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 拠点に戻った五人は、ネリネ、フラネル、ミナに魔力回復薬を渡した後、学院長との話、これからの行動について四人に話した。口を挟むことなく彼らの話を聞き終えた四人のうち、フラネル、ミナ、ネリネは戦場へ行くこと、ナギとカルミアは転移陣で避難することが決まった。そこでフラネルが軽く手を挙げる。

「戦いにいくっていうのは賛成なんだけど、このメンバーが別行動をするようなことになるなら反対かな。僕らは僕らで固まって動くべきだと思う」

「それは当然そうするつもりだ」と答えたローレルの隣でフェイジョアが若干目を泳がせた。それを目敏く見つけたカンナが溜め息をつく。

「あんたまた一人で突っ込もうとか考えてたんでしょ」

「悪ぃかよ」

「悪くはないわよ。あんたは本当に万全の体力だろうし、そんな簡単にはくたばらないと思う。でも相手は魔法使いと剣士が連携を組んでるのよ? 私達もやっぱり少し疲れてるし、ローレルなんて言うまでもないでしょ」

「ん? あぁ、まぁそうだな」

 また心底呆れられるか怒られると思っていたフェイジョアは予想と違う言葉に内心首をかしげる。そんな彼を見て、アイリスがにやけながらカンナの言葉を引き取った。

「要するに、あなたを頼りにしてるんだから勝手な行動はやめてねってことよ」

 カンナは「ぐぬ」と恥ずかしげに肩を縮めた後、開き直ったようにフェイジョアを睨み付けた。

「万全なのがあんただけだからそうせざるを得ないってだけ。あんたが苛立つのは分かるし私もそうだけど、カルミアのことを考えるなら勝手な行動はやめなさいってこと。自分の命が助かっても、私達に何かあったら絶対悲しむわよ」

「要するに、ちゃんと私のことを守ってねってことよ」

「そこまで言ってないわよ! 私が言いたいのは、守り守られつつっていうか……」

 自分の気持ちをどのような(恥ずかしくない)言葉で表すべきか頭を抱えているカンナの前で、フェイジョアは何か考えるように首に手を当てていた。そして不意に「なるほど」と手を降ろしてパッと快活な笑みを浮かべて見せる。

「自分達だけじゃあ不安だから俺についてきてほしいってことだな」

 カンナは思わず反論しようと顔を向けたが、ふと動きを止めて、全身を脱力させるように大きな、本当に大きな溜め息を吐いた。

「もうそれでいいわよ。あんたは厳つい顔して黙ってるよりもそれくらいバカ面してる方がマシだわ」

 その後、フェイジョアがナギを、カンナがカルミアを、そしてローレルがエメロカリスの男を背負い洞窟の入り口へ戻ると、学院長はすでに転移陣を描き終えた状態で待っていた。彼女は一瞬、カルミアの姿に険しい顔をしたが、すぐに表情を戻すと全員を見渡した。ローレルが口を開く。

「カルミアは敵が使用した爆弾によって全身に火傷を負って、治癒は完了しましたがしばらくは目を覚まさないと思います。ナギはブーバ……ブバルディアの幼竜との戦闘で右足に重傷を負って今も動かせない状態です。この二人の学院への転移をお願いします。この男は……」

「エメロカリスの者ですね? その者も一緒に送りましょう」と学院長は言った。「向こうには数人の教師が待機しています。仮に目を覚ましても取り押さえることは容易でしょう」

 そして学院長は残ることを決めた生徒達を見る。

「これほど長距離の転移が出来るのはこれ一度きりです。あなた達は本当に残るのですね?」

 ローレル達は示し合わせるでもなく同時に頷いた。そして、ローレル、カンナ、フェイジョアは転移陣の上に立ってナギ達を降ろしていく。最初に降ろされたナギは、両手を伸ばしてカルミアを受け取った。ローレルが地面に男を寝かせて、三人は転移陣から出る。学院長は転移陣の傍らに立って手をかざすと、目をつぶり、魔力を送り込んでいく。充填が完了すると同時に、転移陣は徐々に強い光を放っていく。ナギは全員を順に見てからローレルに視線を合わせて「また」と言った。彼らが頷くと同時にナギ達は光に包まれ、それが止んだ頃にはその姿は消えていた。

