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 翌日、国軍とエメロカリスが衝突。戦闘の末、エメロカリスは壊滅し、最終的に島にいたとされる三百人のうち、国軍によって拘束されたのは二十三人であった。国軍の被害は死者三名。重軽傷者は数十名いたとされるがミナの治癒によりすぐさま回復したため正確な人数は不明。

 夕日に染まった砂浜で、ローレル達十人はリーダー格の男と向かい合っていた。男は両手を背中に回した状態で拘束され、砂浜に胡座をかいている。ローレル達は数メートル距離を置いた場所から彼を見下ろしていた。

 遠くでは兵士達が慌ただしく動き回っている。拘束したエメロカリスのメンバーを軍艦に乗せて、また別の軍艦には多くの死体が運ばれていく。

「俺に何の用だ」男はローレル達に目を向ける。「わざわざこんな場を作ったんだ。何もないわけじゃあないだろう」

 ローレル達はじっと男の目を見つめ返す。

「ラルディアで内戦など起こさせない。剣士も魔法使いも当たり前に共存できる国に、俺達が変えてみせる」

「だからお前達は現実を分かっていない」

 決意の言葉を男は一蹴した。更に言葉を続けようと顔をあげてローレル達と向き合う。だが彼らの姿を見て、男の動きは止まった。寄り添って立つ彼ら十人の姿に、自分の中にあった理想が重なったように思えた。

 男は自嘲的な笑みを浮かべる。

「まさかお前達がブバルディアを操れるようになるとは思わなかった」

「操ってた訳じゃありません!」と思わずカルミアが反応するが、ネリネに袖を引かれて我に返る。少し距離をおいているものの兵士がそばにいるのだ。目立つ行動は避けなければならない。

「その通りだ」とジンが口を開く。「あのブバルディアは俺達の命令を聞いていたわけじゃあない。自らの意思で駆けつけてくれたんだ」

「たまたま見つけた竜を作戦に組み込んだ俺達の失態か。ブバルディアは人に懐かないという記述があったんだがな。いや、なんせ希少な竜だ。多少の間違いは予想するべきだったな」

 ローレル達に向けてか、それとも自分自身に向けてか、男はそう言うと、自嘲的な笑みを浮かべたまま立ち上がった。二人の兵が駆け寄って男の両脇につく。

「もうよろしいのですか」兵士の言葉にローレルは頷いた。実を言えば、まだローレルには、そして他の数名には聞きたいことがあった。しかしそれを九大貴族である自分達が訊けば兵士達に不信感を抱かせかねない。

「あの」と、カルミアが口を開いたのは、男と兵士が背中を向けたときであった。男は軽く振り返り、目だけをカルミアに向ける。

「えっと、あなたの名前を……」

「そのうち嫌でも耳に入ってくるだろう」

「でも、今知りたいんです」

「意外と頑固なお嬢さんだな」男は喉を鳴らして笑い、前に向き直る。そして「スタチア=オンシジウム」と言うと、再び歩き出した。

 言葉を発せずにいる十人のもとへ、一人の人物がゆったりとした足取りでやってきた。その人物、学院長の姿に気付くと、ローレル達はそちらに身体を向けて会釈をする。

「皆さん、学院の不手際で危険な目に遭わせてしまって本当に申し訳ありませんでした」

 深く頭を下げる学院長にローレルは「いえ」と曖昧な返事しか出来なかった。学院側に不手際があったことは事実だ。学院長はあくまで自分達を一人の生徒と見て謝罪しているのであろう。しかし根本的な問題は、むしろ九大貴族――自分達にあるのだ。

「カルミアさんも本当にごめんなさい」

「いえっ。私は大丈夫ですっ。教頭先生にカツラが売っているところを教えてもらいますから、そんな謝らないでください」

「ありがとう、カルミアさん。あの、でもね、出来ればそのことは教頭先生には聞かないであげてくださいね」

 カルミアは小首を傾げながらも「はい」と頷いた。バレていないと思っているのは本人だけなのだ。

 そこでカンナがおずおずと手を挙げる。

「あのぉ学院長先生、ちょっとだけ気になってることがあるんですけど……」

「なんでしょうか、カンナさん」

「こんなことになって、卒業試験はどういう結果になるんですか?」

 その問いに学院長は左手に右肘を乗せて困ったように頬杖をつく。

「実はそれもちょっと困ってるんです。トラブルで試験が中止となることは今までにもあって、その場合は再試験となったのですが、今回の事件の規模、そして皆さんの学外での立場を考慮するとそれは難しいでしょう? だからといって試験をしないと卒業できなくなってしまう子もいるし……」

 カンナとフェイジョアの頬に冷や汗が垂れる。

「うーん。どうしましょうかねぇ」と首を捻っている学院長を射殺さんばかりに凝視する二人。卒業試験がどうなろうと成績的に問題ない他の八人は二人に白い目も向けるかあるいは苦笑している。

「そうだ、こうしましょう」

 顔をあげた学院長は、十人をその場に座らせるとペンと手帳を出すように言った。着の身着のままで駆け付けたカルミアとナギはそのどちらも持っていなかったため、適当な紙とペンを学院長から貸してもらった。

「白紙のページを開いて、そこにあなた達十人の名前を記入してください。あぁ、横に少しスペースを空けておいてくださいね」

 言われた通りにして、全員が顔をあげると、学院長は一つ大きく頷いた。

「この数日間を振り返って、あなた達が仲間に点数を付けてください。ただし、一人の持ち点は百点。試験の合格ラインも百点とします」

 手を挙げたミナを学院長が当てる。「自分に百点振るのは……」

「もちろんそれは禁止します。最高でも九十九点。百点分さえ振っていれば零点は何人いても構いません。自分に九十九点振って、他の誰かに一点振る。そうすれば、自分が合格する確率は高くなるでしょう。他に質問はありますか?」

 手を挙げる者はいなかった。学院長は腕時計に視線を落とし「では五分後に」と言って自らも腰を下ろした。

 十人は迷うことなくペンを走らせた。そして一分も経たないうちに全員が顔をあげて学院長を見る。

「もういいのですか?」

 頷いた生徒達を見て、学院長は「よっこいしょ」と腰をあげる。

「手帳の方はそのページを切り離してください」

 学院長は操作魔法を使い、十人分の紙を手元に運ぶ。そして立ったまま一枚一枚を広げていき「ふむふむ」と頷いてはポケットにしまっていった。そして十枚全ての確認を終えると十人に向き直る。

「おめでとうございます」

 学院長は満足げな笑みを浮かべ、こう続けた。

「十人全員、合格です」




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