第四幕〜また来年〜
「うごほっ!?」
三条院の口から血は出なかったが、明らかに力を失っていくのがわかった。その証拠に唯を縛り付けていた隣死の輪も光を失い、消えた。
「不意打ちの不意打ちが本当の一撃だったのか…」
『………』
「全てを賭けた一撃。しかし、こんなことで俺の作り上げてきた王国が……潰えるというのか?人間世界でも俺は潰れ、この世界でも……。なぜだ、なぜ!?なぜ、世は俺を必要としないのだ!!こんな仕打ちしか俺に与えないのだぁぁぁ!!」
三条院の悲痛な雄叫びが屋敷内にこだまし、ゆっくりと静まっていくのと同じように彼の体もまたゆっくりと消えていった。
「終わった……」
片膝をついたまま殿様が確認するようにつぶやいた。
「うん。これでやっとあいつの下についていた皆も自由に生きられる」
「………」
「どうしたの唯?顔色が悪そうだけど?」
「あの人、どこに行っちゃったのかなと思ってさ…」
唯はポツリと囁くように言った。
「天界か地獄。おそらくは地獄だろう。この世界の禁忌ともいえるものを乱用した罪は重い」
殿様が静かに告げた。
「なんだか急にかわいそうになってきたよ。あの人は、生きているときも幽霊たちの世界にいるときも自分の生きたいように生きていただけなのに…」
「そうだね。だけど、自分の我を通して生きていいのが人生じゃないだろう。時には皆で協力し合うことも必要だ。あいつは、自分を強く外に出しすぎた。あのまま生きていたらいつかはあいつ自身も気づいたと思う。こんな生き方は違うって」
「………」
「さ、帰ろう。オイラ達には待ってくれている人がいるだろう。早くその人を安心させてあげよう」
「……うん」
三条院の部屋からは淡くだが、朝日が覗いていた。
「うっわぁ、朝日が昇ってる…」
唯は木々の隙間から覗く太陽を見上げながら軽く伸びをした。
「ねぇ、影丸…?」
唯は後ろを振り返ったが、名を呼んだ者の姿はなかった。
「影丸!?どこ行ったの!?」
唯は誰もいない屋敷の中に向かって叫んだ。それに応えるように唯の近くから苦笑交じりに声が聞こえた。
「ごめん、唯。本当なら唯をうちまで送ってあげたかったんだけど、もう無理みたいだ」
「え?」
「ここまで太陽が完全に出ちゃってると、お手上げなんだ」
そう言われて唯は彼らが幽霊であることを思い出した。
「えぇー、じゃこれからあたしどうやって帰ればいいのよぉ!この町には来たこと歩けど、駅前周辺しか歩いたことないのに!」
「いや、まぁ、その…。何とかなるって♪」
「何とかなるって……何、その適当ぶり!?」
「ハハハ、唯は体力だけはあるから何とかなるって」
「ムッカー!何よ、人を体力馬鹿みたいな言い方して!」
「いいじゃん、事実だしー。おっと、そろそろ本格的にヤバイみたいだ。こんな言い方しかできないけど、唯と出会えてよかった。ありがとう」
「影丸、待ってよ!こんなお別れ、あたしは認めないんだからね!出て来いコラー!!」
唯は明るくなりつつある空に向かって叫んだが、影丸から返事は返ってこなかった。
「影丸……」
何故だろう。会ってから半日も経っていないのに最初に大きな短刀を使って脅かしてきた影丸が妙に懐かしかった。
「いいもん!これが今生の別れってわけじゃないし!また来年も来ればいいんだもん!」
唯は無理やり自分を明るく奮い立たせた。
「さぁ、そうと決まれば帰りますかー。叔父さんと叔母さんにすっごい怒られるかもしれないけど帰りますかー!!」
唯はゆっくりと歩き始めた。最後に一度だけ崩れた屋敷を振り返って。
「影丸のバカー!!」
地球を照らす太陽に負けないくらいの明るさと大きな声が隣町いっぱいに降り注いだ朝だった。
〈End〉
今回は作者が多忙のため、ここに簡単なあとがきを書きたいと思います。
おばけサ〜が☆を読んでくださった皆様、ほんとうにありがとうございました。初のホラーコメディに挑戦してみましたが、どうだったでしょうか。一人でも面白いと感じてくれた方がいらしてくれれば幸いです。
それではまたどこかでお目にかかれますよう。