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 耳が大分回復した頃にはフクジア島は後方に消えて、よく分からない笑いもおさまっていた。

「カルミアとナギ、寒くないの?」

 風を切って進むブバルディアの背中で、その二人は薄手のジャージ姿である。軽鎧を身に付けていても寒さを感じているカンナの疑問は尤もであろう。

「障壁を張ってるから寒くないよ」そう言ってカルミアはカンナの身体を覆うように障壁を張る。他のメンバーにも同様のことをしていくカルミアにフェイジョアが問う。

「それでよ、一体何がどうなってこうなったんだよ」

 それに反応したのはジンであった。「フェイジョア、君はもう少し語彙力を身に付けた方がいいぞ」その呆れた声色にカルミアは苦笑を浮かべながら口を開く。

「えっと、ブーバが私達に会いに来てくれたんです」

「それは学院までということか?」ジンにカルミアは頷く。「ということはブーバや母親の姿、それから君達との関係も学院側に知られたということか」

「ううん」と答えたのはナギだった。「できる限り隠したから、多分大丈夫」心配なのは護衛がどう説明したかだ。医務室の窓から飛び出たところは見られてはいない。だがそのあとのカルミアの悲鳴は聴こえてしまっただろう。とはいえ、すぐに十人目の偉人へ直結するような証拠は残していない筈だ。

 疑問を解消したジンは続けてくれと言うようにカルミアを見る。

「ブーバ達は私を心配して来てくれたんだけど、そうしたらナギさんがあの島の状況を教えてくれて、それじゃあ行こうって」

「本当に助かったよ」ローレルが笑みを浮かべながら言う。各々頷く八名に、カルミアは恐縮するように両手を前に出して振り、照れを誤魔化すように口を開く。

「えっと、どこに向かう? 今は陸地の方に最短距離で飛んでるみたいなんだけど……」

「その前にカルミア」とジンが言う。「今のうちに聞いておきたい。君の力の報告の可否。その答えを」

 その場が静まり返る。雰囲気が変わったことを察したブーバが不思議そうに首をかしげた。

「メリットとデメリットは以前に話した通りだ。そしてその力の強大さも、今なら君にも分かるだろう」

 カルミアはブバルディアの背中に手を当てながら小さく頷いた。そして顔をあげると、決意の表情で九人を順に見る。

「ローレルさん、ミナさん、フラネルさん、カンナさん、フェイジョアさん、ジンさん、アイリスさん、ナギさん、ネリネ。私は、今の生活を続けたいです。この力はなにがあっても間違ったことに使ったりしません」

 そうして深く頭を下げる。

「お願いします。報告はしないでください」

 九人は視線を交わした後、小さく頷き合った。

「分かったよ」とローレルが言うと、カルミアは顔をあげた。「カルミア。俺達は君に二度も命を助けられたんだ。頭なんて下げないでくれ」

「まぁ私は初めから言う気なかったし」と得意気に言うカンナだったが「俺もだ」というフェイジョアの言葉に思いきり顔をしかめた。

「なんであんたはいちいち私に同意するのよ……。あ、ジン。エメロカリスの奴等に証言されたらまずいんじゃないの?」

「そこはどうにかなるだろう。竜は人と暮らせば人語を理解しコミュニケーションがとれるほど賢い種族だ」

「カルミアになついたわけじゃなくて俺達全員になついたってことにするということか」

「あぁそうだ。それならカルミアに注目が集まることもないだろう」

「そうね」とアイリスが言う。「まぁ、私達が注目されることになりそうだけど」

「じゃあ下手に隠すのは逆効果ですね」とミナ。

「そうだな。このまま最寄りの町の方向へ向かおう。ブバルディアを追ってか、それともエメロカリスと戦うためかは分からないが、こちらには軍隊が向かっている筈だ。とりあえず彼等と合流しよう」

「ローレルさん達、もしかしてまたあの島に?」カルミアが不安げに訊く。ローレルは頷きながらも、

「無茶はしないさ。出来ないっていう方が正しいか。敵の狙い的にも、体力的にもな。だが兵達にブーバのことを説明しないといけないし、なにより俺達の無事を伝えないといけない。それに敵の戦力についても教えることができる」

