表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/29


 朝食を済ませた十人は、早速、三班に分かれて活動を開始した。

 製作班は、ローレルが剣の一振りで木を切り倒している間、ミナとホオズキはフラネルに教えてもらった蔦を採取していた。それぞれが獲得したものを洞窟の前まで運び、作業を始める。太い木材を縦に四等分し、一メートルほどの長さに切っていく。地面に打ち付ける方の先端を杭の形にした。これが寝床の支柱となる。切断面の角を取ると、洞窟の中に運び入れて、地面に打ち付ける。普通ならばそれなりに力のいる作業なのだが、ホオズキは魔法で浮かせて支柱を打ち付けているため、本人はかざした手を上下に動かしているだけだった。これはフェイジョアの寝床であるため、二メートルほどの距離を取ってもう一セット、支柱を打ち付けた。

 更にミナが運んできた木材を、先程打ち付けた支柱に地上五十センチほどの位置で横向きに縛り付ける。ヘッドボードやフットボードと呼べるような立派なものではないが、床板を乗せるのにはこれで充分であった。とはいえ魔法でどうにかならないその作業には若干手間取ったが、様子を見に来たナギに手本を見せてもらってからはスイスイと作業は進んだ。

土台が完成した頃には床板はミナが持ってきていた。身の丈以上の長さがある長方形のそれを魔法で浮かせ、土台に乗せていく。これだけでもパッと見はすっかりベッドだ。あとは固定していない箇所を蔦で結び、完成。とりあえず、昨日寝床として使った葉っぱを乗せてみた。

 完成した姿を見て、ふぅ、と息を吐いたホオズキのもとへミナがやってきた。また木材を抱えている。

「あ、完成したんですね」ミナはベッドを見て笑みを浮かべる。抱えていたそれを木材置き場に置くと「もうすぐで外の作業は終わりますから、そうしたら私達も手伝いに来ます」と言ってまた戻っていった。

 ホオズキが気合を入れ直している頃、少し離れた場所にある炊事場ではナギとカルミアが拠点の整備を進めていた。地面の凹凸を削ったり、邪魔な石を奥へ運んだりする中でカルミアはふと口を開いた。

「あの、やっぱり料理をするからには調味料がほしいですね」

 ナギは手を動かしたままカルミアに顔を向ける。眼以外ほとんどが隠れている姿なので表情は察するしかないが、おそらく無表情だろう。そんなナギに、カルミアはおずおずと切り出す。

「海水から塩が取れるって聞いたことがあるんですけど、あの、ナギさんは、何かご存知ですか?」

 ナギはしばらくじっとカルミアの顔を見つめてから頷いた。

「知ってる。でも海水を煮詰めるために大きな容器が必要。あと海水を濾過する道具も」

「容器ですか……」

「最悪、土器を作ればいい」

「土器」と思わず繰り返したカルミアにナギは当然のように頷く。そんなものが作れるのかという驚きは伝わらなかったようだ。

「でも、漂着物に鉄製の容器とかがあれば、一番手間が省ける」

 二人が探索班に期待を寄せている頃、当の彼らは砂浜を歩いていた。しかしその顔は――特に先頭を歩くフェイジョアとカンナの顔は退屈げであり、最後尾を歩くジンも若干しかめ面だった。

「なにもないわねぇ」とアイリスが汗を拭いながら言う。

「もしかしたらとは思っていたが、やはり有用な漂着物は教師達が全て撤去済みか」

「はぁ!?」と、ジンの言葉にフェイジョアが勢いよく振り返る。「マジかよ。いや、でも、昨日のうちに何かしら流れ着いてたっていいんじゃねぇか? こんな海水浴場並みに綺麗な無人島の砂浜なんてあり得るか?」

「結界のせいかもね」とカンナが言う。「学院長先生が言ってたじゃない。ヴィレア当主の協力を得て、この島に結界を張ってるって。それが漂着物を遮断してるんじゃない?」

「マジかよ……。どうする、リーダーさんよ」

 フェイジョアに顔を向けられたフラネルは、汗だらけの顔に苦笑を浮かべてから、太陽に目を向けた。

「予定通り、午前中いっぱいは砂浜を探索しよう」

「りょーかい」と答えたものの、その言葉に力はない。「もう少し遠出とかしてみてぇなぁ。探索っつっても、夜には帰らなけりゃならないんじゃあそれほど遠くには行けねぇし」

「魔獣の可能性が消えない限り、それが出来るのは当分先になるんじゃないかな」

 その言葉にフェイジョアはがくりと項垂れた。

「ローレルの奴は慎重すぎるんじゃねぇのかぁ? 安全第一ってのは分かるけどよ」

「あんたが無鉄砲過ぎるのよ」とカンナは無下に言う。「大体、サバイバルの経験があるなら、よく知らない果物を食べるのは危ないことくらい分かるでしょ」

「あん?」と思案顔を浮かべて数秒。昨日のことを話しているのだと思い当たり、フェイジョアは不敵に笑う。「いいか。サバイバル初心者のお前に教えてやるよ。本当にヤバイ毒を持った食い物ってのはな、本能的に喉を通らないもんなんだよ」

