送り迎え
「でけぇ」
あのあとすぐ「あ、これ渡し忘れてた」と先生から受け取ったのは、藍那さんの制服の予備と住所が記された紙だった。
それ以上何も言われなかったし、藍那さんが俺のそばから離れないのを見ると「家に送れ」ってことかと思い、受け取った住所を元に彼女の家までやってきたのだが……。家がでかい、すごくでかい。
和風テイストのお屋敷。木製の門から続く石畳の道、その先にやっとある玄関は少し遠い。
そして綺麗に手入れされた庭。池には、ししおどしがあって鯉まで泳いでいる。
住所はあってるし、表札にも「藍那」と達筆な字で書かれているので彼女の家で間違いない。
まぁ何と言うか、薄々思ってたけどお金持ちだった。
「これ、制服」
「重い」
持ってないじゃん……。せめて一瞬だけでも持ってから言おうよ。
俺の後ろをついて歩いてきていた藍那さんは、自分の家に着いたというのに入ろうとしない。
勝手に入っていいのだろうか……。急に怖い犬とか出てこないだろうな。そんなことを思いながら俺は門をくぐった。
「お邪魔します」
門を抜け石畳を進んでいく。カコンッと響くししおどしに驚いたけど、なんとか玄関までたどり着いた。
「じゃあ、これで」
「また明日。待ってる」
待ってる?
「待ってるってどう言う……」
「朝も迎えにくる?」
「えぇ」
「ダメ?」
それはずるいっすよ。
次の日の朝、いつもより早く家を出た俺は藍那さんの家に向かった。
「おはよう」
「おはよう」
すでに門の前で待っていた藍那さん。荷物も何も持ってないけど大丈夫なのだろうか。
学校に着くと先生が藍那さんをを引き取り、俺は一人教室に向かう。
「先生にちゃんと聞かないとな」
昨日、今日の流れでこうなったけど、これはどうにかしないといけない。
そんなことを考えているせいで俺は、教室のいつもと違う空気に気づかなかった。
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