【遺族孤児】
4号線に向かう途中、ティオはタケルとお互いの身の上を話し合っていた。
「へえ、ティオは孤児院出身なんだ」
「うん。生まれてすぐくらいのときに、シスターが経営してる教会孤児院に連れてもらったんだって」
「生まれてすぐってことは……あっ」
思い出すようにして、タケルは小さく声をあげる。そしてそのままばつが悪そうな顔をして、後頭部を軽く掻いた。
「ティオって、もしかして遺族孤児?」
恐る恐る尋ねるタケルにティオは苦笑した。
「一応は、そうなるかな。本当に生まれたばかりのときに、あの事件が起こったらしいから」
「そっか。オレはあの事件とはほぼ無縁のところで育ってるから、親共々あんまり現実感なくってさ。ごめん」
「いいよー! わたしだって本当に覚えてないんだから」
落ち込むタケルにティオは精一杯の笑顔を作って彼を励ました。
あの事件ーー10年前の、魔術師大量殺人事件。
有名な魔術師が錯乱かと、世界中の魔術師が震撼したという、とても恐ろしい事件。
あの事件で親を失った子供は少なくなく、子供達は国の支援のもと、遺族孤児という名前で保護を受ける。
ティオもまた、その子供のひとりであった。
親の顔を知らないこと、親を殺されていること、もちろんそれを思えば辛くて悲しい気持ちになるが、だからといって悲観的になるわけでもない。
「遺族孤児なんて呼ばれてるけど、わたしはそんな名前は似合わないくらい、シスターのもとで今まで楽しく暮らしてたんだ。皆が思うほど、わたしはかわいそうじゃないんだよ」
「前向きだな、おまえ。でも、いいと思うぜ、そういう考え方」
「へへ、ありがと」
そんな話をしているうちに、駅員から聞いた4号線の階段までたどり着いた。
すでに色んな子供達がホームに集まっているのが見える。
「ローブを来てる人と来てない人がいるね」
「多分先輩たちだろ。ローブ着てねぇのが、きっとタメってやつだ」
「タメってことは……同級生かぁ! へへへ、ますます楽しみだね、タケル!」
「だな! さ、行こうぜティオ!」
「うん!」
大きく頷くと、二人は駆けるように階段を降りて4号線ホームへと向かった。