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結構長い時間が過ぎたと思ったけど、お茶の湯気が消えていないのを見るとそうでもないようだ。
ダメだ……急なことで頭がついていってない。
藍那さんが十八歳になったら、会えなくなる……どういうこと?
「順を追って説明しますね。まず、お嬢様が日本に住むにあたって色々な条件がご主人様から提示されました」
「……」
「一つは、芦屋様が通う学校に転入すること」
「え……? 先生からは、藍那さんがこの学校がいいって言ってたと聞いたんですけど」
「それは、ご主人様がそう言ったのでしょう。どちらにせよ私はこの学校で良かったと思ってますよ」
坂瀬河さんはその後も、条件とやらを話してくれた。
監視をつける、学校以外外出は禁止、他人と関わらない、そして、日本にいられるのは一年だけ。
心苦しそう話す坂瀬河も、そんな条件をつけられてまでここにきた藍那さんも可哀想だと俺は思った。
「その、藍那さんはなんなんですか? 監視をつけるほど危険なんですか? 外出してはいけないほど危険なんですか? 他人と関わりを持ってはいけないほど危険なんですか?」
いや、違う。答えはわかっている。そんな子じゃない。
まだ一ヶ月、あの子と出会ってから、過ごした時間はたったこれだけだ。知らないことはまだまだあると思う。だけど、知ったことだって少なからずあるのだ。藍那桃花は普通の女の子、どこにだっている普通の女の子だろ。
「逆です。桃花お嬢様に危険が及ばないため、あらゆるものをお嬢様から遠ざけているんです」
「なんでそんなことする必要が?」
「お嬢様は『特別』な存在、汚されてはいけない唯一無二の存在。藍那桃花は、そういう人間です」
「特別な人間……?」
だから、全てを制限するのか?そんなの人にしていいことじゃない。
彼女は、藍那さんは『物』じゃないぞ。
「芦屋様、ご安心下さい」
「え?」
「確かにお嬢様は、特別な扱いをされてますが、昔よりだいぶマシになった方ですよ。なんといいますか……、ご主人様は度を過ぎた過保護なのです」
「んん? なんかシリアス展開になる感じだったと思うんですけど」
「それは、芦屋様の早とちりですよ。ご主人様も、やり過ぎたと反省しておりますので」
「なんだ……、早とちりか……。え、じゃあ、会えなくなるって言うのは?」
「それは、本当です。お嬢様は、世界各国のプロジェクトに関わる重要人物。とても、お忙しいのです」
うわぁ、話が急に大きくなった。藍那さん、いったい何者なんだよ……。
でも安心しろと言われてもな。一年後、さよならをしなければならないのは確定しているのか。
「はぁ……。坂瀬河さんほんと意地悪ですね」
「私がこんなことするのは芦屋様だけですよ」
「余計たちが悪い!?」
てっきり「お嬢様を助けて下さい」みたいな流れになると思っていた。そう考えると、俺めっちゃ恥ずかしいな。中二病全開だ。
「ふぅ、それではそろそろ今日の本題に入ります」
「まだ本題でも無かったんですね……」
そんな俺のつぶやきを無視して、坂瀬河さんは続けた。
「芦屋様、お嬢様に色々な事を教えてあげて下さい。残り一年で、与えられるものを全て与えて欲しいのです。そのためにお嬢様はここにきたのです」
それは、ふざけているわけでも、からかっている様子でもなく、ただ真剣で、誰よりもあの子のことを思っていると感じられるくらい、優しい頼みだった。
俺は、藍那さんと坂瀬河さんがどんな思いで日本にきたのか知らない。
ここにきたのはたまたまで、出会ったのもたまたま。けど、それには意味があるに違いない。藍那さんや、坂瀬河さんが俺に頼んでくれるのなら、断る理由なんてどこにもない。
「残り一年、藍那さんのお世話は俺に任せて下さい」
きっとお世話係になったのも、意味があることなのだ。
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