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 十人のなかで剣の腕において一位二位を争うであろう二人が地面に這いつくばっている頃、拠点では、ナギとカルミアの手伝いもあって、寝床作りが終了していた。今はまだ、昨晩布団代わりにした大きな葉っぱを敷いているだけだが、それでも寝心地は格段にいい。彼らがベッドで横になっている姿を今のフェイジョアとカンナが見ればどれほど羨むだろうか。

「あとは草を敷き詰めれば完成だな」ローレルが仰向けになったまま言う。

「このままでも十分なくらいです」というのはミナだ。

「眠い」とホオズキ。カルミアはクスクスと笑い、ナギは人知れず小さく頷いた。

「さてと」とローレルが身体を起こす。「草刈りに出掛けよう。カルミアとホオズキは消毒用の熱湯を用意しといてくれないか。虫や卵がついていたら大惨事だからな」

 ローレルに続いて身体を起こした四人のうち、ミナとカルミアの顔が真っ青になった。その場面を想像してしまったのだろう。熱湯の用意が済んだら昨晩使った草を消毒するように言ってから拠点を出る。

 短いやりとりで、ローレルとナギが草刈り、ミナが運搬役となった。ミナは二人ほど刃物に慣れていないため役割分担に異存はなかったが、どうしても先程ローレルが口にした言葉が頭をよぎり、手を使う気にはなれなかったため、木材を運ぶときは使わなかった操作魔法で草の山を拠点内へ運ぶことにした。

 一陣目を運びいれると、ちょうど熱湯の用意が出来たところだった。勢いの強い焚き火の上で、直径一メートルほどの水の固まりが沸騰によりボコボコと泡立ち、形状を不安定に変化させながら浮いている。操作魔法を使っているのはホオズキらしく、水に手をかざして、ピアノを弾くように指を動かしていた。液体の操作はなかなか難度が高いためそうなってしまうのか、それとも退屈からの行動なのかミナには判断がつかなかった。草の山を操作して熱湯の中へいれ、しばらく放置して取り出す。びしょびしょに濡れた草の山に向けて、カルミアが風の魔法を使う。焚き火の熱が加わってほどよい熱風となり、草はあっという間に乾いた。それを寝床の上に置き、また外へ。すると、洞窟の周囲に生えていた草は一本残らず根本付近から切り取られており、遠くに小さく見える二人への道標のように草の山が一本道を作っている。もうこれだけで十分なんじゃないかと思える量であったが、足りなかったときのことを考え、もう少し頑張ってもらうことにした。草を集めて宙に浮かす。一個体でないものは気を抜くと宙でバラバラになってしまうため、操作にはなかなか気を使った。おそらく、手で抱えていくのと、それほど時間も労力も変わらないだろう。それを考えると魔力の無駄遣いをしているようで気が咎めたが、ローレルの言葉を思い出すと、やり方を変える気にはやっぱりなれなかった。

 拠点内ではカルミアが操作魔法を使い、昨晩寝床にした葉っぱや草を消毒していた。ただし、ミナほど操作が上手でない彼女が一度に動かせる草の量はせいぜい一束ほどであり、必然的に同じ動作を何度も繰り返すこととなっていた。

「それにしても、九大貴族の人達、聞いていたよりずっと仲が良いね」笑みを浮かべながら言うカルミアに、ホオズキは「そんなことない」と即座に否定する。「試験だから協力関係を築けてるだけ。寝首を掻いてやろうとまでは考えてないだろうけど、誰もが隙あらば能力を確かめたいと気を張ってる」

「そうなの?」問いながら、熱湯から草の束を出す。

「そう」と肯定しながら、ホオズキは空いている左手を草の束に向けて、風の魔法を発動させた。「ローレルがリーダーになったのだって――確かにジンの言ったことは間違ってなかったけど、それ以上に、彼を目立つ立場にすることによってあわよくば『眼』について探りたいっていう気持ちがあったと思う。デルフィニウムとかディモルフォセカはあの性格だし、そんな遠回りせずに手合わせでも申し込んでるかもしれないけど」

