【名家達の鞘当て】
ティオ達の前に現れたのは、青い髪の少年と、茶色い髪の少女、そして彼女の後ろに控えるように立つ黒髪の眼鏡を掛けた少年の三人だった。
みな、レイチェルと同じく、良家のような気位の高さを感じる。だが、レイチェルは明らかに不機嫌な顔で彼らを睨み付けたいた。
「レイチェル、こんなところにおったんやね。エディと探してたんよ」
少女がクスクス笑みを浮かべながら、独特の言葉遣いでしゃべる。
レイチェルはふん、と鼻を鳴らした。
「わたくしがどちらのコンパートメントにいるのか、でしょう。はっきり申して構わないのよ、桜」
「ややわあ、うちはべつに、悪い気して言うたんちゃうよ。邪推しすぎやわぁ、レイチェルったら。なあ、エディ?」
「ああ、そうだとも」
エディと呼ばれた、青髪の少年が、頬にかかったくるりと癖のある前髪をさわる。
「この僕、エディ・ウィンダムと土萌 桜。そして君と、アリオス。四大属性の貴族が一同に入学するのだから、知古を探すのは当然だろう? …とはいえ」
エディはふふんと笑った。
「昔から、左側のコンパートメントはゴールデンサンのクラスに、右側のコンパートメントはシルバームーンのクラスに組まれていると言われているのは、レイチェルも知っているかな?」
「そうね。一応、そう聞いてるわ」
「ほなら、レイチェルはどっちに組まされたのやろ? うちとエディは左側のコンパートメントに座ったんやけども」
二人の言葉に、レイチェルはすっと横目で自分が指定されたコンパートメントを見た。
彼女はティオ達と同じく、左側のコンパートメントに座っていた。
「やあ、もしかして、左側なん? てことはお月様のクラスなんやねぇ」
桜の声色がいっそう高くなった。
「まあ、こればかりはしゃーないねぇ。できたら皆、太陽のクラスになりたかったんやけどねぇ」
「はは、そうだな、桜」
楽しそうにしている二人に、黙って見ていたティオとタケルは首をかしげた。
「なあ、こいつらなんでクラス分けの話で偉そうにしてんだ?」
「わかんないよ。星や月は知ってる?」
「知らないネ。コンパートメントで既にクラスがわかるなんて、星達も初めて聞いたネ」
彼らの会話を耳にしたのか、レイチェルは小さくため息をついた。
「術式を作り上げた大魔法使い、数ある閃きの元に創造し魔法を作った大魔法使いなど。あなたがたでも、偉人と呼ばれる方々のこと、少しは知っているわね?」
「そ、そりゃ、名前くらいは」
「その名前くらいは答えられる偉人達は皆、ゴールデンサン出身なのよ」
「ゴールデンサン出身……」
「そういうこと」
エディは初めてティオ達を見て、見下したように口の端を上げて笑った。
「ゴールデンサンに選ばれるということは、それだけ潜在能力を認められているということなのさ。勝ち組というわけだね」
勝ち組という言葉に、タケルはムッとして立ち上がった。
「なんだよそれ。シルバームーンに入った奴等は負け組とでもいうのかよ」
「無知は恥さ。学園の歴史がそう言っている。ま、名家出身でもない君たちなら当たり前だけれどね」
「あんだと!?」
「およしなさい」
いまにも殴りかかろうとしたタケルを、レイチェルがそっと前に出て引き留めた。
そして、キッとエディを睨み付ける。
「確かに歴史上の偉人達は太陽のクラス出身が多いわ。でも、月のクラスからも偉人が存在してること、忘れてるわけないわよね?」
「それはもちろん。でも……薬草学やったり、占い術やったりと、なんやパッとせえへん方々ばかりな気するえ?」
「そうだね。ま、とにかくさ。僕と桜は太陽のクラス。そしてレイチェル、君はそこの一般人の多い月のクラスに選ばれている。……父が聞いたらさぞ喜ぶだろうし、君の親は悲しむだろうね?」
「!」
レイチェルの肩が震える。
「……わたくしは、別に月クラスでも構わないわ。お父様達だって気にしないわよ」
「強がりを。太陽の方に選ばれる人間が優れているのは昔からだ。つまり、君は僕達より弱いということだよ」
「なんですって…!?」
「可哀想、レイチェル」
「っ…」
先ほどとは打ってかわり、レイチェルは唇を噛み締めて肩を震わせていた。
「どうしたの、レイチェル。どうしてそんなに気にしてるの?」
「そうだよ。クラスとか出身とか、関係ねーだろ?」
「……特別な生まれにいる人間にとっては、そういう訳にはいかないのさ。頭が固いからね」
「えっ?」
新しい声の主に、全員が顔を向けた。
エディ達の後ろに、にこやかに微笑む金髪の少年が立っている。レイチェルと一緒に居た少年だ。
「アリオス……あなた、一体どこへ?」
「知り合いの先輩に挨拶だよ。桜、龍臣、そしてエディ、通して」
「うわっ」
爽やかな言葉とは裏腹に、アリオスと呼ばれた金髪の少年は強引に間を抜けて、ティオ達の所にやってきた。
「アリオス、君はどちらのコンパートメントなんだい?」
「俺かい? 俺は右側だよ」
「ほう! ということは、レイチェルと同じかい」
アリオスの言葉に、エディはとても嬉しそうに嫌な笑みを浮かべた。
「そうか、それはまた、君も残念だったね! まあこれで、どちらが優勢なのかはっきりしたわけだ」
「ふふ、そうやねぇ。龍臣、学校についたら、このことお父様にすぐ知らせてや?」
「はい、お嬢様」
楽しそうにしているエディ達に、ティオ達は困惑し、レイチェルは悔しそうにしている。
だが、アリオスだけは余裕の表情を変えずにいた。
「まあ、好きに喜んでいなよ、エディ。俺や君がどのクラスになろうが、今の四大属性貴族の代表が、このレイチェルの家であることに変わりはないんだから」
「なに…?」
「そして、仮に潜在能力でクラスが振り分けられているという噂が本当だとしても、レイチェルにとってはなんのリスクでもないよ。俺たちの中で一番の努力家は彼女だからね」
「アリオス……」
そして、アリオスはさっとエディに人差し指を突きつけた。
「本当に君たちが有能ならば、行動で示すんだね。学校に入れば、成績という形で評価が出るのだから。……まあ、君達がレイチェルに勝ったところなんて、見たこともないけれどね」
「っ……!」
アリオスの言葉に、桜の後ろに控えていた少年、龍臣がすばやい動きでアリオスの前に立ちはだかった。その表情にはとてつもない怒りがこみ上げている。
しかしそれでも、アリオスは余裕綽々にしていた。
「……いいさ、アリオス。どれだけ言ったところで、君達が負け組と揶揄される月組であることは決定的だ。過ごしていくうちに、僕らが有能であることはすぐにわかるよ」
「次の代表はうちかエディのどちらか。楽しみやね。……さ、行くで、龍臣」
「……はい」
エディ達はキッとアリオスとレイチェルを睨み付けると、自分達のコンパートメントに戻って行った。