【コンパートメント】
ホームへ出ると、たくさんの子供達で溢れかえっていた。
「いてて! たく! なんつー人の数だよお! これ、オレら列車に乗れんのか!?」
ごったがえしている人混みに押されもみくちゃにされ、タケルがいらついたように叫ぶ。
ティオももみくちゃにされながら必死にタケルの後ろに着いていっていた。
「ねえねえタケル! よく見たら、ローブを来てる人と来てない人と別れてるみたいだよ!」
「えー? ほんとかよ!」
「うん!ほら!」
ティオは背伸びをして、列車の奥を指差した。
黒いローブを来た先輩たちの集団の奥に、自分達と同じように荷物を持った私服の子供達が集まっている。
「あそこに行けばいいんじゃないかな!」
「かもしんねぇ! 頑張るぞ、ティオ」
「うん!」
タケルとティオはお互いを見失わないように人混みを掻き分けて、自分たちと同じ集団の所へむかう。
だんだんと近づくに連れて、二人の耳に大人の声が飛び込んできた。
「新入生は一番先頭の車両に集まってください! 君たちが乗るべき車両は一番前です! 早く!」
やはり自分達が向かうべき場所はこちらで正解だったらしい。
ティオ達はより早足で声のする方へ向かう。
そうして近づいていくと、どうやら声の主らしい大人の姿が確認できた。
車両ドアの前で子供達のチケットを確認している緩やかなウェーブのロングヘアーの女性と、子供達に向けて声を掛けている髪をひとつに束ねた男性がいる。
どうやら先ほどの声の主はこの男性のようだ。
「新入生はこちらの車両だ! ドアの目の前に立つ先生にチケットを魅せて乗り込みなさい! 急いで!」
「チケットって、さっき駅員さんに見せたやつかな?」
「多分な。先生ってことは、あのおっさんも先生なのかな?」
「そうかもね!」
そんな話をしながら、車両まえの列にタケルと並ぶ。二人でチケットを用意しようとしていると、ふと目の前に並んでいる子供達の会話が耳に入ってきた。
「本当にいると思う?」
「さあね。火の無いところになんとやら、というけれど、しょせんは噂話だろ?」
「もちろんその程度の話よ。でも、本当に居るなら興味深いと思わなくて?」
「そりゃあね。自身はなんであれ、素晴らしい血筋には代わりないわけだから」
「ええ。もし本当にいるなら、是非競ってみたいわ」
「はは。相変わらずだね、君は」
タケル達の前に立っているのは、銀髪で長い髪を二つに結んだ少女と、美しい金髪の少年だ。
だが、他の子供や自分達よりもその出で立ちはとても高貴なものに見える。
世間知らずなティオでも、この二人がいい家柄の子であることは想像がついた。
(こんな人たちと、もしかしたら友達になれるのかもしれないんだ…)
そう思うと、ますます心が浮き立っていく。
そんなことを思いながら、列は進んでいき、やがてタケルとティオの番が回ってきた。
車両前に立っている女性がふんわりと微笑みかける。
「こんにちは。チケットを見せてもらってもいいかな?」
「はい!」
タケルとティオは同時に女性へチケットを渡した。
彼女はそれを受けとると、少しの間だけ眺めて、また二人にチケットを返した。
「うん、当学校が送ったチケットに間違いないね。タケル・マディソンくんと、ティオ・タンディランさん。ようこそベルガラント魔術学校へ。私は教師のひとり、ウルナです。君たちはここから左側の車両に乗ってね。空いてるところならどこでも座ってもらって構わないから」
「「は、はい!」」
ウルナと名乗った教師に促され、ティオとタケルは列車内に乗り込む。社内は通路と何部屋かのコンパートメント個室になっており、すでにたくさんの子供達が座っており、ティオとタケルはとりあえず通路を進み、やがて窓を眺めている二人の少女が座っている、比較的空いた個室を見つけた。
「こんにちは、私達もここに座っていい?」
「「いいよ!」」
「……わっ!?」
タケルが驚いた声をあげる。
ティオの声かけに応えた少女達は同じ顔をしていた。