ビギナーズラック
藍那さんのなでなでを頂いたあと、恥ずかしさからベンチを離れた俺たちは、別館に続く道を人の流れに乗って歩いていた。
まだ空には厚い雲がかかっているものの雨は止んでいて、あとで連れて行きたい場所のことを考えると少し安心する。
本当は晴れていて欲しかったけど、坂瀬河さんの頼みを聞いて今日見せたいと思ったのだから、仕方がない。
藍那さんはと言うと、さっきまでの機嫌が嘘のようにすっかり元通りだ。まぁ、元がわかりにくい子だから、怒ってはいないとだけしか言えないけど。
「歩、あそこは?」
その藍那さんが立ち止まって指差したのは、ゲームセンターだった。
規模はそこそこで、入り口付近にはUFOキャッチャーが並べられている。あれに興味を持ったのだろうか?
「行ってみる?」
「うん」
店内に入ると、様々なゲームがところ狭しと置かれている。
俺もゲームセンターにくるのは久しぶりだ。嫌いなわけじゃないけど、近寄り難い感はある。ほら、一人でくるとか寂しいじゃん?……一人前提がもう寂しい。
「これ、どうやるの?」
なんて一人考えていると、藍那さんがそう聞いてきた。彼女が見ているのは、小さめのUFOキャッチャー。景品は人形だ。
「これは、このボタンであそこにあるクレーンを動かして、下の景品を取るんだよ。やってみる?」
「うん」
機械に百円玉を投入すると、ピロンと音がなって軽快な音楽が流れ出した。「もういいよ」と藍那さんに声をかけ、一歩下がってその様子を見守る。
無表情のままボタンを一回押す藍那さん、クレーンが少しだけ動くと、すぐに止まった。
「あ、ボタンは長押しするんだ」
「こう?」
そう言うと次は、ボタンを押しっぱなしにしてクレーンが限界まで進む。
「ごめん、説明不足だった……」
アームの降りる音を聞きながら、藍那さんに謝罪。でも藍那さんは、俺を無視してアームの行方を目で追っている。ちゃんと説明してあげればよかったな。
「取れた」
「えっ!?」
UFOキャッチャーの方に目を戻すと、確かにアームはがっちりと人形を掴んでいた。
けど、安心するのはまだ早い。あいつらは掴んだものを簡単に落とす「握力どないなってんねん」とツッコミを入れたくなるほど握力がない。まじで。
『おめでとう〜、やる〜』
けど今回は、景品を離すことなく出口まで持ってきた。機械から祝福の音声が流れると、しゃがんで景品を取り出す藍那さん。
「もふもふ」
「気持ちいい?」
「うん、歩もやる?」
「いいよ、藍那さんのだし」
「じゃあ、もう一個取る」
どうやらUFOキャッチャーをお気に召したようだ。簡単に取れるものではないけど、俺のために取ってくれると言うのだから、やらせてあげよう。
同じ機械にお金を入れて、その様子をまた見守る。表情にはあまりでないけど、少しは楽しんでくれていると思ってもいいのかもしれない。
「取れた」
「え……」
「はい、もふもふ」
「あ、ありがとう」
俺は心の中で、今度やり方を教えてもらおうと思いました。
読んでいただきありがとうございます!




