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7/9

7 VRMMOのようす


街を一歩出ると、そこには荒野が広がっていた。

地面は乾燥し、ひび割れている。

太陽は南中に位置し、日差しが強く照りつけてくる。


「アストリアの街と違って暖かい……というか暑い! 暑すぎるよぉ! ユズちゃんどうにかしてぇ〜」


「そんなこと言われたって……。 さっきの町で聞きましたが、この時期は気温40度を超えることも、ザラにあるんだとか」


よ、40度……。

熱中症危険度MAX!

というか、生物学的に、この環境に、人間の体は耐えられるのだろうか?


「このひりつくような暑さ……ゲームなんだから、再現しなくてもいいと思うんだがなぁ」


オレのグチにピンクのツインテが返してくる。


「"現実感溢れるゲームにしたい"という、製作者の粋な計らいです。 ご安心下さい。 HPがゼロにならなければ、現実世界の肉体には、なんら問題は発生しませんから」


なるほど……って、まさか?!


「えぇ、そうですよ。 "HPゼロ=死" まぎれも無い事実です」


顔を伝う汗が、突然冷たくなる。


「あれ? 説明を受けてなかったんですか? ワールドマスターの……」


……ワールドマスターの?


「マスター・デイブから」


聞いてない。

オレはこのゲーム、半分無理矢理押しつけるように渡されただけだ。

そして、なりゆきでチョコっとだけプレイするつもりで……。


まさかアイツ、オレたちを嵌めるために?


「オレたち、説明とかなんも受けてなくて……。 な、マイ様。 ちょっと聞きたいんだけど……」


オレの言葉は途中で遮られる。


「"ログアウト"は、もちろんできませんよ。 あなたたちが、元の世界に戻るには……」


マイがくちびるを軽く舐めながら続ける。


「"暗黒煌龍ドレアムの討伐" それ以外に方法はありません。ま、せいぜい頑張ってくださいね。 この私……"ご主人様"が後ろで、見守ってあげますから」


現実を突きつけられる。

灼熱の荒野に2人のメイドと1人のオレ。

そして生意気なご主人様。


たった4人で始まる、暗黒龍討伐。

どう考えても無理……しかしこれはゲームでもある。

わずかな可能性を求めて、オレは進む。


★★★


「で、オレたちはどこに向かってるんだ?」


命令されるがまま。

オレはマイの後を歩いている。

ユズリハとエリスはその後を歩いている。


「私たちが今、目指しているのは……"プリムの街"。暗黒煌龍の住まう居城へ向かう前に、いったんそこに寄ります」


「えーっと。 念のため聞くけど、なんで?」


オレの言葉に、心底呆れたような表情を浮かべて、マイが答える。


「まず、レベル1、装備も全部初期のまま……そんな状況で、数多の冒険者を返り討ちにした暗黒煌龍を倒せると思っているんですか?」


「い、いや。 無理だろうなぁ、たぶん」


「まぁ大方の予想はついているでしょうが……とりあえず、デザートシティで、暗黒煌龍を倒すための武器、防具を作ってもらいます」


「あのさ……それ、お金かかるんじゃないかな? オレこのゲーム始めたばかりだから……」


そう言いながら財布の中身を確認する。

みすぼらしい5枚の紙幣が入っていた。


「これだけしか持ってないぞ」


「ご安心下さい。今ならたったの20ラピスで、人類最高技術の粋を集めた、"☆5オリハルコンソード"もしくは、"☆5アダマンアーマー"、もしくは……」


「"精力増強栄養ドリンク12本セット" のどれかをタダで、プレゼント! 」


なるほど!

"ラピス" というのがゲーム内での貨幣単位なのか。

紙幣には100と書かれているから……こいつがあれば、最強装備も取り放題だな。


「そっかー。 じゃあこれでよろしく頼むよ」


オレはボロボロになっていた紙幣を渡す。


「あぁ。 違いますよ。 "ラピス" というのは異世界のお金を使うことで得ることができる……特別な通貨なのです」


嫌な予感がした。

いや、元をたどれば、"☆5"とか言っちゃう時点で察するべきだったのだろう。


「一応聞くが……1ラピス、おいくらギルなんだ?」


自信満々にマイが答える。


「1ラピス=20万ギル まとめてのお買い上げでしたら、20ラピス=380万ギル となっております」


「ちなみに、1ラピスで1回ガチャを引けますよ。 今、オススメなのは、限定のウルトラレア装備があたる……」


頭が痛くなってきた。

こんな石油王設定のガチャ、そもそも回すやついないだろうが……。


「いますよ? ここにね」


オレの心を読んだかのように彼女はそう言い放ち、こちらを人差し指でつついてくる。


「いやいや。 リアルではオレ、貧しい冒険者だから。 そんなギル払えないし……」


「だいじょうぶ! "困った時のリポ払い" がありますから。 なんと、どれだけ課金しても、月々のお支払い額は常に一定なんです!」


「これなら貧乏冒険者さんでもあんしん! ゆとりのお支払いでだいじょうぶです!」


「さぁ、この書類にサインをどうぞ! ボールペンは、一度書いたら絶対に消えない、こちらをお使い下さいね!」


いつの間にやら、紙とペンをもちだしてくる。

お断りだ。

こんなクソみたいな契約、誰が……。


うぃーん


突然機械音がする。

音のした方をみると、ホログラムが映されている。

ベッドの上にユズリハとエリスが何も知らずに寝ている。

そんな無防備な2人を襲う、卑劣な男が1人……。


「わ、わかった! サインする! いや、させてください。 マイ様ぁーー」


「ふむ……わかればよろしい」


オレは慌ててペンと紙を受け取り、サインする。


「よしよし。 無事、現実世界に戻れたら、毎月1日に、5万ギル……それを利息込みで96ヶ月だから……8年間続けるのですよ。 いいですね?」


★★★

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