第一章 二人の旅人
広大な砂漠の大地を旅する老人が幼子に聞かせた神話とは…。
無限に広がる砂漠地帯。漆黒の空には巨大な月が金色に輝いている。ふと気付くと、砂漠を旅する白髪の老人と七歳になったばかりの幼い子供の姿があった。昼間の灼熱地獄とは逆転して夜は身も凍りつくような寒さだ。この厳しい環境の中を体力の無い幼子や老人が旅するのはむしろ自殺行為とも言えた。しかし、長い白髪の老人の目にも幼子の瞳にも決して絶望の色は見えなかった。いったいこの広大な砂漠を越え何を目指そうと言うのだろうか・・・。
旅の疲れが出たのか、顎に伸びた長い白髭を撫でながら老人が突然ピタリと足を止めた。それに気が付いた幼い子供も老人を振り返って足を止めた。大気がよほど澄んでいるのか、風も無く黄金の月がやけにはっきりと見える。老人は連れていたラクダから荷物を降ろすと、砂丘の窪みに小さなテントを張った。
「もうだいぶ夜も更けて来た。今日はここで休もう。」
その言葉を待っていたのか、幼子は嬉しそうにテントの中に滑り込むと愛らしい笑い声をあげて老人に語りかけた。
「ねえ、おじいちゃん!どうしてこの星は砂ばかりなの?」
「そうだなあ・・・。昔はここの大地も水と森に恵まれた、それは美しい都だったと聞く。だが、ある日の事件をきっかけにこの星はすっかり姿を変えてしまった。今となっては神話と呼ばれるほど、古い古いお話だよ・・・。」
老人は思い出を語るような遠い視線で夜空を見上げると、古くから大地に伝わる『神話』を語り始めた。