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第四幕〜闘い〜

「!!」



 ずっと逃げ回っていた影丸の足が急にピタリと止まった。走るスピードを押さえきれなかった唯は、勢いあまって影丸の背中にぶつかってしまう。

「いたたたた…。急に止まらないでよ」

「唯、オイラから離れないで」

 抗議をする唯を無視して影丸は静かにそう言い放った。

 唯は強く打った鼻を押さえながら周囲の殺気にハッと次の抗議の言葉を喉の奥に引っ込めた。

「影丸…」

「大丈夫、オイラが守る!」

 小声でそんなやりとりを交わす二人。


「よぅ、影丸」

「三条院様に身をささげる気になったか?」

 骸骨とゾンビはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら言う。

(なに、こいつら…)

 唯はあまりの恐怖に背筋が凍る思いだった。

(影丸の墓地にいた骸骨やゾンビはみんな外見は怖かったけど、優しい心を持っていた。だけど、こいつらは…)

 こいつらはホラーアクションなどに出てくるような、人の心を持たないただの化け物だった。

「冗談!今日は三条院と話がしたくて来たんだ」

 影丸の返答に骸骨とゾンビは腹を抱えて大笑いした。

(何?こいつら、何がおかしいの?)

「それこそ冗談だぜ影丸」

 骸骨が腹を抱える手を緩めて言う。

「三条院様はお前達と話すのはもう無駄だと仰っているんだよ」

「無駄かどうかはわからないだろ?」

「無駄だ。無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だ無駄だぁー!!」

「ギャハハハハ!みんな集まれぇー!!」

 トチ狂ったように笑い出した二人は大声で周囲の幽霊やゾンビ、骸骨達を呼び集めると、あっという間に唯と影丸を囲んでしまった。

「こんな状況におかれてもまだお前は三条院様のところに行く足を止めないか?」

「今だったら、少々痛い目見るだけで帰してやるぜ?」

 骸骨とゾンビの言葉に影丸は深いため息をついた。

「何を勘違いしていることやら。最初からお前達に三条院に取り次いでもらおうとは思ってないんだよ。下がってろよ、下っ端風情が」

「なぁにぃ…!」

「ちょっと強いからって調子に乗りやがってぇ。みんな、かかれぇ!!」

 骸骨とゾンビの指示で唯達を囲んだ幽霊達が一斉に彼女達に飛び掛る。

「いやぁー!!」

 唯はあまりの恐怖に短刀を抜くことすらできない。影丸はその横で幽霊達を回転蹴りで牽制する。

「ワンワン!」

 どこからか聞こえた犬の鳴き声。

「太吉!?」

 林の中で殿様と一緒に別れたはずの太吉が唯を襲おうとしている幽霊に勇猛果敢に体当たりする。

「ゲばぁ!?」

 不思議なことに太吉の体当たり攻撃は幽霊の体に綺麗に命中し、幽霊を戦闘空間外へと吹き飛ばした。

「太吉、あなたどうして…」

「わん!」

 太吉は唯の無事を確認すると、守るように彼女の足元に立った。

「太吉はよほどお前のことを気に入ったみたいじゃな…」

 低い声は持っていた刀で骸骨やゾンビを一瞬にして夜の風に乗せる塵とした。

「そこまで懐いておるのだったら仕方ない。太吉をお前にやらんでもないぞ?ただし、わしらの仲間となったらの話だがな」

 風に舞う塵が晴れ、一匹の巨大蛙の姿があらわになる。

「殿様!?」

「言ったであろう?今宵限り協力してやるとな。蛙界の俊足と呼ばれた麻呂の太刀は、平安の世を越えて今もなお健在だ!」



 ババーン!!


 という効果音でも流せばまさに完璧な登場シーンだったはずだが、それも影丸の不用意な一言で台無しとなる。

「カモーン、ゴテン!」

 影丸がその単語を口にした刹那、どこからともなく飛んできたちょうど蛙一匹が住めそうな立派な御殿が虚空より敵の中心部に降ってきた。

『ぎゃああああ!!』

 豪快に降ってきた御殿に潰された幽霊達は成す術もないまま戦闘不能に追い込まれた。

「き、き、き、貴様―!麻呂の大事な御殿をぉぉぉ!!」

「ニャハハハ!殿様の蛙にしては無駄にでかい御殿はこういうときに使わないとさぁ。おかげで、あの辺一帯の敵が全部土の中だ!」

 カラカラと笑う影丸に殿様は蛙なのに蛸のように顔を真っ赤にしていた。

「お、どうしたの殿様?顔が蛸みたいだ。新手のにらめっこ?」

「か〜げ〜ま〜るぅ〜!!えぇい、もう勘弁ならん!ものども、敵共々影丸を叩っ斬れーい!」

「アハハハハ!!殿様なんかに斬られるもんかーだ!」

「待て影丸!許さんぞ!!」

「お〜にさ〜んこ〜ちら〜っだ!」

「ぬおおおおおお!!」

 影丸と殿様は敵を無視して鬼ごっこなど始めている。

「あぁ、もう。何がなんだかわからないよ…」

 完全に置いてけぼりを食らった唯は右手でおでこを押さえながらため息をついた。

『まぁ、あれがいつもの殿様達のやり取りだから気にしないでよ。それより、この混乱をうまく利用しようよ。敵が動揺しているよ』

「え?」

 唯は突然聞こえた声に思わず周りを見回した。

 影丸と殿様は向こうで鬼ごっこしながら敵を斬り崩している。敵が何かを喋った様子もない。いや、そもそも敵が唯達に有益になるようなアドバイスをするはずがない。

「まさか…」

 唯は自分の足元にいる一匹の犬の幽霊を見下ろした。

 太吉はその視線に気づいていたのだろうか。しかし彼は『行くよ』と唯に言うように一声鳴くだけだった。


 太吉は懸命に敵に噛みついたり、体当たりを食らわせたりしている。

 影丸も殿様の御殿で遊びながら、着実に敵を倒している。

 殿様の刀は今でいう居合いみたいなものだろうか。影丸に目標を向けつつも、ちゃんと敵を倒している。

「あたしは……」

 唯の手の中に握られた短刀。そっと鞘から刀身を抜き出す。

「あたしは……」

 どくんどくんと心臓が波打つ音が聞こえる。

「やっろぉぉ!」

 後ろから骸骨が飛び掛ってくるような音が聞こえた。

「あたしだって!」

 唯は身軽に骸骨の動きを交わすと、そのまま心臓辺りの位置を短刀で突き刺した。

「げゃ!?」

 骸骨の動きが止まり、表情が苦しみに変わる。

(今だ!)

 唯は短刀をそのまま上に斬り上げた。

 骸骨の体が左胸を中心にバラバラと崩れていく。


 唯の中で何かがきれた。

 まさか自分が最近の現代の学園物語小説の中に出てくるような登場人物を演じるとは思っていなかった。

 親に目標を決められて生きる人生なんて嫌だった。しかし現に今はこうして何かの流れに従って生きている。そんな自分に嫌気が差したのかもしれない。


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