メイドの心得
次の日の午後。
文化祭の準備もいよいよ大詰め。今日から三日間は、学校での宿泊が許可され、授業も準備の時間に割かれるようになった。
俺たちのクラスの準備も順調に進み、外装や席の並びはほぼ完成に近くなっていき、あとは当日のシフトや食料の調達、調理器具等の手配が終わればほとんどやることはないという。
「昨日のことが嘘のようですね」
「そ、そうですか……?」
「はい」
そんなクラスの進行とは別に、みんなの邪魔にならないよう教室の隅で水景さんとマンツーマンで指導を受けていた俺。
昨日発案した「妹だと思えばいい」作戦は見事に成功し、なんとか合格点をもらうことができた。
きっちりと燕尾服を着た水景さんだが、俺の頭の中では澄ました顔の七海と化している。怖くもなければ、緊張もしない。
「それでは、次は私ではなく、湖春を相手にやってもらいましょう」
服を正しながら席を立つと、坂瀬川さんを呼ぶ水景さん。制服を着ているので完全に周りに溶け込んでいる。
藍那さんを離れたところで見守っていた坂瀬川さんと水景さんは、入れ替わるように場所を交代し「では、お願いします」と言いながら、坂瀬川さんは椅子に腰かけた。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
ここでも作戦を発動し、目の前の坂瀬川さんは巨乳な七海に大変身。妹なのでなんの魅力も感じないぞ!
「お待ちください」
「え……」
が、接客練習を開始した瞬間、何かを見透かしたように待ったをかける坂瀬川さん。
「ふふ、面白いですね」
「……あはは」
彼女に嘘は通じない。誤魔化しても無駄なことは、わかりきっている。
けれど、俺はこの作戦を悪いことだとは思わない。……いや、七海にはあとでちゃんと謝っといた方がいいかもな。
と、とりあえず辞退を避けるための作戦なのだから、これは仕方ない。
「ですが、それではダメです。やらされている接客は、お客様が一番感じます」
「で、でも……」
「すいませんが、これだけは譲れません。メイドの名にかけても!心です!心で接客するのです!」
水景さんと坂瀬川さんの、教育方針の統一を願う。
「お見せするしかありませんね!洲咲様!ちょっとこちらへ!」
「「えっ!?」」
これはやばい。何がやばいって、マジでやばい。
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