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ティオの魔術師譚  作者: ぐれお
第一章【魔術学校へようこそ】
2/8

【魔術学校入学前】

魔術、それはこの世界に生きる人間にとっては、ごく当たり前の存在。


魔封石(まふうせき)と呼ばれる特殊な宝石を添えた杖を使い、空に術式を描く事で発生させることができる。

人々はその力を家事や仕事に利用しながら、日常生活を送っていた。

しかし、好き勝手に使うことは法律的に許されておらず、日常的に杖を持つことを許されるのは、魔術学校を卒業してからになる。

だから杖を所持することが許されていない子供達は、自分だけの杖を持って魔術を使えるようになる、魔術学校への入学をとても心待ちにしていた。


そしてそれは、ある教会孤児院で暮らしていた少女にも当てはまる事であった。



「シスター! 早く早く!」

「わかってますから、少し落ち着きなさいな、ティオ!」


がやがやと人が集まる駅の前で、大きな荷物を背負った少女が緑の大きな瞳を輝かせて、辺りを見回す。


「すごいねシスター! 人、人、人だよ!」

「駅にいるんだから当たり前です。……ほら、髪が乱れてますよ」


少女に追い付いたシスターレイは、肩で息をしながら、追い付いた少女、ティオの少し赤に寄った桃色の髪を優しく梳いた。


「明日からあなたは魔術師見習いになるのですから、もっとしゃんとしないといけないのですよ?」

「ごめんなさいシスター。でも、その見習いになれると思うと、もう心がワクワクしてしょうがないんだ」


ティオが、だって!と両手をあげる。


「魔術学校に入るんだよ! わたしもやっと杖を持てるの! こんなに嬉しい事はないよ!」


ティオはさも杖を持っているかのように、手をぎゅっぎゅっと握った。彼女の目には、可愛い色の魔封石が飾られた杖が映っている。

そんな様子に、シスターは苦笑した。


「そうね。確かに貴女達子供にとって、公の場で杖を持っても怒られなくなる事は、何よりも嬉しいことよね。でも、それは同時に、子供でなくなる一歩でもあるのよ」


シスターは屈み、ティオと目線をあわせた。


「魔術学校は全てが孤島に作られた全寮制。それはつまり、親元を離れるということ。ちゃんとしないといけないってことなのよ」

「うん、わかってるよシスター。わたし、ちゃんとやるよ」

「……ほんとうかしら。今のはしゃぎっぷりを見ていたら、少し心配になりますけどね。なにせ貴女はティオだもの」

「えええ!?」

「勝手に孤児院を抜け出してどこかへ言ったり、言い付けを守らずどこかへ消えて迷子になったり……その度に他の皆とあちこち探し回るはめになったこと、忘れたとは言わせませんよ」

「うう……」


数々の過去に、そして否定ができない自分に、肩を落とすティオ。しかも、今まさにシスターをおいて全力で駅まで来ていた。これではますます否定はできない。

しょんぼりするティオに、シスターは少しだけ吹き出すと、そっと彼女の頭を撫でた。


「勝手に孤児院を抜け出したのは、マリンの誕生日に花を摘むため。言い付けを守らなかったのは、幼い獣を助けようとしていた為。もちろんだからといって褒められる事ではないけれど、全て貴女の優しい心から来ている事だということも、理解していますよ」

「シスター……」

「親元を離れるということは、全て自分で考えて行動するってこと。同時に校律を守り、秩序を学ぶということ。それを経て、子供から見習いに、見習いから大人という魔術師になるの」


でも、とシスターは続ける。


「貴女のその優しい心は、きっと学校生活でとても大切なこと。誰かを思って行動する時は、迷いなく動きなさいね。それがティオなんだから」

「……うん! わかったよ、シスター」

「よろしい」


ぽんっとティオの肩を叩くと、シスターは立ち上がり、駅の入り口を指差した。


「さ、行きなさい、ティオ。私達大人が付き添えるのはここまで。学校へは、自分の足で向かわないといけないのよ」


シスターの言葉に、ティオは神妙にうなずく。

これから一年間、子供達は親元を離れて生活しなくてはならない。

その事実を受け入れ、覚悟をうながすために、親は最後まで付き添う事を禁じられていた。


「駅に入ったら、駅職員がいるはず。迷ったら、彼らに魔術学校への道を聞きなさいね」

「うん」

「それに、きっと同じ学校へ向かう子供達もいるはず。彼らを見つけることも忘れないで」

「うん」

「……それから……とにかく、お友達を作りなさいね。ティオのことだから、心配することもないかもしれない、けど……」

「シスター……」

「……っ」


シスターはきゅっとティオを抱き締めた。

これから一年、明るく元気なティオの姿を見られなくなって、寂しさを感じているのは、長年親代わりを務めてきたシスターとて同じだった。


「一年後、会えるのを楽しみにしているからね、ティオ」

「うん、わたしもだよシスター。孤児院のみんなにも、そう言っててね」

「もちろんよ」


二人は微笑みあい、やがてティオの方からシスターから離れた。

そしてくるりと振り向き、改めて駅を見上げる。

今は後ろにシスターがいる。しかし、今から誰も知らない人だかりのこの駅のなかに入らないといけない。


(緊張もしてる。でも、大丈夫。それ以上に、ドキドキとワクワクが止まらない!)


きゅっと胸の前で握りこぶしを作ると、そのまま腕を空へとあげた。

そして顔をシスターに向けて、ニッコリと笑顔を見せた。


「行ってきます、シスター!」


そうしてティオは、駅へと駆け出した。

ティオの魔術学校での生活の幕開けであった。

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