第八章 残された希望
旅をする老人は幼子に、この地に眠る神話を聞かせます。幼子が人類に残された最後の希望であることを囁きながら…。
老人は話を終えるとテントの中でゴロリと横になった。
「それで、その女の人はどうなったの?」
幼子が大きな瞳を悲しそうに潤ませて心配そうに尋ねた。
「母親は『謝罪の泉』を見つけたキートン牧師に助けられ、わずかに残った地上の子供たちを救うために残りの人生すべてを捧げたと言う。」
老人はマリアーナに敬意を表するよう胸に手を当てた。
「『謝罪の泉』はどこにあるの?」
幼子の興味は尽きることがない。老人は静かに微笑むと
「今、私たちが向かっているのがその『謝罪の泉』だよ。そこにおまえと同じ年頃の男の子がいる。」
と答えた。幼子は自分と同じ子供に会えると聞いて目を輝かせた。生まれてこの方自分以外の子供を見るのは初めてなのだ。
「どんな子なの?」
老人はふっと笑って幼子の頭を撫でた。
「たぶんおまえが一番会いたがっていた人だよ。人類がいつか神々に罪を許された時、辿り着くだろうと言われた『約束の地』もそこにある。」
老人の言葉に幼子は不思議そうな顔をした。次第に旅の疲れが出てきたのか、テントで横になっていた子供の瞼がだんだんと重たくなってきた。老人は幼子の頭から重いフードを払ってやると、愛らしい少女の寝顔を見つめた。柔らかな明るい色の髪、南国の海を映した鮮やかな緑の瞳。まるで懐かしい誰かを思い起こさせるような・・・。
「おやすみ、イヴ。」
子供が寝静まったのを確認した老人は体を起こし、分厚いフードをはらうと天空に昇る黄金の月を仰いだ。
「人間と神々が再び同じ世界で暮らせるかは、おまえたち次第だ。・・・この世で最後の子供たちよ。」
老人の長い白髪が砂漠を渡る強い風に吹かれなびいている。痩せて年老いてはいたが、その姿はどこか神々しささえ感じさせた。―地上で最後の少年と出会うために『約束の地』を目指すこと、それがこの二人が広大な死の砂漠を旅する本当の理由だったのだ。