第四幕〜ナイフ持った鬼ババァ〜
「ぱーどぅん?」
唯は引きつり笑顔で影丸に聞き返した。
「唯、今なんて言ったの?」
さすが室町を生きていた忍び。幽霊になって数百年経っても英語なんてわかるわけもない。
「わっと いず でぃす?」
今度は影丸から今さっき手渡された短刀を見せて尋ねる。
「なんて言ってるのかさっぱりわからないんだけど……とりあえず、唯の手にあるのは短刀だね」
影丸は怪訝そうな顔で答える。
[Kagemaru]
いかにも英語読みっぽいアクセントをつけ、唯は影丸の肩をポンと叩く。
「なんであたしがこんなものを持たなきゃいけないのよー!!!」
唯の叫びはさっきまでいた麗奈の小屋まで聞こえるくらいの音量だった。
「あんたバカでしょ!?何で一介の中学生なあたしが、どっかの小説みたいにナイフ一本で悪党に立ち向かわなきゃいけないわけ!?意味不明だよ!」
「言いたいことはよくわかるけどもう少し静かにしたほうが近所迷惑にならなくて済むんじゃない?」
「これが落ち着いていられる状況なわけないじゃない。あたしはアンタの通訳としていけばいいんじゃなかったの?」
「確かにそう言ったのはオイラだよ。けど、ここから先は三条院のシマがある隣町だ。このシマの幽霊達は違うシマのオイラ達を追い出すために攻撃を仕掛けてくる。唯も例外じゃない。むしろ、唯が一番危険なんだ」
「何でよ?」
「幽霊の攻撃には生きているものをこの世界に誘惑する力があるんだ。君の生命力がそれに負けてしまったとき、弱冠十二歳にして現世を去ることになるよ」
「こ、怖いこと言わないでよ!そのためのアンタでしょ?」
「もちろんオイラだって約束は守るよ。だけど、この姿のオイラじゃ、唯を絶対に守りきれるとは言いきれない。そのためにも最低限自分の身は自分で守れるような護身武器が必要になるわけ」
「無責任すぎじゃないの、それは?」
「かもしれない。でも、この条件で協力すると言ったのは唯だ」
「ここまでは聞いてなかったわよ?」
「言う必要はなかったからね」
「どうして?」
「黙ってたほうが面白いじゃん。いろいろとさ」
「あ、アンタって奴はぁ……。いいわよ、アンタのくれたナイフでまずアンタを叩きのめしてやる!」
「うわぁ、唯の鬼〜!鬼ババァ〜!!」
「誰がオニババだぁ!」
結局この二人がどんなにシリアスな話をしていようと最終的には漫才のオチのようになってしまうのはもうお約束のようなものだった。