「えぇ。喧嘩はやだなぁ」

「喧嘩じゃない。試合みたいなもの。まぁ、あの二人同士なら口喧嘩から斬り合いに発展してもおかしくなさそう。もしかしたら今頃斬りあってるかも」

 さらっと言ったホオズキに、カルミアは心配そうに眉尻を下げる。そこへ、ミナが新たな草の山を持ってきた。熱湯の中に草の山を入れて、しばらく待機。彼女の目はホオズキに向けられた。

「ホオズキさんは、カルミアさんと話すときは少し雰囲気が変わるんですね」ミナは笑みを浮かべて言う。二人の会話をすべて聞いていたわけではなく、せいぜい最後の一言二言だったが、それでもその印象を強く抱いた。

「そんなことはない」とホオズキが首を横に振る。しかし、絶えず動いていた右手の指が止まったことからミナは動揺を悟り、照れているのだろうと微笑ましく思った。

「カルミアさんもホオズキさんが相手だと話しやすそうですし、他の人にもそんな風に接してもいいと思いますよ」

「でも九大貴族の人達ですし、ジンさんなんて王子様ですし……」

 自分も九大貴族だ、と言いたげにカルミアを見るホオズキだったが、彼女がそれに気づく様子はなかった。

「この場では全員が対等だと学院長先生もローレルさんも言っていましたし」

 笑みを向けられたカルミアは萎縮しながらもたまに視線を返し、そして最終的に「善処します」と言ったのだった。

「というかミナも他人行儀な口調だ」とホオズキが言ったが、ミナは「これは口癖みたいなものですから」と笑みを浮かべた。

 その後、すぐにローレルとナギが運搬役となり、ミナとカルミアは消毒の作業に専念することとなった。先程のように左右の手で別々の魔法を使ったホオズキにミナが感嘆の声を上げて、今度こそ照れたのか、ホオズキは軽く俯いてしまった。そんな様子を見ていたローレルがふと口を開く。

「確かに違う魔法を同時に使うのは難しいって聞いたことがあるな。ミナやカルミアはできないのか?」

 先に答えたのはミナだった。

「簡単な魔法とか、得意な系統の魔法なら出来ますけど、ホオズキさんと同じことは出来ませんね。液体の操作は難しいですから」

「私も出来ませ――えっと、出来ない、よ」ミナとの会話を思い出し、カルミア無理やり口調を変えた。その不自然さにはローレルも当然気付いたが、妙にニコニコしているミナと、何か言いたげなホオズキを見て、三人の間でなにかあったのだろうと流しておくことにした。彼から見て、その変化は悪いものには思えなかったからだった。



 チチューナッツ採取五本勝負はフェイジョアに軍配が上がった。そして勝負を決める次なる種目は魚釣りとなった。アルスの身体能力、ロメリアの魔法があれば、わざわざ釣糸を垂らす必要などないのだが、しかし手掴みだと乱獲が過ぎるということでフラネルが提案したのだった。

 一応仲が悪い筈の二人が並んで釣糸を垂らしているという不思議な光景を見ながら、残った三人は干し魚を置くための台を製作していた。製作班と同じように、ジンが木材を適当な形に斬り、フラネルとアイリスは蔦を取ってきて、台を作り上げていく。

 さて、その間、フェイジョアとカンナがどうしていたかというと、本当になにもしていなかった。カンナはただ糸が沈んでいる海面を眺めるだけ。フェイジョアは大あくびを繰り返していたが、少し前からとうとう寝てしまっていた。中身をくりぬいて空洞にした大きな木の実が二人の傍らには置かれていて、それは説明するまでもなくバケツの代用品なのだが、生憎どれだけ時間が流れても、新たな中身が入ることはなかった。

 今日のところは引き分けということで、五人は拠点への帰路に着いた。チチューナッツ探しによって泥だらけとなった姿で空の木の実を片手に歩くフェイジョアとカンナの姿からは哀愁さえ感じられた。

「この勝負に関しては他の人には黙っていてあげようか」

 そんなフラネルの言葉に、ジンもアイリスも無言のまま頷いた。

 拠点に付くと、タイミングよく――この場合は悪くといった方がいいのかもしれないが――外に出てきたカルミアが、カンナとフェイジョアの姿を見て眼を丸くした後に「やっぱり喧嘩しちゃったんですか!?」と叫んだ。なんだなんだと出てきた五人にフラネルがミザーとの戦闘を簡単に報告することで、二人の服の汚れはそれが原因だと思わせる手段に出たのだが、ローレルの「それにしても、他の三人と比べて汚れすぎじゃないか?」という的確な指摘に、とうとうあの虚しい戦いについて語らざるを得なくなったのだった。嘘をつけば誤魔化すことも出来ただろうが、協力関係にある相手に小さなものとはいえ嘘を吐く行為が後の不信に繋がることをフラネルは心得ていた。そして彼らの隠し事は、それと天秤に掛けられるほど大きなものでもない。