「このまま逃げて兵に任せるってのは気が食わねぇしな」とフェイジョア。「もう十分休んだ。俺ぁまだ戦えるぜ」

「まぁ私も補助くらいならね」というアイリスにミナやフラネルも頷く。

「私だってまだやれるわよ」

 負けじとカンナが声をあげた時だった。ブバルディアが小さく――それでも十分すぎる声量だが――鳴いた。

「艦隊が見えるそうです」とカルミアは言うが、彼らが現在いるのは雲の上である。戦々恐々と身を乗り出しても、船はおろか海面さえ見えない。

「ブバルディアにはそういう力があんだよ」と座ったままだったフェイジョアが言う。

「なら早く言いなさいよ」

 身を乗り出していたカンナはぶつくさ言いながら元の位置に戻る。

 ブバルディアは大きく旋回しながら徐々に高度を下げていく。雲を抜けると、確かに海面に光が見えた。軍艦の数は五隻。かなり大型のものである。おそらく島へ向かっているのだろう。更に下降していくと、ブバルディアに気付いたのだろうか。周囲の海面を照らしていた光が次々と上方へと向けられた。

「そろそろ飛び降りよう。魔法が飛んで来ると厄介だ」

 九人が頷いて立ち上がったのを見てからローレルはナギの前で腰を落とす。

「流石にその足じゃあ危ないだろう」

 ナギは自らの右足を見下ろしてから頷き、ローレルの背中に身を預けた。何気なくその光景を見ているミナをアイリスが愉しげに観察している。

「フェイジョアとジンは人質の二人を頼む」

 二人は頷き、それぞれ背中におぶると、ブーバが小さく鳴いた。全員が振り返ると、別れを察しているのか、その大きく丸い目は潤んでいた。

「ありがとうブーバ。君がいなければ俺達はおそらく命を落としていた」

 ローレルの言葉をカルミアが伝える。ブーバは首を横に振って、ローレルとナギ、ネリネに顔を向けた。口を開こうとしたカルミアに、ローレルは掌を向けて制止する。聞くまでもなく、ブーバが何を言ったのかは分かった。それはナギとネリネも同様であり、二人はブーバの腹部に抱き付き、ローレルは笑みを浮かべて見上げた。

 その様子を見ていたカルミアが、そして最後にカンナが、気持ちを押さえきれなくなったのか、瞳から涙を流しながらブーバに抱き付いた。カンナが迫った際、反射的に怯んだブーバに男性陣は思わず笑ってしまった。



 ブバルディアが飛び去った後のフクジア島ではエメロカリスが撤退を始めていた。それが滞っているのは、多くの魔法使いが負傷し、同じ数だけの転移陣が使用不可であることが大きい。彼らの拠点は中央都市べリアにある。その距離を、一度に大勢を転移させるとなると、彼ら一人一人では力量が足りない。そこを補うために彼らが用いたのが、ローレル達との取引中、兵士達を別の場所へ転移する際にも使った複数人による転移術である。このメリットは前述した通り個では不可能なレベルの転移を可能とすることであるが、その分、デメリットは大きい。全員が均等に魔力を注がなければ、いくら多量の魔力を注いでも発動しないのだ。

 リーダー格の男が指示を飛ばし、助かる見込みのある重傷人から転移をしていくが、怪我人の転移すら終わらないうちに魔法使い達は魔力切れを起こしていく。魔力薬で回復しても、その程度ではすぐに枯渇してしまった。

 九大貴族の子息の無事が確認されれば、間違いなく国軍はここを攻めてくる。それまでになんとか逃げなければならない。男はストックの花を探すよう指示する。

 その時だった。近くの転移陣が光輝いたかと思うと、そこには先程送り返したばかりの同士がいた。地面に這いつくばり、息も絶え絶えで同士達を見上げる。優先して送り返した理由は、出血こそないものの右腕や肋骨を骨折していたためだったが、今の彼は全身を無数に切り刻まれ、布切れのようになったローブは元の色が分からないほど赤く染まっていた。

「戻ったら、駄目だ」と彼は虫の息で言った。リーダー格の男が駆け寄って顔に耳を寄せると、彼は血塗れの手で男の肩を掴んだ。「軍がきた。拠点はもう、駄目だ。俺以外、全員殺された」その光景を思い出しているのであろうか。リーダー格の男の肩を掴む手には強い力が込められて大きく震えていた。リーダー格の男が自らの手をそっと重ねると、震えは止まり、手が離れ、彼の身体は力なく地面に横たわった。

「これまでかしらね」と隣に立った女剣士が言う。リーダー格の男は応えなかったが、それはこの作戦を実行すると決めたときから覚悟していたことであった。

「治癒は軽傷者だけにしろ」男は立ち上がりながら言う。「各自、万全の状態に整えておけ! 勝者気分で来航する貴族の犬どもを迎え撃つ! たとえそれが最後の戦いになろうと、我らエメロカリスは決して屈しない!!」




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