ヒロイン登場まで、待っていられない
今更の乙女ゲーム転生ものです。
ゲーム開始前のお話なので、ヒロイン不在。
拙い内容ですが、楽しんで頂ければ嬉しいです。
「ルチア、今日から彼が君の兄になるよ。ご挨拶しなさい。」
そう言いながら、お父様は、お父様の傍に立っていた、10歳くらいの男の子を紹介した。
彼の名前は、ジェード。
隣国の、お父様の友人の忘れ形見だそうだ。
ジェード、その名前は「翡翠」。
彼の瞳は美しい緑色で、まさに宝石のようだか、その瞳には何も写していないように、見えた。
目の前にいる、私を見ている筈なのに、口許は笑みを浮かべているのに、その宝石の瞳は、暗く、写し出すのを拒否しているようにもみえる。
その理由を私は、知っている。
だって、この世界は、前世に私がやっていた、お手軽恋愛ゲームアプリの世界に限りなく似ているのだから…。
因みに、何故前世の記憶があるとか、いつここが、恋愛ゲームアプリの世界だとか気づいたかは、置いておく…。
決して説明が面倒とかでは無い…。
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お手軽恋愛ゲームアプリ「ジュエリー・ボックス」
中世ヨーロッパ風の世界で、宝石の名前と瞳を持つイケメン達と恋愛を楽しむアプリだ。
何がお手軽と言うと、面倒なライバルが居ないという点であろう。
面倒なライバルとの駆け引きが必要なミニゲームが一切必要ない。
ただ、甘い囁きだけを、求めている面倒くさがりの乙女たちに好評だった。
逆に不評だったのは、逆ハーレムが出来なかったことだろうか?
ゲーム開始とともに、数人いるイケメンの中から、一人ターゲットを選ばなければいけないため、他のイケメンたちとは、親交がなくなってしまう。
複数のイケメンからチヤホヤされるのを希望する乙女たちには、不満だったらしい。
兎に角、このジュエリー・ボックスというゲームは、イケメンと親睦を深め、甘い言葉を囁いて貰ったり、キャッキャうふふなデートを楽しむアプリである。
そして今、お父様から、今日から私の兄になると紹介されたジェードは、その「ジュエリー・ボックス」の攻略対象者だった。
悲劇の皇子「ジェード」
隣国の皇太子だったが、両親を王座を狙っていた王弟に殺され、国を追われた。
本当は、自分一人だけ逃げたくなかったが、命懸けで逃がしてくれた人達に、応えるしかなかった。
そして、復讐を誓い、王弟を討ち取るため、蜂蜜色の髪を黒く染め、父の友人である人を頼り、力が付くまで潜伏する。
そして、その潜伏先でヒロインに会い、ヒロインの温かさに心の傷を癒され、恋におちると言うわけだ。
因みに私は、ヒロインではない。
ゲーム内では、ジェードに妹が居るなんて設定出てなかったと思う。
まぁ、ライバルキャラが出てこないなら、妹なんて、お呼びでは無いのだろう。
そして、今、困ったことがひとつある。
目の前で、虚ろな目で微笑んでる、彼をどうするかだ。
これから、家族として一緒に暮らすのに、心に闇を抱えたままでは、ツラい。
折角与えられた第2の人生を、私は楽しく送りたいのだ。
ヒロインに救ってもらうにも、ヒロインはまだ登場しない。
だって、舞台はジェードが大人になってから。
キャッキャうふふなデートで18禁すれすれの際どい描写も入ってたので、ヒロインは兎も角、攻略対象者は大体20歳前後だったのだ。
今、彼は10歳。
ゲームの舞台までには、なんとあと10年近くもある。
それまで、彼はこのままなのだろうか?
哀しみに覆われたまま、大人になってしまうのであろうか?
そんなの、嫌だ。
10年も心が傷付いたままなんて、辛すぎる。
ヒロインの温かさに癒されるなら、家族の温かさでも、少しは癒されるはずだ。
ヒロインには、悪いけど、貴女の登場まで、待っていられない。
恋愛するにしても、心の傷なんて必要ないほうが、良いに決まっている。
だから、私が、私たち家族が、ジェードの心の傷を癒しても、問題ないはすだ。
そう、心に決めて私は、ジェードの胸に勢いよく飛び込んだ。
まさかの私の行動に、予測していなかったジェードは、後ろに倒れこんだ。
私は、ジェードに抱きついたままだ。
ジェードは、抱きついた私を避けようとはしないので、そのまま馬乗りになり、ジェードの頬を両手で掴んで、瞳を覗きこむ。
「ジェードお兄様。初めまして、ルチアです。」
とびきりの笑顔で挨拶し、そのまま、頬に口付けを落とした。
ビックリして、キョトンとした顔が可愛い。
ビックリしても、相変わらず瞳には影がちらついているが、今は気にしない。
これから、家族として一緒に暮らすのだ。
時間はあるはず。
春は、お弁当を持ってピクニックしましょう。
夏は、避暑に湖に参りましょう。
秋は、森へキノコ狩りへ。
冬は温泉にでも行きたいですね。
一緒に楽しいこと、いっぱいしましょう。
今はお兄様の世界は、哀しみに彩られてますけど、いつか癒されますように。
ヒロインに出逢うまで、私がヒロインの代わりになりますね。
リクエストがあれば、ゲーム開始後のお話書きたいかも?