episode ayumu firstchapter
それは、まだ俺が小学生の頃──。
「今日は、前回やったテストの返却をしまーす」
授業が始まると、黒板の前に立つ先生が明るい声でそう言い放った。
それを聞いた周りの生徒たちは不満げな声を漏らしながらも、皆そわそわしているように思える。
「じゃあ名前の順で順番に取りにきてください。最初は……芦屋くん」
「はい」
窓際の一番前の席に座っていた僕は、小さく返事をしてテストを受け取りに行った。
「おめでとう!満点よ」
受け取ったテストには数字の100と、大きな花まる。
ふぅ……今回も100点が取れた。そんな安心と、母の喜んでくれる顔がふと思い浮かぶ。
大事に畳んだテストをファイルにしまい、他の子たちの返却を待っていると、テストを持った隣の女の子が僕に話しかけてきた。
「芦屋くんすごいね。また100点」
「い、いやいや、ふ、普通だよ」
「私なんていっつも、一個間違えちゃうから」
この子は、衣生実咲さん。彼女の印象は、可愛くて友達の多い子といったところだろうか。男女隔てなく接してくれるので、クラスで影の薄い僕にも、こうやって話しかけてくれる。
……実のところ、僕は衣生さんのことが好きだ。
普通に考えてほしいんだけど、優しくしてくれる女の子とか好きにならない?なるよね?
まぁ、僕も単純な男の子だからさ……なるのよ、好きに。
「美咲ちゃん、どうだった?」
「衣生ー、何点?」
でも、さっきも言った通り彼女には友達が多い。きっと、彼女の中で僕はそのうちの一人でしかない。いや、友達だと思ってるかも危ういんいだよな……。
だから、この気持ちを伝えるとか、伝えないとか、そういう次元に僕はいない。
ただ、この子と話せるだけでなんだか嬉しくなるだけなんだ。
「さて、みんな静かにー。復習していきますよー」
「「「はーい」」」
気がつけばテストの返却は終わっていて、彼女の周りにいた子たちも席に戻っていく。
「……ん?なに?」
「え、いや、なんでも……」
どうやら、僕と彼女の会話も終了していたようだ。
そのまま、視線を窓の外に移した僕。
そういえばもうすぐ夏休みだ。今年は去年みたいにどこか、旅行に行くのだろうか。
そんなことを考えながら、黒板とチョークの擦れる音を聞き流していた。
読んでいただきありがとうございます!
今日から歩の過去編を投稿していきます。
ずっと前からチラつかせていた歩の過去……。その過去がやっと明らかに!
投稿は毎朝8時に!(最近休み気味)
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