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帰りましょう

「お嬢様、お疲れ様です」

「ん……」


ゆらゆらと長い廊下を歩く、藍那桃花お嬢様。その後ろを私、坂瀬河湖春がついていく。

場所はとある会社の最上階。さっきまでお嬢様は、会議に参加していました。

発言することや、質問されることは決してないけれど、お嬢様がその内容を把握していればなにも問題はありません。

お嬢様が知っている、それが一番大事なのです。


「湖春、お腹すいた」

「はいお嬢様、すでにご飯の準備はできております。別荘におかえりになればすぐ、食べられますよ」


エレベータに乗り、一番下の階へと降りていく。足取りを見る限りすでに体力の限界なのがわかる。

久しぶりの会議参加。色々心配はしていたけれどこの二週間よく耐えてくれました。

一日休んだら、早く日本に帰りましょう。車に乗り込むお嬢様の背中を見ながらそんなことを思う。


「坂瀬河くん」

「ご、ご主人様!?」

「そんな、驚かなくてもいいだろ……」

「も、申し訳ございません。すでに、次の場所へ向かったと思っていたものですから」

「まぁ、すぐ出るよ。娘の顔を一目だけでも見ておこうと思ってね」


この方が、藍那グループ取締役、そして桃花お嬢様の父である、藍那(あいな)陸斗(りくと)様。

年の方はまだ40代前半。若くして先代から会社を引き継ぎ、その類稀なる才能を駆使して、世界のあらゆる事業に関わりを持ち、その全てで成功を収めている、まさに天才と呼ぶべき人。

私が小さい頃、道を案内したおじさんがこの人だ。


「お嬢様……、寝ていらっしゃいますね」

「一足遅かったか。それとも、わかってたのかな」

「私には、なんとも」


車の後部座席に座るお嬢様は、目を閉じ、すぅーと寝息を立てていた。疲れからか、それともわざとなのか。ただわかっていることは、お嬢様が自分の父と話す気がないということだ。


「日本の生活はどうだい?」

「私は、とても充実していると思いますよ。お嬢様の変化も目に見えてますし」

「そうか……それは、よかった」


そっと微笑むご主人様。こんな表情は桃花お嬢様のことでしか見せないだろう。実の娘、唯一の肉親、あの人が残した最後の宝物。


「それじゃ、娘のことこれからもお願いするよ」

「はい。ご主人様も、体には気をつけてください」

「わかっているよ。あと、芦屋歩くんにもよろしく言っといてくれ」

「かしこまりました」


ご主人様は、ひらひらと背中越しに手を振ると付き人と共に、とめられていたもう一台の車に乗り込んだ。

エンジン音を響かせ駐車場を出ていく。私も、車の助手席に乗り、駐車場を後にした。


「もう、名前くらい呼んであげてもよろしいのではないですか」


私は一人、そう呟く。

お嬢様と同じくらい、ご主人様も悩み、傷ついたではないですか。もう、いいんじゃないですか。


「歩……」

「早く、帰りましょう。お嬢様」


寝言なんて、可愛いですね。

そうだ、お土産も買っていきましょう。私もお礼がまだでしたしね。


読んでいただきありがとうございます(^。^)

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