「二番目の勝負で取ったチチューナッツはこれ。それで三番目の勝負は魚釣りになったんだけど、えーと、それは引き分けに終わったっていう……そんな感じなんだけど……」

 言葉にされたことで自分達がしていたことの幼稚さにようやく気付いたのか、カンナとフェイジョアは恥で赤く染まった顔を思い切り逸らしていた。しかしそこに「それで、魚は?」というホオズキの止めの一言が加わり、二人揃って木の実バケツを放り投げてからその場を離れて、遠くで剣の素振りを始めたのだった。


 夕食の時間、ようやく落ち着いた二人を交えて、ミザーとの戦闘について詳しく説明をした。最後に、おそらくこの島には他に魔獣はいないであろうことを告げると、ローレルはしばらく思案顔をしてから「そうだな。油断はできないが、確かにその可能性は高そうだ」と認めた。そこに食いついたのはフェイジョアであった。

「ならよ、リーダー。そろそろ遠征に乗り出してもいいんじゃねぇか? ジンが言ったみたいに宝があるかは分からねぇが、流石に俺らへの試験があれっぽっちの魔獣だけってことはねぇだろ。島中を探せば、なにかしら見つかると思うぜ」

「そうだな……。分かった。二人のいうことにも一理ある。そうしよう」

「メンバーはどうすんだ? 当然、俺は行くぜ」

「それなんだが、俺は十人全員で行動するのもありじゃないかと思ってる。魔獣の可能性が低くとも何らかの危険が考えられる限り、回復役のミナには遠征に参加してほしいし、フラネルの知識も必要だ。この二人は基本的に戦いに参加させたくはない。今まで通り五人の班だと、残りの三人で戦うことになる。もし戦闘があった場合だが、それだと少し心許ないだろう。だからといって遠征班に人数を追加すると、拠点で万が一のことがあった場合に危険となる」

「やっぱ心配性だぜ、リーダーは」フェイジョアは呆れたように言うが、その意見には反対しなかった。「何人で行こうと俺は構わねぇよ。ここに残されるようなことがなけりゃあな」

 ローレルは首肯で返事をした。彼も、圧倒的な力を持つフェイジョアを拠点待機させるようなことをするつもりはなかった。続いて、先程名指しした二人に顔を向ける。

「ミナとフラネルも大丈夫か?」

 二人が頷いたのを見て、ローレルは最後に全員を見渡した。

「何か意見のある者はいるか?」

 九人は口を開かないまま視線を返すのみだった。ローレルはそれを同意と受け取り、一度大きく頷いた。

「よし。それじゃあ明日の朝、十人でここを出発する。それまでに各自準備を終わらせておいてくれ」

 九人が頷き、話し合いは終了した。夕食の後、ローレルはフラネルを呼んで、遠征に持っていく食料について話し合い、他の者は各自準備を始めた。そんな中、ほとんど無意識のようにアイリスが口を開いた。

「お風呂入りたいわ」

 一瞬だけ生まれた静寂を突くように吐き出された言葉は拠点内に響き、全員の動きを止めた。次に顔を俯けて自分の姿を確認する。全員が、少なからず泥や砂にまみれている。フェイジョア、カンナ、カルミア、フラネルなどなかなかに酷い有り様だ。

