痛み映し
ちょっぴり人の中身とか出ます。大したものじゃありませんが、全然駄目だという方のために一応。
痛い。
私はそう思った。
痛い、本当に痛い。
泣きたいほどに、叫びたいほどに、
――――イタイ。
当たり前だ。
だって。
腹部の真ん中に、鋏が刺さってるんだから。
それに。
左目も無い。抉れてどこかに転がっていった。
髪もざんばらに切れた。自慢の黒髪だったのに。
どうしてこうなったんだろう。
――そうだ、私の所為じゃないんだ。
“あいつ”が悪い。
“あいつ”が悪い。
“あいつ”の所為だ。
何だか“あいつ”は、好きな人にふられただとか訳の解らない言葉を叫んでた。
ようは“あいつ”が癇癪をおこし、私に八つ当たりをしただけなのだ。
私は何も、していないのに。
いつも一緒にいたのに。
いつも見守っていてあげたのに。
なんで、こんな事をするんだ。
許せない。
許したくない。
許せるわけが無い。
そうだ。
同じ目にあわせてやればいいんだ。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、――――イタイ。
そんな目に。
泣いても叫んでも許さない。
そうだ。そうしよう。
では、始めようか。
*****
私はまず、“あいつ”のいる部屋へと歩いて行った。
そっと音を立てないようにして、ドアを押し開ける。
これはかなりの重労働だった。
私は普段、ドアを開けたりしないからだ。というより、出来ないから、か。
知らなかった。ドアノブを回すのがこんなに大変だったとは。
ドアを開いて部屋の中へ入った時には、もうすっかり疲れていた。
軽く息を吐いた。
一瞬、もう諦めてしまおうかという気になったが、思い直す。
駄目だ、それでは私の気持ちが治まらない。
私はベッドへと、無事な右目を向けた。
“あいつ”はよく寝ている。幸せそうに、ぐっすりと。
――良かった。
今が夜で。
昼だと“あいつ”も起きていただろうから、暴れられたりして大変だったに違いない。
私は再度、軽く息を吐いた。
さぁ、ぼんやりとしている暇はない。時間には限りがあるのだから。
私はまず、“あいつ”の体を抑え付けた。その為の道具はちゃんと持ってきていた。近くにあった箱の中に、沢山入っていた。
少しの時と手間をかけ、“あいつ”の体を抑え付ける事に成功した。
最初“あいつ”何かを叫んだが、無視した。それに、すぐに静かになった。
加えて、何だか液体が流れ始めたが、私の知った事ではない。その液体は、私にはないモノだから。
意味なんて理解しない。
そしてようやく、始める事が出来た。
手順と行為は、“あいつ”が私にしたのと同じにすると決めていた。
まず私は、“あいつ”の左目に人差し指を根元まで差し込んだ。
一気にめり込ませる。
ぐちゅり。
指は簡単に眼窩に潜り込み、ついで音がして、眼球が呆気なく潰れた。
どうしてだろう。
私の眼球は硬くて、潰れる事なく取り出されたのに。
首を傾げた。
まぁいいだろう。私と“あいつ”は違うのだと、ただそれだけだ。
次に私は、“あいつ”の腹に鋏を押し込んだ。
この鋏は、私に“あいつ”が差し込んだモノだ。折角だから、再利用させてもらった。
ずぶり、とゆっくり飲み込まれていった。
意外に柔らかい。
ついで、鋏を強く握って、ぐっと捻った。
鋏は回る。
周りの肉を次々と巻き込んで。
桃色の濡れた何かがでろりとはみ出た。
瞬く間に、流出した液体が“あいつ”とその周囲を紅に染め上げていく。
ああ。
私と“あいつ”の体の作りは全然違うんだな。
私の体は、液体は流れず、柔らかくもなく、暖かくもない。
私は最後に、“あいつ”の腹に刺した鋏を引き抜いた。赤い液体が糸を引いた。
そして、“あいつ”の髪をばらばらに切り刻んでいった。
ちょきちょきと、鋏の刃がかみ合う金属音が静寂に響く。
黒い糸を無造作に散らしていく。ぱらぱらと。
糸屑が無数に出来た。汚い。というより、汚らわしい。
そして“あいつ”は、私と同じ姿形になった。
私は満足した。
これでいい。
“あいつ”も思い知っただろう。
モノを傷付ける事の恐怖を。自分が傷付けられる事の苦痛を。
そうだ、私は悪くない。
私は“あいつ”がしたのと同様の事をしただけだ。
“あいつ”が許されているなら、私だって許される。
満たされた私はゆっくりと、眠りに落ちていった。
**********
次の日。
少女が一人、自室で死んでいた。
少女の両手両足には、大量の釘が打ち込まれていた。貫通した釘は、ベッドに少女の体を磔にしていた。
喉元にも同様に釘が刺さっていた。これが死因ではないかと推測された。
また、真意は不明だが、少女の左目が抉り取られており、そして髪も切り刻まれていたという。
さらに少女の腹部には、刃物を差し込まれてかき混ぜられたような痕が残っていた。
ベッドの上に血の付着した鋏があった為、これが凶器だという事になった。
目撃者はなし。証拠すらも、何一つ発見されなかった。
最終的には、迷宮入りしそうであった。
ただ――――
不可解な事に、少女の傍らには、一体の人形が落ちていた。
とても可愛らしい、女の子の人形であった。
少女と全く同じような姿で、倒れていた。