「さて」とフェイジョアが戦闘音のする方角に顔を向ける。「さっさと片付けて俺達も帰ろうぜ」

「そうだな」とジンは口元にうっすらと笑みを浮かべながら返し、学院長を見る。「学院長、島中のあちらこちらで戦闘が起こっているようですが、特に激しい戦闘が起こっている場所は分かりますか?」

「現在の詳しい状況までは……。ただ、最初の敵は南東の方角に現れたようです」

「だそうだ、どうする、ローレル」

「そっちの方へ行ってみよう。学院長先生、色々とありがとうございました」

 感謝を述べたローレルに、学院長は心外というように「あら」と声を上げて笑みを浮かべた。「私もあなた達についていかせてもらいますよ。引率の教師として」

「しかし学院長先生、貴女はブバルディアとの戦いでかなりの体力を消耗されているのでは……」

「魔力はある程度回復しました。今の私でも、後方から援護をするくらいはできますよ。それに、あなた達が国民のために戦うように、私も生徒達だけを戦わせるわけにはいきません」

 ローレルは内心で苦笑した。言っても聞きそうにないのは彼女も同じだ。



 南西の砂浜ではエメロカリス五十名とラルディア国軍十名の戦いが繰り広げられていた。戦場となっている砂浜付近の地面は抉れ、木々は倒れ、炎が上がっていた。ところどころには既に息絶えた双方の兵が横たわっている。

 国軍は剣士が五人。魔法使いが五人。鎧や剣に刻まれた、あるいはローブに縫い付けられた紋章によりディモルフォセカ一族とヴィレア一族の兵士であることが分かる。彼らはそれぞれの一族に分かれて交戦しており、それが苦戦の理由でもあった。

 自ら救援へ志願するだけあり、彼らの能力は個人で見ればエメロカリスの者達を遥かに上回る。しかし、剣士と魔法使いで分かれて戦う彼らに対し、エメロカリスは両者の短所を補い、それでいて長所をフルに活用した連携をとっている。そして五倍もの戦力差である。彼らは防戦一方に追い込まれていた。

 いつしか敵に囲まれ、一定の距離を保っていた剣士、魔法使いの五人が背中を合わせるかたちになる。剣を構え、敵を睨みながらディモルフォセカの男剣士――おそらく彼が隊長的な存在なのだろう――が口を開いた。仲間に声を掛けたわけではない。その相手は背中を合わせているヴィレアの女魔法使いだった。

「このまま死ぬか、それとも俺達と手を組むか、どっちがいい?」

 女魔法使いは露骨に大きな舌打ちをする。

「十秒稼ぎなさい。デカいの決めてあげる」

「そりゃまた難しいことを容易く言うね」男は苦笑した後、仲間に号令を出した。「聞いたなお前ら! 十秒間、俺達は壁になる!」

 残りの四人が腹の底から「おう!」と答え、それを見ていた女魔法使いも仲間達に静かに命令を出す。

「私はこのむさ苦しいのを援護するから、あなた達は十秒間でこれでもかってくらい魔力を練り込みなさい。十秒後、私の合図と共に水魔法を発動。あいつらを押し流すわよ」

「はい」

 魔法使い達は背中合わせになると魔法発動に取りかかる。五人の剣士は魔法使い達を守るような陣形を取り、敵と向かい合う。先に動き出したのはエメロカリスの剣士達だった。全員で二十五名、一人につき五人の剣士が時間差で切りかかってくる。ディモルフォセカの剣士達は前進しながらそれを迎え撃った。彼らが仕えている一族のように鞭のように変幻自在なものには及ばないが、その剣捌きは常人のものを遥かに超えており、それは時折横をすり抜けようとする魔法すら切り伏せた。あまりに長い五秒の後、女魔法使いは、敵方の後方で魔力が膨れ上がるのを察知した。障壁の用意は既に完了している。

