場に運び込まれたと思しき時にカバンを持っていた人物は、ほぼその者たち全員である。


 いずれにせよ、塚井と実香が目撃したような遺体が丸ごと入る大きさのカバンを持っている人物は見当たらない。


「そもそも……この映像に映っている人って、皆が島の会社関係者たちよね? 自分の職場に傷をつけるようなこと」

「いや、待って妹子ちゃん! ……この島の元住民だったら、あり得るかも。」

「!? あ……」


 妹子の台詞に、実香はしかし思い当たる節があった。


 ――この島を……俺たちのこの島を! 村人たちの仲引き裂いてまで奪ったクズが!


 ――だ、だから止めようよ! お客様もいるんだから聞こえたらまずいよ!


 ファザーフード牧場で彼女が聞いた、元住民たる職員たちの言葉だ。


「この会社……あるいは。長丸のおじ様自体に、恨みを持つ人が?」

「そう、恨みを持つ人――差し当たり、この島の元住民たちが思い浮かぶけど。だけど……何のために大門君が罪を着せられたのかな?」


 実香は考え込む。


 大門が来ることは、確かに妹子が長丸はじめ全てこの島の関係者に伝わっていたのは明白である。


 だが、彼はこの島とは何のゆかりもない。


 ――九衛は探偵……ということは! その筋で何らかの情報を得て、あなたを脅迫していたのかもしれません。


 そんな彼が犯人いや、重要参考人にされた経緯はやや強引であった。


「うん、やっぱり……本当なら、大門君が犯人扱いされるなんてもっと疑ってもいいことなのに! 今回は警察の不手際と言われても仕方ないと思うよ、妹子ちゃん!」

「実香さん……」

「実香さん……」

「実香……」

「実香ちゃん……」


 実香の言葉に、他の女性陣も大きく頷く。

 そう、今回大門が犯人とされた件はやや強引であり。


 警察の見込み捜査を疑われても、仕方のないことであった。


「さあ……もっと長丸社長や元住民の人たちに聞き込みしてみよう! そうすれば、何か分かるかも!」

「……はい、実香さん!」

「言われなくても……夫の無実を証明するのは妻の務め!」

「うん、実香!」

「実香ちゃん!」


 女性陣は、覚悟を新たにする。

 ……しかし、その矢先だった。


 ◆◇


「堂本刑事、ここです!」

「よし……何名かの捜査官は建物の裏口に回り込め! 何としても奴を逃すな!」

「はい!!」


 女性陣の決意から数日後。

 警官隊は、美川里島の一角にあるとある古びた建物を取り囲んでいた。


「大門君……」

「九衛門君……」

「九衛さん……」

「大門……」

「大門さん……」


 この場には、女性陣もいた。



 全ての罪を自白し、自首します。


 九衛――



 そんなメールが、塚井の下に来たからである。

 そこに書かれていたのが、この場所だったのだ。


「よし……九衛大門! そこにいるのは分かっているぞ! 既に周囲は警官隊が囲んでいる、大人しく投降せよ!」


 堂本は拡声器で、中にいるであろう大門に呼びかける。

 行方不明の佐原を人質に取っている可能性も考え、まずは自ら投降させようとしているのである。


「出て来ないか……警官隊、全隊突入せよ。人質にされている可能性もある佐原氏と共に、極力生きたまま確保だ!」

「り、了解!」


 しかし彼は、決断を下す。

 そうして命じられた警官隊は、建物へと突入する。


「く……待って」

「お嬢様! ……ここで私たちが首を突っ込めば、公務執行妨害になりかねません。私たちはただ待つしかないのです。」

「塚井……」

「大門……」

「大門さん……」


 その様子を。

 女性陣たちは、ただただ見ていた。


 ……そして。


「ど、堂本刑事! 一名を身柄確保、しかしもう一名は死亡!」

「!? な、何!?」

「!? そ、そんな……」

「まさか……!!!!」


 現場はその声に、騒然となるが。


「こ、九衛大門は身柄確保! しかし……佐原氏は、既に死亡していた模様です!」

「何だと……とにかく。早く遺体も身柄も運び出せ!」


 堂本は動揺しつつも、そこはさすが刑事というべきかすぐに冷静になる。


 そうして。


「! お嬢様……あれは!」

「き、九衛門君!」

「大門!」

「大門さん!」

「大門君!」


 建物から、警官隊により担ぎ出された人影に女性陣は声を上げる。


 それは紛れもなく、何日ぶりかの大門の姿だった――

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