「あんた完全に野性動物ね。記憶力なんて特に」

 得意気なフェイジョアに、呆れた表情のカンナを真顔で見ながら、ジンは小さく口を開いた。

「しかし、フェイジョアの言うことにも一理ある」

「だろう!?」耳敏く聞き付けたフェイジョアが素早く振り返る。髪についていた汗が飛んで、カンナが必死の形相で二メートルほど飛び退いた。

「ジンも遠出したいの? ちょっと意外ね」というアイリスにジンは首を横に振った。

「個人的にはローレルの慎重さは正しいと思う。だが、これは試験だ。俺達が昨日からずっと魔獣の存在を考えているように、他の何かが採点項目としてあるかもしれない」

「その何かが島の反対側にあるかもってこと?」

 ジンはアイリスの問いに首肯してから手帳を取り出した。地図のページを開く。ジン達が転送されてきたのは、この島の南に位置する砂浜。拠点となる洞窟が見つかったのは南西で、湖に到着したあとは南東の方角を少しだけ探索した。そして今は、南西の海岸から少しずつ北上している。

「スタート地点から湖までかかった時間を考えると、日帰りは難しくても丸一日あれば島は回れそうだ。少なくとも、四日目にはこの島を踏破しておきたいところだが」

「あとからなにか起きるかもって?」カンナはまさかと言いたげに口を開く。ジンは頷きながらも否定を口にした。

「可能性はあるが、それはかなり低いと考えている。魔獣討伐以外でありそうだと俺が考えているのは、宝の存在だ」

「宝ぁ!? 十五にもなって宝探ししろってのか?」

 フェイジョアは勘弁してくれと言いたげだが、他の三人は、なるほど、と納得していた。

「確かに、その可能性は低くないかも」とフラネル。「学院長先生が言ってた『この経験は君達にかけがえのない宝をもたらすだろう』っていう言葉がヒントだったって可能性だね」

 頷くジンを見ながらフェイジョアは首をかしげてカンナに小声で問う。

「んなこと言ってたか?」

「言ってたわよ。覚えてないのはあんただけ」真顔で返してから、ジンに向き直る。「確かに、その宝探しっていうのがあるとすれば、早めに島の全貌は把握しておきたいわね。ヒントを頼りに島中を駆け回るっていうのがそういうもののセオリーだし」

「しかしこれはあくまで推測だ。魔獣の存在も似たようなものだが、どちらとも推測でしかないというのなら安全に物事を進めるべきだろう」

「そうだね」ジンの言葉にフラネルも同意する。「まずは、現段階で行ける範囲を把握することに専念しよう」

 全員は頷き、前を向いた。

「それにしても」フェイジョアが疲れのこもった声で言う。「ほんっとーに綺麗な砂浜だな」ここが観光地ならば感動からでた言葉とも思えただろうが、この状況は、四人の心を僅かに重くするだけであった。


 寝床の材料となる木材の作成は午前中で終わり、昼食をとったあとは三人で組み立てを行っていた。思いの外早く終わりそうだと考えていたローレルは、ふと、昨日の会話を思い出した。ジン達と話していた、カルミアの実力についてだ。この場には、三人しかいないしちょうどいいと、ローレルはホオズキに声を掛けた。

「カルミアの実力?」

「あぁ。知らないか? どの魔法が得意で苦手だとか」

 ホオズキはしばらく俯いた後、顔をあげた。

「可もなく不可もなくといった具合だと思う。詳しい成績までは知らないが、俺が評価をつけるならば、攻撃C判定、補助と回復がB判定といったところだ」と、一応しっかりと問いに答えてからこう付け足した。「俺なんかじゃなく本人に訊くのが一番早いと思うが」

「どうにも聞きづらくてな。九大貴族の面々は全員が何かしらトップクラスの使い手だろう。劣等感を抱いてしまうんじゃないかと思ってしまうんだ」

「気にしなくてもいい。カルミアは誰が相手であれ、そういった感情は抱く。周りのせいというより自信のなさが原因だからな」

「そうか…… 。分かった。また聞いてみる。ありがとう」

「構わない」

 ホオズキはすっかり手慣れた様子で木材同士を縛っていく。彼は、この試験が始まるまではローレルの中で――そしておそらく他の九大貴族にとっても――謎に包まれた人物であった。アイリスが言っていた青い薔薇の件を含め噂の多い人物なので、たまに混じっている事実すらそのように捉えられてしまうのだろう。そのため、共に行動している際も、どこか遠くに感じる――いや、この表現は適切でない。その場にいるのに壁を一枚隔てているような、そんな感じがしていた。しかし今、カルミアのことを話す言葉のなかには確かな人間臭さがあり、それは不可視の壁を見事に取り除いた。昨日、ローレルが探索班にいて、ホオズキとカルミアの会話を聞いていれば、一日早くそれに気付けたであろう。

「どうかしたか?」

 ローレルがいつまでも自分を見ていることを不思議に思ったらしく、ホオズキが訊いてきた。

「いや、なんでもないよ。ありがとう」

 ホオズキは手元に視線を戻して「ん」とだけ答えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