第四幕〜瀬戸際の賭け〜
(三分?あと三分であたしは死んじゃうの?)
「くそ、そんなことさせてたまるかぁ!」
影丸がでか短刀を振り上げて突進する。
「よせ、影丸!!」
「ワンワン!」
殿様と太吉が懸命に止めるが影丸の勢いは止まらない。
「確かに私をこの世から排除されればその呪いも消える……が」
三条院の鎌が影丸の頬をかする。
「あと三分で消されるつもりはないぞ。おとなしくその小娘が天に召されるのを見物するのだ」
「嫌だ……それだけは嫌だぁ!!」
「落ち着け影丸!」
殿様が影丸の肩をぎゅっと掴む。
「主がそんなでどうする。唯を守ると言ったのは主であろう!」
「っぐ……」
(影丸がこんなにも苦しんでる。会ってからずっとお調子者で悪戯ばかりしてあたしを困らせてた影丸がこんなにも苦しんでる…)
唯は自分を縛る隣死の輪が輝くのを見た。出したくもない悲鳴をあげ、自分の中から力が抜けていくのを感じる。
(このまま死んじゃうなんてやだ。そうだ、あたしは影丸にちゃんとあたしを元の世界に帰すように約束したんだ。帰って、叔父さんと叔母さんに謝らなきゃ)
「影丸、殿様、太吉…。皆、聞いて」
生命力を吸い取られているため、ただ喋るのにも相当体力を使う。しかし、唯は力を振り絞って自分の考えた作戦を告げた。
「唯、それは主に一番負担がかかる作戦だぞ?」
「わかってる。でも、体をうまく動かせない今はこれしかあの人を倒す術はない」
「………」
「影丸、あたしとの約束を守ってくれるって言ったでしょ?だったらその約束を守るために……あたしを信じて」
「………」
影丸はずっと下を俯いたまま何も言わない。何を考えているのかもわからなかった。
「タイムリミットまであと四十秒だ」
三条院の冷酷な死の宣告が下される。
「影丸!」
唯の焦りの叫びに、影丸はようやく顔を上げた。そして、唯に向かっていつもの悪戯っ子らしい笑みを浮かべた。
「乗ったよ、唯!こんな大掛かりな悪戯、オイラがやらなくて誰がやるんだ!」
「いや、悪戯じゃあないんだけどね…」
「アッハァ、細かいことは気にしない!よし、やるぜ唯、殿様!」
「まったく、ようやくいつもの主に戻ったか」
殿様は安堵したように優しくつぶやいた。気がつけば太吉が凛々しい瞳で殿様を見上げている。
「わかっておる。太吉、唯と影丸をしっかり『あしすと』してやれ」
「ワン!」
太吉は頼もしげに一声鳴いた。そして、殿様が再び正面から三条院に勝負を仕掛ける。
「気が触れたか?蛙ごときを私に出すとは…」
「ただの蛙か目に物見せてやるぞよ!世は平安の世から千年の時を生きた栄誉ある蛙の一族ナリ!!」
「ふん、蛙はいつの時代でも水にいればいいのだ!」
三条院の鎌が小さな殿様の体を引き裂く。
「うぐ…!」
「ふっ、他愛も……」
他愛もない、と言いかけて三条院はすぐに上を見上げた。
(影丸の短刀!?不意打ちか?)
しかし、三条院は影丸のでか短刀をものともせず、軽快なバックステップで避ける。
「この私に最後に向けた刃が不意打ちとは…。この勝負、私の勝ちだ!!」
勝ち誇る三条院に太吉が悠然と飛び掛る。
「愚かな犬よ。鎌を持つ私の手を封じたところでもはや意味はない。小娘の命はあと数秒でこの世から消える。
『そんなことはないよ』
「なっ!?」
その一瞬の隙が運命の分かれ道だった。
鈍い音共に三条院の左胸から短刀の刃先が顔を出していた。
「……な……?」
「………」
唯は黙ったまま両手に握られたナイフを左右に捻った。