第四幕〜見えない壁〜
ギギィ――
洋館の扉がゆっくりと開き、中が少しずつ外の月明かりで照らされていく。
『………』
影丸が扉を開いた後もやはり敵の気配はなかった。
「ねぇ、本当にここなの?三条院さんがいるとこって?」
「間違いないはずだけど。もしかしたら罠ってこともあるかもしれないから唯、気をつけてね」
「わかってるわよ」
唯はズボンのポケットの中に入っている短刀をギュッと握った。
三人は気を張りつめながら洋館の中を散策する。
幽霊は壁をすり抜けることもできるから、少しも気を緩ませることができない。しかし、どんなに気を張りつめても敵の気配を察知することはできなかった。
「周りには本当に敵の姿が見えない。霊感の強い唯にも幽霊の気配は少しくらいわかると思うのだが…?」
「そんなこと言われてもわからないよ。ただ、その辺りに亡霊が映っていたりなんてことはないよ」
「とすると、まず完全に敵の気配はないとみていいね」
「影丸、どうするのだ?」
「とにかく三条院がいつもいる二階の部屋に行こう。あいつはいつもテラスにいる」
影丸の言葉に唯と殿様は小さく頷いた。
古い洋館の階段がある場所はちょうど入り口を右に曲がったところの奥にあった。影丸は面倒くさいのでいつも壁をすり抜けて上がっていたのだが、今日ばかりはそうやって上がるのは危険だと、どこか心が訴えていた。そして、肝心の階段がある場所にたどり着いた三人だったが――
「階段が……」
「ないじゃない」
本来階段があるべき場所は木の壁が立ち塞がっていた。
「おかしいな…」
悪戯好きの影丸をも手詰まりにさせる木の壁の罠。その罠に最初に気がついたのは三人の足元に立っている一匹の犬だった。
「太吉?」
唯は壁を睨んだまま唸り続けている太吉の横にしゃがみ、彼の体をそっと抱きしめた。
『この壁は罠だ。影丸の言うとおり、この先には階段がある!』
「この壁は罠?本当なの、太吉!?」
「ウ〜…」
太吉は壁を睨みながら、警戒の姿勢を崩すことはない。
(もしそうなら…)
唯は汗ばんだ手でポケットから短刀を取り出した。
(お願い、あたし達に道を開いて)
唯は壁に短刀を突き刺した。刹那、洋館全体に地鳴りが起こった。
「な、何事だ!?」
「唯、何をしたの!?」
「太吉が教えてくれたの!この壁が罠だって!そして今、その罠が解ける!」
唯が言い終わるのを待つように地鳴りのピークが最骨頂を迎え、そして――
「壁が……消えた?」
殿様が唖然とした表情で言う。
「さっすが唯!霊感を持つ人間は違うな」
「皆、気を抜いちゃ駄目!幽霊達が来る!」
唯の言葉通り、罠が解けたと同時に敵の幽霊たちの気配が増大した。
『クォォォォォ!!』
「くそ!さっきまでまるっきり気配なんてしなかったのに!?」
影丸が舌打ちをしながら短刀を構える。
「おそらくさっきの壁の罠のせいじゃ!あの罠が敵の気配をも覆い隠していたのだ!」
「まったく。三条院の奴、来る度にどんどん変な知識をつけるんだから!」
影丸と殿様、そして太吉は突然出現した幽霊達を迎え撃つ形で臨戦態勢を取る。
「いくぜ!」
影丸は短刀を振り回しながら、シマの幽霊たちの力を借りて敵を倒していく。
殿様も刀を巧みに操り、太吉もそれをサポートする形で続く。
唯は的の攻撃をかいくぐりながら、それでも懸命に短刀と体術を使いながら影丸たちのそばを離れないようにしている。
「ぐああ!」
最後の一体を倒し、三人と一匹は改めて階段を見上げる。
「この先だ。行こう!」
「うん!」
影丸の声に唯は大きく頷いて返した。