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 十人がそれぞれ道中で採取した食料を見せ合って、討伐班が取ったもののいくつかをフラネルが選別した。それだけでも、明日の朝食くらいまではありそうだったが、『肉が食いたい』という意見もあり、日が暮れるまで、言い出しっぺのフェイジョアとカンナが近場に狩りに行くことになった。残った七人の内、ホオズキは早速洞窟の入り口に結界を張った。十人分の魔力を指定して張るという作業は他の面々が想像していたよりも時間がかかるらしく、ホオズキが結界を作り上げている間、ナギとジンが洞窟の見張りがてら護衛することになった。ローレル、ミナ、アイリス、カルミアは、暮らしやすくなるように洞窟内の整備を始めた。

 そして日が暮れた頃、結界が張り終り、ほとんど同じタイミングでフェイジョアとカンナが戻ってきた。フェイジョアは鹿を担いでおり、カンナは薪や、子供の身体ほどある巨大な葉っぱを背負っていた。

 カンナは葉っぱを拠点の地面に並べて、その上に寝転がってみた。かなり厚い葉なのでこれだけで寝心地が良いかと思いきや、地面の固さが勝っていた。魔法使い達はローブを、ローレルやジンは服を脱いで敷くことも出来るだろうが、カンナが着ているのは軽鎧であるため使えない。洞窟の近くに生えている草でも刈ってこようとカンナが拠点を飛び出すと、巨大な剣を振っていたフェイジョアが待ちわびたように顔を向けてきた。

「メシか?」

「まだまだよ。さっき帰ってきたばっかりじゃない」

 フェイジョアはよほど空腹らしく、先程の狩りの最中も、木に生っていた果実を食べようとしていた。洞窟を探索している際、フラネルがその果実には微量の毒があると言っていたことを思い出し、慌ててフェイジョアの頬を叩いて事なきを得たのだった。手を叩けばいいだろうと彼には言われたが、無意識の行動なのでどうしようもない。そして、微量の毒というのは口内が痺れて呂律が回りにくくなるという程度のものなので、そんなフェイジョアを見るのも一興だったかと思ったカンナであった。


 料理経験のある女性陣四人が料理を、他の者が洞窟内の整備を進めるのを、ホオズキは座って眺めていた。結界を張ることに魔力を消耗したため作業を免除されたのだが、本人としてはまだまだ余裕であり、こうして何もしないでいるのは退屈であった。しばらくは料理班と整備班を交互に見ていたが、退屈が極まると視線を動かすことさえ億劫になり、自然とカルミアを目で追っていた。そしてカルミアも、料理をしながらその視線にふと気づいたらしく、ホオズキを見て笑みを浮かべて小さく手を振った。

「本当に仲が良いのねぇ」

 そんな様子を見て、アイリスが感心したように言った。そして、狼狽えるカルミアの耳元に口を近付けると「実際のところ付き合ってるの?」と訊いた。予想通り、カルミアは盛大に慌てて、そしてこれも予想通り否定した。仮にそうだったとしてもそう答えるだろうが、きっとこれは本当だとアイリスはほとんど確信していた。根拠は何もない、女の勘だが。

 夕飯の際は、明日からの班分けについて話し合った。料理を担当する二人は基本的に洞窟内で作業し、それ以外の八人が外へ行くことに決まる。まずするべきは、食料調達。湖などの存在を思えば、さほど人員を割く必要はないだろうが、やはりネックになるのは魔獣が存在する可能性だ。結局、今日と同じ五人で食材調達がてら、漂着物の確認など、島の探索に動くこととなった。

「残りの三人は何をする? 三人では遠出も危険だろう」ジンの問いにローレルは頷き、他の八人を見回した。

「全員に聞きたいんだが、この生活を続ける中で何か欲しいものはあるか? 少し時間を置くから考えてみてほしい。その後、一人ずつ聞いていきたいと思う」

 九人は頷き、それぞれ、夕飯を食べながら、あるいは手を止めて、またあるものは目を閉じて数分間を過ごした。

「そろそろいいか?」ローレルの声に、全員が顔を向ける。

「よし。まずは俺から言うべきだな。俺はこういう食事の時のために食器が欲しいと思う。あぁ、意見が被ったとしても無理に違う案を出す必要はないからな。じゃあ俺から時計回りに一人ずつ意見を言ってくれ」

