灯り
何も聞こえない、何も見えない部屋。いるのは私だけ。
どうやら日はもう、沈んでしまったみたい。
日本にきてから日が経つのは、こんなにも早いんだと思っていたのに、最近は1日が長くて長くて仕方ない。
「……(ぐぅ〜」
静寂を破ったのは、私のお腹。音はなるけれど、お腹はそんなに空いていない。
ただ座ってぼーっとしていた私は、今日のことを思い返していた。
くるみが引いてくれた手。ぷにぷにして、柔らかくて、安心した。ずっと暗かった私の世界に、少しだけ灯りが灯った気がして。
あの日もそうだった。何も知らなかった私の手を引いてくれたのは、小さくて温かい、歩の手。
『冷たいなぁ』
こんなことを言いながらも、歩の手が私の手を離すことはなかった。
その日からだ、私の世界が灯りに満ちたのは。見えなかった景色が、聞こえなかった音が次々に目に、耳に、飛び込んでくる。
最後にお母さんが言ってたことを理解させてくれたのは、歩だった。
「なのに、どうして……」
いなくなるの?離れていくの?
1人は寂しい。1人は寒い。1人じゃ、何もできない。
と、部屋の外から足音が聞こえてくる。この家には私と水景しかいないから、誰の足音かは確認しないでもわかる。
「お嬢様、お夕食の時間です」
「……うん」
ふらふらと立ち上がった私に、水景は手を貸してくれた。
どうしたんだろう。今まで、こんなことなかったのに。
私が黙ってその手を取ると、水景は部屋を見て質問を投げかけてくる。
「どうしてお嬢様は、日本に?」
理由はたくさんある。母や父、湖春の生まれた場所だから。私の名前の花を見てみたかったから。
そして、歩がいるから。
「……」
「いえ、なんでもありません。忘れてください」
何も言わなかった私に、珍しく弱気になった水景。今日の彼女はどこか変だ。
「……水景。温かい?」
「……手ですか?いえ、冷たいですが」
「そう……」
歩やくるみがやってくれたことは、こんなに難しいんだと理解した。
人の前を歩くことは、世界に灯りを灯すことは、私にはできそうにない。
読んでいただきありがとうございます!
昨日は休んですいません。