 エメロカリスの魔法使い達が同時に魔法を発動させる。電撃魔法。ひとつひとつの魔法に練り込まれた魔力はそこそこのものであったが、同系統の魔法と結合したそれは特大威力の雷撃魔法となる。女魔法使いは顔をしかめて大きく舌打ちをしながら両手を左右に広げる。一枚の障壁ではどれほど強度のあるものでも――それこそヴィレア一族の結界のようなものでなければ防ぎきれないことは明確であった。左右の指を一本ずつ僅かに曲げていく。最高強度の障壁を五枚。それに雷撃魔法が激突し、轟音が鳴り、砂煙が舞い上がった。七秒。八秒。剣が打ち合う音が再び聞こえる。女魔法使いは、目を瞑り極限まで集中する。この煙に紛れて魔法を放ってくることは予想がついていた。そして魔力の動きを感じ取った瞬間、左右に広げたままの手を正面へ向ける。障壁を二枚。小威力の魔法が続けざまに当たる感覚。それが消えると同時に、右手を払って周囲を覆っていた砂煙を吹き飛ばした。その行動で隙が生じた女魔法使いに雷撃魔法が迫る。一撃くらうのを覚悟した瞬間、目の前に割り込んできた男剣士が一振りで魔法を消滅させた。男剣士は僅かに振り返る。その横顔は得意気に笑みを浮かべていた。

 十秒。

 女魔法使いは大きく舌打ちをしてから「やりなさい」と静かに、だが力のこもった声で言った。果たして合図となったのはその言葉なのかあるいは舌打ちだったのかは分からないが、魔法使い達は一斉に両手を前に出し、全方向へ大威力の魔法を放つ。一気に激流と化した魔法攻撃に対して、エメロカリスはあくまで冷静であった。剣士は魔法使い達の元まで下がり、その更に後方に障壁役の魔法使いを待機させていたのだろう。激流は突如現れた障壁に激突する。一枚を破壊し、更にもう一枚も突き破る。しかし一枚ごとに確実に威力は削られている。

 女魔法使いが再び舌打ちをしそうになった瞬間だった。

 咆哮。獣のようにも思えたそれは、人間の口から出たものであった。弾丸のような勢いで全てを飛び越えて現れた二つの影。一つはとんでもない巨駆。もうひとつは剣士達にとって陰しか見えずとも見間違えることのない人物。とんでもないスピードながらその動きには余裕と優雅さがあり、思わず目を惹き付けられた。

 二つの影、フェイジョアとカンナは雄叫びとともに剣を振りかぶり、勢いままに振り降ろした。一枚目は薄いガラスのように容易く砕かれる。カンナは目にも止まらぬ素早さで剣を返して振る。二枚。そこへフェイジョアが遅れながらも剣を振り上げる。三枚。

 すべての障壁を砕いたことを察し、カンナは勝ち気な笑みを浮かべる。しかしフェイジョアの言葉でその表情は固まるのだった。

「なぁ、カンナ。俺達の真下、すっげー勢いで水が流れてんだけど、こっからどうすんだ?」

「どうするって……どうしようもないじゃない」

「だよな。まぁ死にはしないだろ」

 最後の方は落下しながらの会話であったが、激流にのみ込まれる寸前、突然吹き上がった風により、二人は再び宙へ浮かび上がった。それは女魔法使いが咄嗟に使った風の魔法によるものであった。

 カンナとフェイジョアが障壁を破壊したことによって北方の敵陣営は激流に流され壊滅状態となったが、その他は障壁に阻まれて激流は届かないまま消失した。しかしエメロカリスが反撃に転じようとした寸前、彼らは自分達の遥か後方で魔力が膨れ上がるのを察知した。

 アイリスの補助魔法によって魔法力が増大した九大貴族の子息達と学院長。その状態で魔力を練りに練った電撃魔法による急襲は、エメロカリスの半数をいとも容易く壊滅させた。

 その時点で立っていた敵は数名程度。たった数秒で形勢をひっくり返されるという事態に言葉を失っている彼らを仕留めるのは難しいことではなかった。

 そして、言葉を失っているのはディモルフォセカ、ヴィレアの兵達も同様であった。しかしカンナとフェイジョアがようやく地面に着地すると、男剣士は我に返ったように駆け寄り片膝を突いた。

「お嬢様、ご無事ですか」

「ぶはっ。お嬢様?」

 噴き出して笑うフェイジョアをカンナと男剣士が睨む。

「無事よ。あなたも大丈夫そうね。みんながみんなってわけにはいかないようだけど」と辺りを見回しながらカンナは言う。地面に倒れている者のなかに、一人、見知った顔がいた。

 ローレル達が近付いてくると、今度は魔法使い達がネリネに駆け寄った。しかし女魔法使いは膝を突くわけではなく、我が子を心配する母親のようにネリネの両肩に手をおいて身体を見る。

