その頼み方はずるい
放課後、担任の先生に呼ばれ職員室にやってきた俺は、見知らぬ女子生徒と二人で並び立っていた。
「今日からお世話、よろしく頼みますね」
「は?」
そう言い渡したのは、担任の朝霧菜月。二十代後半の女の先生だ。
お世話? 誰が? 何を? 頭にはてなを浮かべるだけの俺にこほんと咳払いを一つした先生が続ける。
「彼女のお世話を、芦屋君が」
にっこり笑顔の表情を一切変えず、言い切る先生。彼女と言うのは勿論、俺のすぐ隣にいるこの子のことだ。
「お願い」
俺よりも背が低く、上目遣いで俺見つめている。綺麗な声色でそう言いながら、袖を軽く引っ張られ、ドキッと心臓が脈打つのがわかった。
ショートカットで、眠たげな目、長いまつ毛に特徴的な泣きぼくろ。無表情で首をかしげる彼女は、狙っているのかそれとも無自覚なのか、とにかく可愛いかった。
「ダメ?」
「わ、わかりました……」
何だこの生物は……可愛すぎるんですけど。
「決定ね! じゃあよろしく、芦屋君」
決して表情を変えない先生に、恐怖を覚えながも俺と彼女は職員室を後にした。
こうして、芦屋歩は、何もわからないまま、この可愛い生物、藍那桃花のお世話係に任命されたのである。
「え、このまま帰るの?」
そう、本当に何もわからないまま……。
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