「風呂はともかく、一度、洗濯くらいしたいものだな」

「でもそうしたら結局ほとんど裸になっちゃうし、それならお風呂にでも入りたいわよね」

 試験当日までその内容を知らされていなかった十人に、当然ながら着替えの用意などない。

「ちょっと遠いですが、湖で水浴びくらいなら出来そうですけど」と言うのはミナ。「ついでに服も洗って、水浴びしている間に乾かしておけばいいでしょうし」

「それいいかも」とカンナが立ち上がる。思い立ったが吉日。ローレルに顔を向ける。

「リーダー、いい?」

「あー……、まぁ、いいだろう。魔獣の可能性も大分低くなったし、正直、俺も身体の汚れを流したい」

「でもカンナさん、この島には悪戯好きの猿、ビソウがいるみたいだから、服を取られないように気を付けてね」

「了解、フラネル。それじゃ行きましょ。みんな行くでしょ?」

 アイリス、ミナ、ナギ、カルミアは頷き、早速歩き出したカンナの後ろについた。姿が見えなくなる前に、カルミアが振り返った。視線を受けたホオズキは軽く手をあげてヒラヒラと振った。カルミアも同じように返した後、入り口の方へ歩いていった。

「五人が帰ってきたら俺たちも出掛けよう。大分遅い時間になってしまうが、全員行くだろう?」

 四人は頷いた後、各自明日の準備に戻っていった。

 その後、戻ってきたミナ達と交代して湖へ向かった。夜の湖には昼間ほど動物の姿はなかったが、それでも夜行性の猿や兎などの姿がちらほらと確認できた。そしてなにより、湖の周辺を蛍が飛び回っていた。これも普通の蛍ではない。臀部の光が強く、湖周辺を優しくライトアップしていた。最初にここへきた五人がこれに気付かなかったわけはない。おそらく、驚かせようと黙っていたのだろう。そして彼女達の目論見通り、その幻想的な光景に、フェイジョアでさえも「うお」と小さく声を上げて、ホオズキは優しく照らされた湖と空に浮かぶ星を見て小さく感嘆の息を吐いた。

 このまま何時間でも眺めていられるような光景であったが、しかしいつまでも女性陣に拠点を任せておくわけにはいかない。ローレルが意識を現実に戻して剣と鞘を地面に下す。その音に他の四人も我に返って、服を脱ぎ始めた。

 さて、そうなるとどうしても注目を浴びてしまうのはホオズキである。しかし彼は今まで隠していたのは何だったのかと言うほど容易くローブのフードを下げた。そこにあったのは、他の四人が写真で見たことのある顔だった。幼さを残しながらも負けん気の強そうな吊り目で、以前アイリスが言っていたようなやんちゃ顔。それほど露骨ではないとはいえ注目されていることに気付いていない筈はないが、まるで気にした様子もなくフードを脱いでいく。

 微妙な距離感を保ちながら湖に入って、それぞれ服を洗濯したり身体を流したりしていると小動物達がゆっくりと近付いてきた。

「ほんっと、ここの動物は警戒心がねぇな」

 ちょこんと二本脚で立って見上げてくる兎を横目にフェイジョアが言った。フラネルは狐を撫でながら答える。

「やっぱり外敵がほとんどいないようなところで育ったからだろうね。この狐だって木登りが上手で果物とかを食べる種類だし」

「それにしても今日はいつになく人懐こいな」とジンは足元に擦り寄ってくる小動物への対応に困りながら言う。

「女子達が餌でもあげたのかもしれないな」

 ローレルの言葉に納得した三人は、先程から――いや、いつものことだが――一言も口をきいていないホオズキに視線を向けた。動物に好かれないタイプなのか、ホオズキの近くに動物はいない。中には寄っていこうとする動物もいたが、近くまで行くとびくりと動きを止めてUターンしてしまうのだった。そんな様子を見てフェイジョアが眉間に皺を寄せる。

「気に入らねぇな。本能的にホオズキにビビるなら、俺にビビったっていい筈だろ」

 知ったこっちゃないとでも言いたげにホオズキはそっぽを向く。代わりにジンが口を開いた。

「ホオズキの魔力は断トツだからな。普段垂れ流している魔力だけで動物を警戒させてしまうものなのではないか?」

「あぁなるほどな。それなら分からなくもねぇ」

 それから三十分ほどで入浴を終えて、五人は拠点へ帰還した。完成したばかりの寝床では湖で目にした光景や小動物のことで自然と話は弾み、そうして二日目の夜は過ぎていった。




――そちらの状況はどうだ。

――見張りとコンタクトをとって確認したが問題はない。ここ一週間ほど巣から離れなかったが、そろそろ餌がなくなる。明日か、遅くとも明後日には獲物を探しに行くだろう。

――そうか。だが重要なのはそこからだ。ヘマするなよ。




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