「ホオズキ様。お怪我はありませんか」

 ネリネは頷いた後、女魔法使いの耳元に口を寄せて「私が蒼い薔薇で『自分の姿か声を変えられる』ってことバレちゃった」と言った。女魔法使いは「まあ!」と悲鳴のような声を上げて、近くにいたローレルを睨み、またネリネに向き直る。

「大丈夫でしたか? 誰かに言い寄られたり、このことを黙っていてほしければ、とか脅されたりしませんでしたか?」

 頷くネリネに女魔法使いは「あぁよかった」と言ってその身体を抱き締めた。そんな様子を見ていたローレルの隣にミナが並び、小さく声を掛ける。

「ネリネさん、随分可愛がられているんですね」

「あぁ。まぁなんとなく気持ちは分かるような気がするけど」

 その声が聞こえたのだろうか。女魔法使いはネリネを抱き締めたまま顔をあげてローレルを睨み、大きく舌打ちをした。

「ラン、人の耳元で特大の舌打ちしないで」

「はっ! 申し訳ありません」

 ローレル達のもとにカンナ、フェイジョア、ディモルフォセカの兵達が集まってくる。女魔法使い、ランもようやくネリネから離れた。

 ローレル達はここまでの道中でこれからの行動についてある程度決めていた。まずは少数いるという一般国民を救出することにしたのだ。ディモルフォセカの剣士達、ヴィレアの魔法使い達に国民のことを尋ねると、分かれたのは戦闘の最中であったため詳しくは分からないとしながら、一人が北の方角へ行くのを目撃していた。九人は顔を合わせてそちらへ行くことを視線だけで確認しあう。しかしそこでランが待ったをかけた。

「まさかホオズキ様も行くつもりですか? 駄目です。私達と帰りましょう」

「やだ」

 そっぽを向いて返したネリネにランの表情が固まる。それを見ていた男剣士もおずおずとカンナにきりだす。

「あの、お嬢様、私としてもお嬢様にはここで」

「アスター、なにか言った?」

「いえ、なんでもありません」

 アスター同様、ランも諦めたのか、せめて自分達が護衛につくと言い出したが、それはローレルが却下した。

「これだけの戦力が固まって動くのは効率的じゃない。俺達は北へ向かうので、ディモルフォセカとヴィレアの方は北西の方向をお願いします」

「またこのむさ苦しい人達と組めっていうの!?」

「ラン、我が儘言うな」とネリネが注意すると、ランは口をつぐんだ。「救援先でもちゃんとディモルフォセカの人と連携して戦うこと。他の一族の人達ともね」

「あなたもよ、アスター」カンナの言葉にアスターは「はっ」と即答する。

「本当に分かってる? デルフィニウムの人達とも協力するのよ」

 その言葉にアスターは思わず顔をしかめたが、すぐに表情を取り繕って「承知しました」と答えた。

「回復薬は持っていますか?」とミナが尋ねる。アスターとランは仲間と顔を合わせてから首を横に振る。北の方にストックの花が咲いていることを伝えると、彼らは「それは有り難い」とミナに礼を言った。

 息のある敵を捕縛してから北西に向かうというアスター達と分かれ、九人は北へと急いだ。場所を移しながらの戦闘だったのだろう。地面や木々に残された戦闘の跡が自然と彼らを戦場へと導く。別の方向からは戦闘音が聞こえるが、向かう先からは何も聞こえない。戦闘の流れで更に場所を移動したのなら良いのだが、もしも既に戦闘が終了していると考えると、どうしても悪い方を想像してしまう。

 不意に戦闘の跡が途切れた。そして、木々が薙ぎ倒され出来た拓けた場所。九人はそこで足を止め、警戒するように辺りを見回した。ここで激しい戦闘が行われたことは間違いない。しかし――

「死体がないな」とジン。他の八人も頷き、学院長が浮遊魔法を使って空高く浮かび上がった。

「他のところに移動したのか?」とフェイジョアは言うが、 下降してきた学院長は首を横に振った。

「いえ。戦闘跡は確かにここで途切れています。どちらかが撤退したとしても、追撃により多少の痕跡は残る筈ですが、それすらも見当たりません」

「ということは、やっぱりここで勝負がついたということですね」とローレルは険しい顔をした。その表情を見て、フラネルが彼の考えを察する。

「敵に捕まったってことかな」




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