第三幕〜はじめてのコンビニ〜
「うぉ、何だ急に明るくなってきたな」
一時間程歩いた頃、影丸が眩しそうに顔を手で覆った。
「影丸ってコンビニも知らないの?」
「こんびに?あれが『こんびに』なのか。何でも売ってる店屋なんでしょ?」
「まぁ、あながち間違いじゃないかな。せっかくだから少し寄っていこうよ。あたしお腹空いちゃったよ」
唯は女友達とお昼にハンバーガーを食べて以来何も口にしていなかったため、すっかりお腹は大合唱をしていた。影丸も初めて見るコンビニに好奇心がうずくようで、二つ返事で了承した。
「テンション上がりすぎてうっかりオイラに話しかけるなよ。他の人にオイラは見えないんだ」
「大丈夫だよ」
唯は影丸の了承が取れると、一目散にコンビニの中に入っていった。
「いらっしゃいませ、こんばんは〜」
どう見てもアルバイトな店員がその場限りの愛想を唯達に向ける。
「さぁ〜て、何を買おうかな」
唯はルンルン気分でコンビニの中を歩き回った。
アイスクリームはこの時期放っておけないし、じゃがりこなんかも二人以上で食べるのに向いている。しかしお腹がすいているのも事実だからもうちょっとお腹に溜まるものも食べたいし…。
「あぁ、どれにしようか迷うなぁ」
唯はまるでコンビニ内の商品を物色するかのように手にとっては棚に戻した。同じコンビニでも、地域によって違うものがおいてあったりすることもある。唯はそういうものを見つけるのが大好きだった。
結局、唯はサンドイッチとホットドック、それと影丸と一緒に食べられるようにじゃがりことアイスを買った。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ〜」
やっぱりその場限りの愛想を向ける店員から食料の入った袋をもらうと、唯が満足そうに店を出ようとした。
「きゃあああ!!」
しかし突然コンビニ内に悲鳴が上がる。
「な、なに?」
唯は外に出ようとする足を止め、後ろを振り返る。すると、どうしたことだろうか。さっきまで棚に綺麗に並んでいたお菓子コーナーのお菓子の幾つかがふわふわとコンビニ内を走るように浮き上がっていた。
「きゃあああ!」
「な、何だこれぇ!」
コンビニにいる客はあまりの気味悪さに逃げ惑う。
店員も店員で走り回るお菓子を捕まえようとするというよりかは、あまりの気味の悪さに逃げ回っているだけだった。
「ちょ、まさかコレ…」
唯の首筋辺りからいやな汗が滲む。
「アッハッハッハ!そぉ〜れそれ!楽しーなぁ!」
唯が少し視線を動かした先には、お菓子を持ちながら走り回っている影丸。
(やっぱりあいつか…)
唯はやってられないといった表情でため息をついた。
「見てみて〜唯!コンビニってすっごい楽しいところだね」
「もうバカ!何はた迷惑なことしてるのよ!」
「え〜、何でってそりゃ幽霊だからお約束として……」
「あ〜も〜!とにかく出るよ!!」
唯はこれ以上何を言っても無駄だと悟ると、逃げるように早足でコンビニを出た。
「お、お〜い唯!置いてくなよ〜!」
影丸は遊びの手を止め、先にコンビニを出て行った唯を急いで追いかけた。