 ローレルの左隣に座っていたのはフラネルだった。

「あー、えっと、必要性が薄いのは分かってるんだけど……お風呂かなぁ」

 泥だらけの姿で苦笑するフラネルに反論する者はいなかった。

「私は寝床。自分で作っておいてなんだけど、毎日あれで寝てたら疲れ取れないだろうし」

 カンナの言葉にも全員が頷く。

「右に同じ」というのはナギ。

「私もお風呂で……」これはカルミアの意見だ。彼女もフラネルほどではないが大分服が汚れている。

「寝床」とホオズキ。

「私はお風呂に一票。作れるなら欲しいわ」とアイリス。

「食器だな」とジン。

「俺ぁ寝床だ。寝心地うんぬん以前に、地面にほとんど直で寝るのは普通にあぶねぇだろ」フェイジョアは鹿の肉を咀嚼しながら言う。

「私は食器で」ミナが最後にそう言って、十人分の意見が揃った。それを手帳にメモしていたローレルが顔を上げて、全員を見渡した。

「寝床が四票、風呂と食器が三票か。それなら、明日はまず寝床の製作に取り掛かろう。となると、必要なのは土台を作る木材とロープ、そのあとはそこに敷く柔らかい草が欲しいな。カンナが取ってきたような葉っぱももう少しあった方が良い」

「食器にせよ風呂にせよ、木材は必要不可欠だな」というジンにアイリスが反応する。

「お風呂は周りを岩で固めて温泉みたいにした方が良いんじゃない?」

「ジン、アイリス、風呂や食器に関しては、また次に考えよう。漂着物次第では、俺達が作る必要はなくなるかもしれない」

 そこでフラネルが軽く手を挙げる。

「ロープ代わりになりそうな頑丈な蔦はこの近くでも見掛けたよ。植物の根っことかも使えると思うし、困ることはないと思う」

 木材の方も言わずもがなだった。材料には困らないことが分かった面々は、続いて明日の班分けを話し合うことにした。

「まず、明日の料理当番は?」

 ローレルの問いに、カルミアとナギがそれぞれ反応した。

「分かった。残ったメンバーで探索班と製作班に分かれてもらうけど、各自希望はあるか?」

 フェイジョアやカンナが素早く手を挙げる中、

「ローレル」とジンが挙手する。「まずは各自のサバイバル経験の有無を聞いた方が良いんじゃないか? 先程の口ぶりからして、フェイジョアなんかは経験がありそうだ。手慣れた者が製作班にいると作業が捗るだろう」

「それもそうだな」とローレルは頷き、全員にサバイバル経験があるかを訊いた。手を挙げたのは、ジンの言ったとおりフェイジョア、カンナ、ナギ、ローレルだった。

「君もあるのか」というジンの言葉に、ローレルは「数日間だけだが」と答えた。

「とりあえず、この四人が一班に固まるような事態は避けよう。そのうえで、もう一度希望を取りたい」

 再び、フェイジョアとカンナが手を挙げる。

「えーと、二人は探索班でいいか? 鹿の肉がまだ残ってるから、明日は魚や可食の植物採集をメインに頼みたいんだが」

 フェイジョアとカンナは狩りがしたいものだと思っていたためそう確認したローレルだが、意外にも二人がそれを気にする様子はなかった。どうやら、ただ単に一所にじっとしていられない性質のようだ。

「じゃあ明日は俺が製作班に残ろう」

 ローレルはそう言ってから、フラネルを見た。

「フラネル。君は探索班についていってほしいんだが、いいか?」

「うん」可食の判断の役割を分かっているのか、フラネルは素直に頷いた。

「じゃあ明日、出掛ける前に、ロープ代わりになりそうな蔦や根を教えてほしい」

「了解、リーダー」

 残ったのはジン、アイリス、ミナ、ホオズキの四人だった。ローレルは、そのうちの一人、ジンに顔を向ける。

「ジン、探索班に入ってくれないか」

「あぁ構わない」

「ジンがそっちなら私も」とアイリスはジンの腕に抱きつき、ローレルを見ながら「それに、結界を張ってるホオズキ君、回復役のミナの身に何かあるのは避けたいでしょ?」と言った。

 ローレルは頷いた後、ミナとホオズキに顔を向けて「それで構わないか」と確認を取った。二人が頷いたのを見て、話し合いは終了した。

 その日は明日に備えて早く寝ることとなった。それぞれが葉っぱの布団に寝転がり、フラネルが光の魔法を解除すると、洞窟内は元の暗闇に包まれた。

「おやすみなさい」というカルミアの小さな声が響く。一人一人、それに小声で返した。フェイジョアの声は聞こえなかったが、おそらくそれは照れていたのだろう。

 真っ先に改善すべきとなった寝床であったが、それ以上に十人は疲れていたのであろう。翌朝起きて自分でも呆れてしまうほど、彼らはほどなく眠りに落ちて行った。





――あぁ。試験は滞りなく始まったよ。

――了解した。こちらも行動を開始する。予定通りに計画が進めば、三日後には実行に移せるだろう。

――まだ子供とはいえ、彼らをあまり舐めるな。

――問題ない。十人そこらの人間がいくら鍛錬を重ねたところで足元にも及ばない圧倒的な力が我々にはあるのだから。





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