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荷物を詰め込んでも、十分広さのある車内。ボックスカーよりは大きく、マイクロバスよりは少し小さいくらいだろうか。席の並びは、バスのような感じだ。


「兄さんの隣がいいです!」


そんなことを言いながら車に乗り込む七海。あの短時間で平福さんと仲よさげに話しているのが恐ろしい。

と、七海と平福さんのコミュ力に恐怖を覚えたところで、不意に後ろから袖を引っ張られる。けれど、その力は限りなく弱く、どこか遠慮気味だった。でも、その割に気づいて欲しそうで、二回ほど左右に袖を揺らす。

久しぶりだな……この感じ。後ろを振り向かなくても誰かなんてわかる。


「おはよう、藍那さん」

「歩、おはよ」


予想どおり袖を引いたのは藍那さん。

真白なワンピースを着て、頭には麦わら帽子。白く細い腕が丸見えで、とても涼しそうだ。


「……」

「……ん?」


袖をつかんだ左手はそのままで、さらに力なく左右に揺らしてくる藍那さん。

どうしていいかわからない状態が数秒続くと、藍那さんが「……なんでもない」と言って袖を離した。

どうしたんだろうか。俺はいったい、どうすればよかったんだろう。


「お嬢様、歩様。お暑いので、長田様がこられるまで車内で待ちましょう」

「あ、はい!」

「……送ったのに」

「え?」


車の前で俺と藍那さんを呼ぶ坂瀬河さん。その声と藍那さんの声がちょうど重なってしまい、何を言っているのかよく聞き取れなかった。

聞き返すこともできず、ゆっくりと車に向かう藍那さんの後ろを、俺はついていく。

こうやって、俺の前に藍那さんがいるなんてこと、今までなかったから少し新鮮。いつもは隣か、ちょっと後ろを歩いてたから。

藍那さんに続いて車に乗ろうとしたら坂瀬河さんが「服ですよ」と小声で俺に言ってきた。

あ、それを待ってたのかあの数秒……。やらかしたわ……。


「兄さん兄さん!ななのここ空いてますよ!」


ちょっと落ち込んだ俺のことを知らない妹は、ハイテンションのまま空いた隣の席をバシバシ叩いている。一瞬、ピンクのベストを着た芸人さんが頭をよぎったが、今は全然関係ない。トゥースって感じ。


「あ、ぁ……」


呼ばれたからには妹の隣に座るのが普通なんだろうけど……違う圧力が二つほど……。

一つは、洲咲さん。完全に目が合うわけじゃないけど、こっちをチラチラとすごい頻度で見てくる。さりげなく、隣の席をポンポン叩いてるし。

そしてもう一つは、藍那さん。ガン見。こっちガン見。無表情なのがなんか怖い。

あ、うん、どうしようかな……。席はまだ空いてるし、一人で座った方が……。


「ちょっと兄さん、一人で……」

「えぇ!?ななと一緒に座るって言ったじゃないですか!?」

「言ってないよな……」


俺の妹よく記憶をねつ造するんだけど。ラノベ風タイトルすると、俺の妹がよく記憶をねつ造する件についてだな。……多分誰も読まない。


「そ、そう……」

「……(プイッ)」


そして七海とは違った反応を見せた洲咲さんと藍那さん。これはまた何か間違ったかも……。


「すまん歩!少し遅れた!一緒に座ろうぜ」

「……もうちょっと早くきて」

「あ、お、おう。すまん」


ちょっと息を切らしている友人に、短時間で二回も謝らせてしまった。さっきのは俺の願望が混ざってましたね。


こうして俺は、数ある選択肢の中から一番「楽」なものを選んでしまったのだった。


「さすがわかってるね!」


ただ、一人の女の子には好評でした。


読んでいただきありがとうございます(^。^)


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