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シスコンかもしれない

坂瀬河さんの『楽しみ』も怖いが、今日はそれ以上に怖いものがある。


「はぁ……」


自宅前で大きなため息を吐く男子高校生。

おそらくこの時間なので母も妹もまだ帰ってしてはいないだろう。でも、帰ってきたらまた、朝のように文句を言われたりするんだろうな……。

とりあえず着替えを済ませ、リビングのソファでぽちぽちとスマホのニュースアプリを見ていると、気になる記事を発見。

その内容は、以前藍那さんとデートをしたあのショッピングモールに、新しくドーナツ屋さんができたというニュースだった。

ここまで大きく取り上げられるのは、全国でまだ三店舗しかないという物珍しさからだと思う。


「今日からか……」


時間を確認して、数秒考える。

朝はまぁ……俺が悪いしな……。


「行くかっ!!」


いざ、初一人ショッピングモール!!



平日ということもあり、人の数はそれほど多くない。しかし放課後のため、色々な学校の制服を着た子達がちらほらと確認できた。


「私服できてよかったわ」


そのほとんどが友達連れだ。一人、制服できてたら間違いなく浮いていたな。

目的のドーナツ屋さんは、ショッピングモールの奥のエリアにあるらしく、着いてからも割と歩かされた。そのお店に近づくにつれてだんだんと人が増えてきたように思える。


「最後尾はこちらでーす!!」


声のする方に目を向けると、そこには信じられないほど長い列が。しかも、そのほとんどが女性や女子高生。ここに男一人でならぶのか……。

いや、ここは我慢だ!そう気合を入れて俺は、列の最後尾に並んだのだった。


「こ、ここですねっ!」


その数秒後、見慣れた制服の女の子が、おどおどしながら俺の後ろに並んだ。

七海と同じ制服。もう下校の時間なのかな?まぁでも、七海は部活やってるし、まだ帰ってないだろう。


一時間半後──


「ただいま完売いたしましたー!!」


俺のお会計が済むと、女性店員さんがそう大声を上げた。

どうやら、ギリギリ買えたみたいだ。一応、俺と母と妹の分を買ったので、全部で三つ。むしろ、一時間半も並んで三つしか買えなかった。やっぱり開店初日ってのが大きかったかな。


「え……そ、そんなぁ……」

「申し訳ございませんっ!」


俺の後ろに並んだ子は、他の誰よりもショックを受けている。そりゃ、目の前で売り切れとか言われたら仕方ない。後数秒遅ければ俺がああなっていたわけだし。


「……っ」

「あー……はは」


そんな様子を見ていたら目が合ってしまった。めちゃめちゃ落ち込んでんな……。どうしよ、うーん……。

並んでた人はだんだんと減っていき、店員さんもお店の片付けを始めている。

俺は決心して、トボトボと歩き出したその少女に声をかけた。


「あ、えーと、君」

「……はい?」

「一つあげようか?」

「っ!!ほ、本当ですか!?あ、いや、悪いですよー……」


一瞬目を輝かせたと思ったら、腰を引かせてものすごい勢いで両手を振っている。けれど、ドーナツの袋から目は離さない。


「良いんだ。今日ちょっと悪いことしたから、良いことをしようと思って」

「え、えーと、何をしたんですか?」

「人の部屋に勝手に入っちゃって……怒られた」

「どっかで聞いたことあるような……」


うーんと唸り、ボソッと何かを呟いた女の子。

なんでこの子に話してしまったのかはわらかないけど、可愛らしい袋に入ったドーナツを一つ、彼女に差し出す。


「はい」

「ほ、本当にいいんですか……?」

「うん」


二つあればなんとか大丈夫だし。


「あ、ありがとうございますっ!あ、お、お金」

「いいよいいよ。お金とったら良いことにはならないと思うし」

「で、でもっ」

「じゃ、急いでるから、ありがとう」


このままじゃ、永遠と譲り合いになると思い、さっさとその場から立ち去った。


七海は、さっきの子のように喜んでくれるだろうか。そんなことを思いながら、帰りの電車に揺られていた。



読んでいただきありがとうございます!

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