【駅、いろんな人】
朝の時間帯ということもあり、忙しそうにローブの裾をはためかせながら人が行き交っている。
その様子を、シスターと別れ駅に入ったティオは、改めてそういった人の多さに茫然と眺めていた。
「……すごいなぁ。シスター以外の大人を見るのって、新鮮だよ」
孤児院で暮らしていたティオにとって、身近な大人はシスターのみだったこと、そしてシスター以外に居るのは同じ孤児院の子供たちだったこと、そして人が集まる駅という場所自体に面を喰らっていた。
とはいえ、いつまでも茫然としているわけにはいかない。
親元を離れる第一歩として、魔術学校に入学する新入生は、ひとりで魔法列車に乗り込まないといけない。
ティオはきょろきょろと辺りを見回して、時計を見つけた。
そしてポケットにしまっていた入学チケットを改めて見やる。
【ベルガラント魔術学校前行列車 4号】
生まれてこの方、列車に乗ったことのないティオにとって、何が書いてあるのかさっぱりわからない。
ただ、事前にシスターから、魔術学校へ行く路線はひとつしかないと聞いていたので、駅員に聞けば迷う事はないと教えられていた。
「……うん。とりあえず駅員さんに聞いてみよう」
チケットをポケットに片づけると、ティオは背負っているカバンをぎゅっとつかみ、歩き出した。
そうしてしばらく歩きながら、ティオはとある事に気が付いた。
(よく見たら、何人か私と同じくらいの人たちが歩いてるなぁ)
しかしそのうちの何人かは既に魔術師の証である「杖」と「漆黒のローブ」を着て歩いていた。
それはつまり、ティオよりも先に入学している「先輩」達ということだ。
(あの人たちについていったら、もしかしたらこの4号っていう場所にいけるのかな?)
とはいえ、魔術学校はひとつではない。
魔術学校は魔術訓練場ということもあって、陸から離された孤島に建てられている。
いまティオがいる「ベルーカ駅」は、主に4つの学園孤島に繋がっていると聞いているから、もし間違ってしまったら、その時点でティオの評価は大きく下がるだろう。
(やっぱりちゃんと駅員に聞いてみよう)
そうして駅員を探すティオの目に入ったのは、ティオと同じくらいの年齢の男の子が、駅員と何かを話している姿であった。
(もしかして、あの子も学校への列車を探してるのかも)
そう思いながら、ティオは二人の元へと近づいた。
「おや、君も新入生かい?」
ティオに気がついた駅員が優しい笑顔で迎える。
駅員に場所を聞いていたであろう男の子もティオの方を見た。
「あの、ここに行きたいんです」
ティオは駅員にチケットを見せると、駅員は少しだけ驚いた顔をして、今度は男の子の方を見た。
「偶然だね、君たち同じ学校に入学するんだ」
「「えっ?」」
駅員の言葉に、ティオと男の子はお互いに顔を見合わせる。
「ほら、君たちの行先はどちらもベルガラント魔術学校だよ」
「あ、ほんとだ」
「へぇ、おまえもベルガラントに入学するんだ」
男の子は笑ってティオに手を出しだした。
「すっげー偶然だな! オレ、タケル! よろしく」
人懐っこい笑顔に、ティオも同じく笑顔を作って彼の手を握った。
「ティオだよ。よろしくタケル!」
「おう!」
外にはねている茶色い前髪をゆらしながら、タケルは大きく頷いた。
「そんで駅員さん、この4号ってとこは、この改札ってとこに入ったら地下ってとこに行けばいいんだよね?」
「そうだよ。ベルガラント学校は地下線から出るからね。改札に入ったらずっと右に歩いていくと、4って書かれた立て札が見えてくる。すぐに降りる階段があるから、そのまま降りれば4号線だよ」
「右にあるいて、4の立て札だね。ありがとう、駅員さん!」
「いえいえ。入学おめでとう、魔術師見習いさん」
魔術師見習い。
その言葉が、ティオの心をほっと温める。
「うん、ありがとう!」
ティオとタケルは駅員にお礼を言って、改札の中へと入って行った。